中国人は他人を信用しない分、逆に一族など身内に対する警戒心を欠いている。詐欺師の活躍する余地は十、というより間違いなく世界一の市場だろう。中でも歴史の浅い株式市場を巡る詐欺は、未開発の分野だ。
北京・山東省を拠点とする全国規模のネット詐欺団が摘発された。株式教室をうたう手口で、被害者は3万5000人、被害金額は判明しただけで4億元(62億円)である。
歴史の浅い株式市場
複雑で変化の激しい株式市場を把握するのは困難だ。儲けた人はさらにそれを拡大しようとし、損をした人は挽回しようとする。そんなとき、「操作の簡単なネット証券があります。有名な“大師”の指導のもとローリスク、ハイリターンを実現させてご覧に入れます。時は金成り。これは夢ではありません。と耳元でささやかれたらあなたはどうしますか?」 記事はこのように始まっている。
深セン市在住のH女史は、旧友からXXネットの運営する株式教室を勧められた。そこで大師と呼ばれる分析師(アナリスト)の話を聞くことがルーティンとなった。そして“徳豊国際株式投資機構”への投資を勧められる。海外市場に上場している会社で、大きな値上がり益を期待できるという。
後に告白しているが、H女史は株式市場のことなど半分もわかっていなかった。巨大な利益という誘惑の前に、勧められるまま投資してしまう。アナリストたちは、専用サイトによる取引のためと称し、銀行口座ナンバーを登録させた。そしてまず手始めに5万元を投資する。ところが実際には12万元が口座から消えていて、半月後にやっと騙されたとわかった。警察に被害届を出したものの、取り戻したのは5万元だけだった。
分析師(アナリスト)の正体
これらの高いスキルを持つ“分析師”とは何者だろうか。彼らはまずWebサイトを立ち上げる。これは必ず有力な証券会社や投資会社を偽装している。
しかし実態は空売りをしているだけで、中国の合法的な証券取引会社ではない。これらの空売り会社は全国各地に代理店を持ち、QQなどのメールサービスのアドレスを大量に保持している。彼らはこれらを縦横に使いこなす。まずネット上の友達作りから始めて信用させ、株式教室へと誘導していく。有名機関投資家のトレーダーを名乗っていることが多い。
一般的な手口はまず1~2万元投資させ、一定期間は利益を付けておく。もちろん再投資を促すためだ。少し損が出ると取り返したい、という心理にも巧みに付け込む。取引(架空だが)を繰り返しているうち、口座が空になっていく仕組みだ。騙した後のサイトは、もう別のサイトに変っている。
警察への訴え相次ぎ、一斉捜索へ
警察は全く気付いていなかった。2016年4月、深セン市南山公安局分局に被害者からの訴えが相次ぎ、初めて発覚した。内偵捜査の結果、全国組織を持つ、株式専門のネット詐欺集団だった。
警察は専門チームを編成し、8月になって北京、山東、河北、広東など16の拠点を一斉捜索した。これまでに被害者3万5000人、判明した被害金額は4億元、369人が逮捕されている。被害金額はまだまだ増えると見られる。
中国の株式市場は歴史が浅く、博打と変わらない意識を持つ人は多い。日進月歩のネット技術と意識のギャップは大きく、そこに付け込まれた格好だ。この件だけで終わるはずはなく、新時代の始まりを告げただけだろう。中国は上下左右どこを向いても詐欺師だらけというしかない。(高野悠介、中国貿易コンサルタント)