「ビジュアル化」の技術で発想しやすい状態を作る
ただし、これはまだ「発想」の段階ではないと佐藤氏は話す。
「ビジュアル化することで、発想が出やすい状態にする。いわば、考える手前の作業です。その先の『発想法』は、プロジェクトごとにそれぞれで、偶発的に出てくることもあります。ただ、自分が最も発想しやすい状態を作ることまでは、技術やスキルで可能になると考えています。
発想そのものの打率を上げることはできなくても、少しでも良い状態で打席を迎えることはできるわけです。ビジュアル化もその技術の一つ。そうして思考を深めていくうちに課題が見えてくるのです」
最近では、個別のプロダクトを手がけるだけでなく、企業のブランドコンセプト作りから携わる機会も多い佐藤氏。その際も、「ビジュアル化」が企業経営に与える効果を実感している。
「ブランド作りは、概念をいかに具体化できるかという作業です。社長の考えや会社の雰囲気など、そのままだと見えないものを『ビジュアル化』することで、その会社の全員が『うちの会社はこうだったのか』と理解できるようにする。そして、それを形にしていくのがデザイナーの仕事だと思っています。
ですから、デザインはエンドユーザーに向けた効果だけでなく、社内のインナーブランディングにも大きな影響を与えます。1つの商品やロゴをデザインすることで、会社の空気感がガラリと変わったり、社内の士気が高まったりする。それはすべて、今までぼんやりとしていた課題を『ビジュアル化』した結果、人に伝わりやすくなったからだと思います。
たとえば、医療でも症状を治療するには、その前段階で『ビジュアル化』が必要だと思います。検査をして情報をスキャニングしたり、データを拾ったりして視覚化しないと、なぜその病気が発症するのかわからないし、解決策も出てこない。やはりどんな問題も、解決するには『ビジュアル化』が欠かせないのではないでしょうか。そう考えると、デザインの力はどの仕事にも役立つように感じます」