中国政府が9月19日に公表した「進一歩推進戸籍制度改革実施意見」により、今後、全国31省は各自の改革案を策定することになる。農業戸籍は解消され、半世紀以上に及んだ「城里人」(都市住民)と「郷下人」(地方住民)の「二元戸籍制度」は歴史の舞台から退出すると報じられた。地方紙の記事はこれに解説を加えている。

農民の権利と都市の福利

2014年7月の国務院「進一歩推進戸籍制度改革に関する意見」により、城里と郷下の戸籍制度を統一する方向が示されていた。既に北京、上海、湖南省などは改革案を提出している。

農業戸籍と非農業戸籍との分離は1958年から始まった。このとき農業戸籍者の主要権益は、農地と農家の経営にあり、非農業戸籍者の主要権益は社会福利、教育、医療、就業、保険、住宅などにあるとされた。つまり後者の項目は農業戸籍者には必要ないとされたわけである。

農村問題研究家のハルビン工業大学教授は、今回の制度改革は農村を否定するものではなく、農村の権利に影響を与えるものでもない。農業戸籍身分の全面取消は、国民を統一し、社会管理機能の一体化、公共サービスの均等化を図るものだと指摘している。しかし農業戸籍者は9億人ともいわれ、均等化のコストはどうするのだろうか。

都市への流入加速、農村にチャンスも

北京、上海などの改革案では、戸籍統一後、教育、衛生計画出産、就業、社会保険、不動産、人口統計など制度を統一するとなっている。ただし口でいうほど簡単ではない。供給水準が全く違い、都市側の負担は大きい。

武漢大学社会学教授は、統一後はむしろ農村の方が、含金量は多い(価値が高い)だろうと指摘する。大都市の土地価格が高騰する中、農村の土地の潜在収益力が見直されるという見解である。

第18回党大会で示されたように、戸籍制度の改革と、秩序を保った農村人口の都市移転が重要である。そして彼らを全公共サービスの網でもらさぬよう努力する。しかし、都市には教育や医療の資源は不足している上、部屋や仕事など生活の基本手段が得られるか、現実をよく見極めてほしいと農民に呼びかけている。

とはいえ都市住民が農村へ行って起業、というような逆城鎮化の流れはなく、都市流入は避けられない。

理想のバランスとは

中国社会科学院の発布した「中国農業転移人口市民化進程報告」の見積もりでは、農民の都市民化には1人当たり13万元が必要、とされている。東部17万6000元、中部10万4000元、西部10万6000元である。その約9億人分である。

したがってこの莫大なコストが経済発展の阻害要因ともなりかねない。報道は、都市、農村とも社会政策の支出がかさむ。そのためには体制の健全化が必要と強調している。

中国の農村は山奥を除けば、人口密度の高い農業都市のような地区も多く、元々都市民としての素養は持っている。生活力は旺盛すぎるほどある。

問題は記事の指摘する通り、体制の健全化だ。不動産の乱開発同様、予算を浪費される可能性は高い。さらに田舎者とみるとだまさずにはおかない都市住民の悪しき伝統も健在である。

当面、農民の一次転移先となりそうな地方の大・中都市では、莫大な公的支出を巡り、修羅場が展開されそうだ。いつもの中国と変わらない光景である。(高野悠介、中国貿易コンサルタント)

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