中国人は1980年代までは食うや食わずであった。筆者が中国貿易に関わり始めた1989年当時、最大の経済都市・上海ですら、肥満した人間など一人もいなかった。アバラの浮いた男たちが、だるそうに夕涼みをしていた。忘れられない夏の光景だ。
今の栄養状態は当時に比べれば天地の開きがある。2015年末の調査で18歳以上の肥満率(BMI124以上)は30%を超えた。さらにPM2.5を始めとする、さまざまな危険物質にさらされている。きっと有病率、罹患率とも現在のほうが上ではないだろうか。
目標は世界トップクラスの健康指標
そこで新しい健康作りの指針を国として立てることになった。2030年までに、世界の健康指標ランキングでトップランクに立つことを目指す「健康中国2030規画綱要」がまもなく発表される。
1 人民の健康水準を持続的に上昇させる。2030年の平均寿命79.0歳を目指す。(2015年 76.1歳)
2 健康に対する危険要素をコントロールする。食品・薬品の安全を保障し、“健康生活方式”を全面普及を目指す。
3 健身公共サービス体系の充実を図る。
4 健康産業規模の拡大を促進する。
5 健康制度体系を確立する。
などを骨子としている。
漢方医の育成と医薬品制度の改善
具体的には次のような対策を挙げている。まず伝統中国医学の臨床教育に力を入れることだ。これは漢方薬が有効に作用する病毒の研究、漢方薬と西洋薬の結合強化、漢方医による難病や重症患者の治療、漢方非薬物療法の発展を図る。都市においては中国医学保健サービス体制の確立を期すというものだ。
次が薬品・医療器械の流通体制改革を図るというもの。国家の薬物政策を改善し、食品・医薬品の安全を保障する。ネット流通の規範を作成し、流通ルートの多様化を図る。
そして基本的薬物制度を改革するという内容も盛り込まれている。たとえば特殊患者に対する基本的薬物保障の推進、無料医薬品政策の改善を行う。エイズ患者、幼児患者への無料供給、ハンセン病患者への供給保障を行う--となっている。
一方で価格競争の十分でない医薬品や、あまりに高額な機器や材料には、価格の監視を行う。価格情報の公開制度も計画中で、薬の総合評価体系を確立する。
既得権益層に阻まれる欧米の薬品
おりしも米国薬品研究及び製造商協会(PHRMA)の主席執行官、ステイ-ブ・ロンバー氏が北京を訪問し、医療関係の各方面と会談を行った。同氏はこうした接触の中で、欧米医薬品業界の“重大決心”を伝えている。見出しは“薬価談判”となっている。
中国の薬価構成には、病院マージン15%、問屋マージン15%、増値税17%、関税5%が含まれている。英国なら関税8%と問屋マージン2%だけである。強力な既得権益層が輸入医薬品の市場拡大を阻んでいるのは明らかだ。
また欧米薬品企業は、中国に49の生産基地、31の研究開発センターを作り、これまで90億元に上る投資を行った。ところが現状、研究ー生産ー販売の連鎖がうまく機能していない。
医者による処方薬は別として、中国の薬局では有力チェーンでさえ欧米の有名市販薬は、まず置いていない。欧米薬品メーカーにとってこれ以上の市場は残されていない。
しかし強大な既得権益者の多い中国医薬品業界の改革は果たして可能なのか。健康中国2030計画が、ここで絵に描いた餅で終わってしまう可能性は十分ありそうである。(高野悠介、中国貿易コンサルタント)
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