年金という制度は、実に複雑なものである。加えて、人により支給額が異なっていたりと、不公平なイメージを持っている方もいるだろう。
学校などで、年金についての授業が行われるわけでもなく、「20歳になると国民年金を納めなくてはいけない」という事実のみ、突きつけられるというのが現状だ。加えて、年金に纏わるネガティブなニュースは後を絶たない。いくらもらえるのかもわからないものを、強制的に払わされているという不安感もあるだろう。
今回は、そのような不透明感や不安を少しでも和らげるために、年金についての基本的な部分を網羅していきたい。とりわけ、全国民が加入義務のある国民年金について理解を深めてもらえるよう、基本的な部分から解説していきたい。
基礎年金とは
年金には多くの種類が存在するが、 一番身近なものに国民年金がある。先に「年金は複雑」と言ったが他の年金制度と比べると、国民年金はシンプルな仕組みであると言えるだろう。
20歳以上60歳未満の国民全員が加入する国民年金。それを基礎年金と呼び、年金の「1階部分」と表現される。それに対し、企業に勤めている方が加入する厚生年金や共済年金は同じ「公的年金」という分類だが、「2階部分」と呼ばれる。言い換えれば、基礎年金のさらに上に位置する年金制度である。さらに、企業年金制度と呼ばれる厚生年金基金などは「3階部分」にあたり、私的年金と分類されている。
「階」という表現でわかるように、いきなり「2階」「3階」の部分を支払うということはできない。1階の上に2階、2階の上に3階を上乗せしていくイメージである。国民年金が「老齢基礎年金」と呼ばれるのは、こうした理由からである。厚生年金は老齢厚生年金という言葉が用いられる。
では、基礎年金とはどういうものなのか、もう少し詳しく見ていこう。
ご存知の方も多いかもしれないが国民年金は、全国民が同じ金額の保険料を納めている。年々保険料は上昇してきたが今年2016年は、1万6260円と決まっており、来年2017年9月以降は固定されることが決まっている。
金額が同じということは、支給される金額も基本一律であるのが特徴である。国民年金の支給額の決定は、所得などに関係なく「期間」で決まる。従来までは最低25年保険料を納めることが受給の要件であったが、その期間を来年2017年10月から10年に引き下げることが決まった。それにより、従来年金受給の対象外であった方も支給される可能性が出てきた。
基礎年金の仕組み
基礎年金(国民年金)の仕組みを理解する上で「世代間」という言葉の理解が必要である。現役世代の支払っている保険料は、今の年金受給者に割り当てられている。つまり、我々が年金を受給する際にはその時の現役世代の人たちによって年金が賄われるということだ。
自身のためにお金を積み立てているというよりは、今の支給対象者を支えているとも言えるだろう。しかしながら、自分のお金にならないなら払わない、ということはできない。なぜなら、それでは自身が年金を受け取ることができなくなってしまうからだ。捉え方にもよるが、これが基礎年金の仕組みである。
「年金は老後に受け取るもの」というイメージを持っている方が多いかもしれない。それは確かに間違いではない。老後に支給される年金を「老齢基礎年金」という。
実はそれ以外にも、病気や怪我により障害を負ってしまった際に支給される「障害基礎年金」や、被保険者がなくなった場合に支給される「遺族基礎年金」「寡婦年金」「死亡一時金」なども国民年金制度には存在するのだ。
基礎年金の受給開始時期
では次に、年金を受給するためにはどの要件が必要なのか、いったいいくらの年金を受け取ることができるのかについて見ていこう。
まず、当然ながら国民年金の保険料を納めていな人は対象外である。先ほど説明したように、現状では25年2017年10月からは10年間の納付期間がある方が対象となる。20歳から60歳になるまで納め続けた方が、満額の支給が行われることになる。
また、一定の年齢に達すれば誰でも自動的に年金を受け取ることができるわけではない。支給年齢に達すると支給開始年齢に到達する3か月前に「年金請求書」という書類が、日本年金機構から送付される。
氏名、生年月日、基礎年金番号、性別、住所などの基本的な情報と年金の加入記録が記載されている。それに加え、受取先金融機関の通帳、印鑑などを年金事務所に持参し、手続きすることで初めて支給されることになる。
支給が開始される年齢は、現在原則65歳となっているが、60歳から70歳までの間で受け取る時期を選択することが可能だ。ただし、60歳からの支給の場合には、年単位での支給額は減り、遅らせた場合には増えるということになる。また、先述したように基礎年金(国民年金)は、納付期間によって金額が変わってくる。2016年の満額は78万100円である。しかし、加入期間が短い場合、保険料の免除などを受けていた場合には満額とはならないので注意してほしい。
基礎年金の計算方法
計算式は以下のようになる。
78万100円 × (保険料納付済み期間(月) + 免除月(※)) ÷ 480か月(40年)
満額は、毎年変更されることに加え免除月(※)によって金額が変わることになるので、注意したい。
免除月は「全額免除の月数 × 8分の4」など、各個人によって計算式は異なる。日本年金機構のホームページに詳しい計算方法の記載があるので、正確な金額を算出したい場合には参考にしてほしい。
年金受給の繰り下げの是非
年金受給の時期が選択できるというのは、難しい問題である。
現状では、65歳未満での受給を開始した場合にはかなりの減額率が適用されることになっている。例えば、60歳0か月の時点から受給を開始した場合には、30.0%もの減額率になっている。つまり、年額54万6070円ということになる。
一方、70歳まで支給を繰り下げた場合はどうだろうか。実は、70歳0か月からの支給とした場合には、42.0%の料率が加算されるのだ。つまり、110万7742円ということになる。
仮に80歳まで年金を受給した場合、前者では総支給額1092万1400円なのに対し、後者では1107万7420円と15万6020円もの差が生まれることとなる。90歳までの受給であれば、前者が1638万2100円、後者が2215万4840円、差額は577万2740円にまで拡大する。
これらを単純に金額だけで比較した場合、繰り下げで受給をした方がお得なのは言うまでもない。つまり、国民年金を最も多くもらうためには以下の要件が必要だと言えるだろう。
- 加入期間が40年(480か月)であり、満額支給であること
- 70歳から繰り下げ受給にすること
- できる限り長生きをすること
しかしながら、自身の寿命を把握することはできない点、60歳で定年となってしまった場合などには生活費が必要となる点を考えると、自身の貯蓄額や、将来設計を総合的に判断し、支給開始年齢を考えていく必要があると言えるだろう。
基礎年金拠出金の仕組み
ここまで国民年金の話をしてきたが、多くの方はそれ以外に厚生年金や共済年金に加入しているだろう。では、基礎年金拠出金という言葉を聞いたことがあるだろうか。
厚生年金保険は、はじめに説明したように2階部分の年金制度である。会社員の場合、国民年金を支払っていることを意識していない方もいるかもしれないが、実は厚生年金保険料を納めているということは国民年金保険料も納めていることになっているのだ。また、配偶者が扶養に入っている場合には、その配偶者の国民年金保険料も納められている。
厚生年金の財源としては、支払う保険料に加えて国庫負担分がある。さらに、厚生年金の負担は事業者(会社)と折半である。
まず、年金支給に必要な総額を計算し、その3分の1を国庫負担としている。残りの金額を国民年金加入者数で割り、負担額を決定する。ここでは、免除者や未納者は除外される。その金額を、厚生年金というかたちで被保険者が保険料として納めるのである。それを基礎年金拠出金と言う。
つまり、国民年金未納者や免除者の負担を、厚生年金の被保険者が賄っているということになるのだ。これらの考え方が、年金制度をより複雑に感じさせてしまっている原因かもしれない。
なかなか気づかない?年金の注意点
では、最後に年金における注意点をいくつか紹介していく。
まず、自分の将来に年金をもらえるかという議論もあるが、「一定の納付期間」がないものは、年金の支給対象にならないという現実がある。つまり、保険料を納めていなければ、そもそも「支給の対象ではない」ということである。支払いが困難な場合には、免除制度や猶予制度なども用意されている。自身の加入期間を確認し、まずは確実に要件を満たすことが最低条件となるだろう。
また、今までの期間で未納期間がある場合には「追納」が可能である。条件を満たすためにも、今からでも追納するということも選択肢である。追納をする場合には、年金事務所への申請が必要となる。追納により、所得税、住民税が軽減されるというメリットもあるので、ぜひ検討してほしい。
繰り返しになるが、受給を開始するためには申請が必須である。申請をしなかった場合には、今まで納めてきた保険料が「寄付」で終わってしまう。権利を行使するためにも、忘れずに手続きをすることが必要だ。併せて、自身の加入期間、免除期間なども正確に把握しておくことも大切である。
年金の基礎を説明してきたが、日本ではこれから高齢化という大きな転換を迎える。自身の加入状況を把握した上で、これらかの動向についても日々チェックを行って欲しい。