課題を与えられたら疑うことから始める

こうしてビジュアル化をしたら、いよいよクライアントから投げられる課題と対決することになる。だが佐藤氏のやり方は、通常の「問題解決」のプロセスとはまったく異なっている。

「クライアントに課題を与えられたら、まずはそれを疑うところから始めます。『その課題を解決することが、本当にこの会社にメリットがあるのか?』と。そして『なぜ、この課題が出てきたのですか?』と聞いてみる。すると『実はその前にこんなことがあって』『えっ、それはどうして起こったんですか?』という会話になり、議論はどんどん遡さかのぼります。課題を与えられるたび、2~3歩下がる感じですね。そうやって下がれば下がるほど、本当の課題が見えてくるのです。

これってラグビーによく似ているな、と思います。後ろにしかパスを出さないのに、結果的にボールは前に進んで、最後はゴールに到達して点を取る。あの『後ろ向きな前進』は、デザインによく似ていると感じます」

たとえば、エステーの『自動でシュパッと消臭プラグ』という商品を手がけたときも、最初は「既存製品をベースに外装だけデザインしてほしい」との依頼だった。だが、佐藤氏は課題を疑うところから始め、商品のコンパクト化とコスト削減を実現。売上げは半年で前年比2倍になったという。

「この課題をいただいたときも、『本当に外側だけ変えればいいのかな。できないと思って、諦めてしまっていることはないのかな?』と疑ってみました。そして技術者の方たちに話を聞いて、2歩、3歩と下がるうちに、『ケーブルの位置を少し変えるだけで、コストを下げたり、サイズを小さくできるのでは?』という課題に辿り着いた。

最初は『時間がないので、今回は外装だけでいい』と言っていたクライアントも、『それならできるかもしれない』と変化していきました。こうして『ビジュアル化』を通じて課題を共有することで、『一緒にやりましょう!』という空気が生まれ、あとは一気に前進してゴールに到達できたのです。

だから本当は、問題を解決することより、『課題をどう発見するか』のほうが重要なんです。課題さえ見つけられれば、あとは出題者が問題を解くようなものだから、必ず答えを出すことができます」