大連万達集団の王健林会長は、2015年にアジア最大の大富豪となった。この年“アジア最高のCEO”“ゼロから起業した世界10位の資産家”などに選出されている。不動産業で財を成した実業家だが、収蔵家、慈善家の顔も合わせ持つ。手広く何でもやりたがるタイプである。

その彼がこのところ力を入れているのは映画産業である。

映画産業への投資

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(写真=PIXTA)

万達集団は2012年、米国の映画館運営大手AMCエンターテインメントを26億ドルで買収した。今年に入ってから動きは急加速する。1月には映画「GODZILLA」を製作した米国のレジェンダリー・エンターテインメントを35億ドルで買収、3月には映画館運営のカーマイク・シネマを11億ドルで買収した。

7月には世界第2位の映画データベース企業、Mtime社を3.5億ドルで買収するとともに、欧州最大級の映画館運営会社、オデオン&ユーシーアイ・シネマグループを9.2億ポンドで買収することも発表している。

さらに9月にはソニー・ピクチャーズと提携した。製作も配給も抑え、世界のエンターテインメント界のリーダーにという意図は明白だ。

その王董事長は10月19日、ロサンゼルスで開催した「万達集団映画サミット」において、今後の映画界の見通し、方針について語った。

世界の映画市場の40~50%をおさえる?

今年の中国市場における映画チケット売上は70~80億米ドル、前年比5~10%の伸び、と見込まれる。増加のスピードは鈍ったとはいえ、2年後の2018年には中国の映画市場は100億ドルを超え、北米の市場規模に迫る。

さらに10年後には300億ドルに達し、全世界の映画チケット売上の40~50%を占めるだろう。

そのためには毎年15%の成長を必要とするが、今年は5~10%に鈍化している。

しかしこれは2005~2015年まで、毎年30%という超高速成長だったため、今年は踊り場にあるのだ。心配することは何もなく、来年からは再び15%成長に戻る。

その根拠は、米国は人口3億人でスクリーン数は4万、100万人当たり130の設備がある。中国は今年8000枚増加し、米国とほぼ同じ枚数になる。

人口規模からいって将来的に14~15万枚、米国の3.5倍までのキャパシティはあるというだけだ。楽観的算術でしかないように見える。投資は回収できるのだろうか。

山東省・青島市を「映画の都」に

このサミットには、傘下の米レジェンダリー社を始め、9社の米国映画製作会社が招待されていた。王董事長は彼らに対し、山東省・青島市での撮影を呼びかけた。

沿岸の風光明媚な青島市は「東方影視之都」を掲げている。同市黄島区を上海・浦東新区を嚆矢とする「国家級新区」に格上げし、大映画撮影所の建設を進めている。新区の目玉事業としてその投資額は500億元以上に上る。今年6月には毎年10億元を募集する投資信託まで設定した。

この撮影所は世界最大規模にして“内容最善”であり、第一期だけで30の撮影スタジオを建設する。合計1万平米を超え、中には世界唯一の固定水中撮影設備もある。2000席の劇場も併設し、映画の発表会も是非どうぞ、とアピールしている。

しかし映画撮影のCG化、ロケ―ション化の進展によって、すでにハリウッドは地盤沈下している。この撮影所もいきなり時代遅れになる恐れはないのだろうか。

いずれにしろ王健林会長、青島市政府とも、もはや後戻りできない賭けに打って出た。ここしばらくの推移を見逃すことはできない。(高野悠介、中国貿易コンサルタント)

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