若手行員と経営者たちの狭間で
中間管理職というのは実に辛い立場だ。ときには上司の愚痴を聞かされ、ときには部下からの不満を聞かされる。両者の確執はかつてないほどに拡大し、不信感が高まっている。
若手行員たちはかつての我々とは比較にならないほどシビアに経営者を評価している。我々の世代は「頑張れ!頑張って高い役職に就いたら、高い給料がもらえる」そんな単純な話で説得されてきた。
しかし、今やそんな話は通用しない。労働環境は悪化し、福利厚生も含め実質的な賃金は大きく目減りしている。頑張ったからといって、それが報われないことを皆が暗黙のうちに理解している。
若手行員達は決まってこう言う。「もはや銀行のビジネスモデルは破綻してます」「金利のダンピングと手数料稼ぎのための無理な金融商品販売をこのまま続けても、そこから得られるものは何もありませんよ」「銀行のビジネスモデルそのものを変えなければ、うちの銀行が潰れるのは目に見えてます」実に辛辣だが、事実だ。
一方、経営者たちはこう言う。「経費削減だ」「残業は禁止」「人が足りないとか、時間が足りないなんて言い訳はするな。それは工夫していない証拠だ」「現場は支店長自ら、もっと営業活動に力を入れて、収益を獲得しなければならない」彼ら経営者は仕事のあり方を変えることなく、現場の努力で収益をあげることを求める。
私には若手行員たちが居酒屋でもらした不満のほうがよほどまともに思える。銀行経営者たちは銀行の未来に一体何を描いているのだろう?
経営者は半年先を考え、若手行員は10年先を考える
『捨てられる銀行』は銀行の従来のビジネスモデルの限界を訴え、新しい銀行のあり方を模索することの重要性を問題提起する内容ではなかったのか?
皮肉なことに、銀行が変わることを最も怖れ、抵抗勢力となっているのは経営者たちだ。従来の発想の中でしか物事を考えられない経営者が実権を握っている限り、銀行は何も変わらないし、ますます斜陽化が進むだろう。
経営者たちは自らの既得権を守り、保身のために半年後の銀行の姿しか描けないでいる。その一方で能力のある若手行員はそんな経営者と銀行に愛想を尽かそうとしている。そう、彼ら若手行員は10年先を見据えているのだ。
銀行の看板がなければ「仕事ができない」そんな人間だけが残ってしまった組織に一体どんな魅力があるというのか。銀行は社会から捨てられる以前に、すでに若手行員から見捨てられようとしているのだ。(或る銀行員)
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