失業率,家計,貯蓄
(写真=Thinkstock/Getty Images)

3.5%が日本の自然失業率とされ、失業率がこれを下回ると賃金上昇が加速し、物価上昇も加速していくと言われてきた。失業率が示す労働需給関係で、需給が引き締まれば賃金上昇が起こる市場の「見えざる手」の効果である。

しかし、失業率は既に3%まで低下をしているが、賃金上昇は始まってはいても、加速しているとは言えない。

企業貯蓄は、異常な状態が続く

これは、労働需給が引き締まっても、家計に回ってくる富が存在しなければ、賃金上昇は強くならないことを意味している。日本経済の大きな問題は、マイナスであるべき企業貯蓄率が恒常的なプラスの異常な状態が継続している。企業のデレバレッジや弱いリスクテイク力、そしてリストラが、総需要を破壊する力となり、内需低迷とデフレの長期化の原因になっていることだと考えられる。

そして、恒常的なプラスとなっている企業貯蓄率に対して、マイナス(赤字)である財政収支が相殺している程度であり、財政拡大が不十分で、企業貯蓄率と財政赤字の合計である国内のネットの資金需要(マイナスが強い)が消滅してしまっていた。国内の資金需要・総需要を生み出す力、資金が循環し貨幣経済が拡大する力が喪失していたのだ。

企業貯蓄率と財政収支の和であるネットの資金需要は、企業と政府が支出する力を意味する。

賃金上昇が加速しない原因は?

企業活動が活性化するとともに、財政支出も増えれば、これらの支出は所得となるため、富が家計に移転しやすくなり、賃金も上昇しやすくなる。2011年ごろまで、ネットの資金需要は消滅しており、家計への富の移転は見られず、総賃金(すべての雇用者の賃金の合計)は縮小傾向にあった。

一方、2013年のアベノミクスの開始を経て、ネットの資金需要はGDP対比‐3%程度まで拡大し、労働需給の引き締まりと合わせ、総賃金を拡大し始めた。2012年までの5年間、総賃金の伸び率の平均は年-0.6%であったが、2013年以降の平均は同+1.5%となっている。

しかし、2014年以降、ネットの資金需要は縮小を始め、2015年には再び消滅してしまった。これが、失業率の低下が加速しても、賃金上昇に加速が見られない原因となっていると考えられる。