いわずと知れた話だが、人が生きていくためには、お金が必要である。

では、そのお金が何なのかといえば、実は単なる媒介に過ぎない。お金とは、「価値」を表したものであり、その価値を、別の価値を持つ商品やサービスと交換する際に必要とされる、ただのツールにすぎない。

サラリーマンは時間と引き換えに給料を得ている

お金を手に入れる方法の中で、もっとも一般的なのは、どこかの企業に就職して働くことである。総務省統計局が発表した、2016年8月に行った調査によると、日本全国の雇用者数は5722万人である。同年4月の人口統計によると、15歳?64歳の人口は7660万人とあるから、労働人口のうちの約4分3は、サラリーマンという計算になる。

世間の常識によれば、サラリーマンとは、自分の労働と引き換えにお金を得る職業であり、普通は「元手がいらない」とされているが、果たしてそうなのだろうか?

実際のところ、サラリーマンは会社にいる間、絶えず価値を生み出し続けているわけではないから、どちらかというと「労働」というよりは、「時間」をお金に換えているといった方が、より事実に近いように思う。

読者の中には、「労働ではなく、能力や技術を売っている」といいたい人もいるかもしれないが、それらを発揮するにも、必ず時間を必要とする。サラリーマンは、確かに「自分」という資本は減らないが、代わりに自分の時間を投入して、お金を得ているのである。

経済活動の原理とは「交換」

預・貯金が『元本保証』ではない2つの理由 」という記事の中で、「元本保証など存在しない」という話を書いた。元本保証が存在しない理由について、詳しくはそちらをご覧いただきたい。

日本人の多くが、元本保証を信じているわけは、「サラリーマン稼業は元手がいらない」と誤解されていることが、一因なのではないかと筆者は考えている。

お金の本質が「価値と価値との交換」である以上、何かを得るためには、必ず何かを差し出さねばならない(trade-off)という事実を、忘れないでいただきたい。

あなたは何を差し出しているのか?

「価値の交換」という観点から見た場合、銀行預金の元本保証とは、安心と引き換えに、利息がほぼゼロという状態を「甘んじて受け入れている」ということである。

銀行自体は、我々が預けているお金を、他に貸し出すことによって利益を得ているが、それらは口座維持手数料や元本保証費用などに使われてしまっているため、利息としては、ほとんど受けとることができない。「安心」とは、一種のコストなのである。

その安心にも見方によっては疑問符がつく。ペイオフ制度により1000万円までの預金は保護されることになっているが、同じ預金でも外貨預金は対象外であることをご存知ない方は多い。また、一定の保護は額面の数字だけで、一番大切な価値は保護されない。政府目標である物価上昇率2%に対して、平均賃金はここ20年近く低迷している。

このように、「保証の対象と範囲はどこなのか?」ということ、世の中の経済活動は常に「価値と交換の原則」が働いているということを、まずは理解することが大切である。それらを常に念頭に置いておけば、新しい選択肢が見えてくるのではないだろうか。

俣野成敏 (またの なるとし)
1993年、シチズン時計株式会社入社。31歳でメーカー直販在庫処分店を社内起業。年商14億円企業に育てる。33歳でグループ約130社の現役最年少の役員に抜擢され、40歳で本社召還、史上最年少の上級顧問に就任。『プロフェッショナルサラリーマン』(プレジデント社)や『一流の人はなぜそこまで◯◯にこだわるのか?』(クロスメディア・パブリッシング)のシリーズが共に10万部超のベストセラーに。2012 年に独立。複数の事業経営や投資活動の傍ら、「お金・時間・場所」に自由なサラリーマンの育成にも力を注ぐ。

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