ドイツ銀行の課題3:収益に逆風吹き荒れる
◆国内は構造問題にマイナス金利が拍車
ドイツ銀行の収益構造は、国内の商業銀行の割合が12%と非常に低いのが特徴である(図表9)。これに対し、トレーディングと法人営業が合算で57%を占める。資産運用管理や郵便貯金のウェイトが増えているものの、依然収益のボラティリティが高い事業モデルである。
割合は小さいとはいえ、国内商業銀行業務は本丸である。しかしこの分野では、過当競争にマイナス金利が拍車をかける。欧州の中でも、ドイツは日本以上に金融市場が分散しており、その分競争が激しく利鞘が低い(図表10)。
このような環境が、ドイツの銀行の海外進出や投資銀行業務などへの傾注を後押ししたと考えられる。しかも、近年のマイナス金利の影響で、利鞘は更に落ち込む可能性が高い。
◆法人業務やトレーディングはリスクが取りにくい状況
上記の通り、海外の法人業務やトレーディング収益がドイツ銀行の収益の柱である。ところが、ドイツ銀行の場合、資本力に余裕が少ないためリスクが取りにくい。
その上、今年6月の米国ストレステストで、ドイツ銀行の米子会社は、スペインのサンタンデールとともに、資本計画が却下された。しかも、米国では、FRBのタルーロ理事が、大手銀行については今後ストレステストの要件厳格化が必要とも発言している。今後は、米国でのリスクテイクが一層難しくなるだろう。
ドイツ銀行の課題4:「CoCo債」にまつわる2つのリスク
世界の大手銀行は、金融危機後、CoCo(ココ)債()という新しい債券を発行し始めた。これは、会計上は負債だが、厳しい条件を入れることによって規制上は資本にカウントできる特殊な債券である。
()Contingent Convertible Bond、偶発転換社債(文末図表14に主な特徴を記載)
CoCo債は、日本でも、「バンクキャピタル・ファンド」や「ハイブリッド証券ファンド」「CoCo債ファンド」などの投信に組み入れられている。
現在CoCo債の総額は、世界合計で10兆円を超えるとされており、このうち、ドイツ銀行のCoCo債残高は、5,500億円程度となっている(Bloombergデータより)
これらの債券には2段階のリスクがある。①クーポンの支払いが停止してしまうというリスクと、更に、②元本が毀損してしまったり、株式に転換されてしまうというリスクである。今年2月にドイツ銀行株式が下落した時に話題となったのは、このうち、①クーポンの支払停止のリスクである。
ドイツ銀行のCoCo債等の今年のクーポンの支払額は800億円程度と報じられている(7億ユーロ、CoCo債及び同等の債券を含む。このうち4月に支払われた額は3.5億ユーロ)。これに対し、会計ルールで定められた支払原資は、16/6月時点で1,250億円程度である。
一応利益が出ている限り支払いに問題はないが、もし今期も赤字となった場合、来期以降クーポンの支払いが停止する可能性は排除できない。仮にクーポンが停止すると、大手行のCoCo債としては、恐らく初めてのケースとなる。
しかし、このクーポンの支払いは普通の社債の利払いとは異なる。株式配当と同様に、銀行の権利として、一定の条件のもとでは停止できる、と定められているものだ。このため、CoCo債のクーポン支払いを止めても、その銀行が法的に倒産するわけでもないし、普通の社債の利払いが止まるわけでもない。
かつて日本でも、類似の古い証券(OPCO(オプコ)と呼ばれていた優先出資証券)について、旧UFJ(現在MUFG)やりそながクーポンの支払いを停止したことがあった。しかし、いずれも普通社債の利払いは継続していたし、今でも健全に経営を続けている。
②の債券元本の毀損または株式転換は、資本比率が一定水準を割り込むか(そのトリガーは5.125%が一般的)、公的資金が注入される時に発生する。
ドイツ銀行の場合、資本は堅固とは言えないが、トリガーまでは5%ポイント=2兆円以上の余裕があるので、こちらはひとまず懸念事項ではない。しかも、ドイツ銀行のCoCo債には、復活条項が付されており、一旦元本が毀損しても、銀行の裁量で再び元本を復活させることができる。
①が発生した場合のリスクとしては、ヘッドラインリスクとともに、今後のさまざまな債券発行コストの上昇、他の銀行の類似の債券発行条件への影響、組み入れているバンクキャピタル・ファンドの基準価格の下落などである。このため、邦銀や日本の投資商品に対する影響もゼロではない。