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(写真=PIXTA)

「敷金」の返還請求に関するご相談をよく受ける。その中で「敷引き」という言葉が頻繁に出てくるのだが、関東からの移住者から「以前住んでいた所では、このような制度はなかったように思います」という声を聞いた。

気になって調べてみると、敷引きという制度は、関西や九州を中心とした西日本特有の制度だということが分かった。この「敷引き」とは一体どんなものだろうか。

やや理不尽? 「敷引き」とは

アパートやマンションを借りる際に、借主と大家との間で「賃貸借契約」を結び、一定の代金を支払う。「敷金(3〜4カ月)」、「礼金(1カ月程度)」、「仲介手数料(1カ月分程度)」「初回月の家賃」が一般的だ。

敷金は、借主が契約を解除して、物件を引き払う際に、原状回復のための「修繕費」に充てられる。礼金は、賃貸借契約を結んだ大家に「お礼」として支払うもの。仲介手数料は、借主と大家との間を仲介した不動産管理会社等の手数料だ。初回月の家賃は、あらかじめ家賃を前払いするものだ。

ここまでは、全国共通だろう。ただ敷金と礼金を合わせて「保証金」という名目で支払う場合もある。さらに西日本等の一部地域では、「敷引き」という制度がある。

これは、前もって「敷引割合:家賃2カ月分」という「特約」を「賃貸借契約書」の中に盛り込む方法だ。この「特約」があると、退去時に家賃の2カ月分が最初に支払った敷金からそのまま差し引かれる。つまり「敷金」が家賃の4カ月分だった場合、その中の2カ月分は確実に戻ってこないことになる。

例えば、賃貸借契約を解約した後に、「原状回復」のために家賃の1カ月分が必要だった時には、最初に支払った「敷金(4カ月分)」から「敷引き(2カ月分)」と「原状回復費用(1カ月分)」との合計(家賃3カ月分)が差し引かれることになる。結果的に、残りの「家賃の1カ月分」しか戻ってこないということになるのだ。

判例は?

借主に対して、一方的に負担を強いるような印象の「敷引き」ですが、判例はどうなっているのだろうか。2005年7月14日神戸地裁判決が、現在「敷引き問題」のスタンダードになってる。

原告である男性A氏が、貸主B氏に対して「保証金30万円(うち「敷引特約25万円」」として結んだ「賃貸借契約」について、契約解除後に、「『敷引特約』は消費者契約法第10条によって、無効である」と主張し、「敷引き金25万円」の返還を請求したものだ。

※消費者契約法第10条(消費者の利益を一方的に害する条項の無効)「民法、商法その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し、消費者の権利を制限し、又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第1条第2項 に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。」

A氏の主張としては、「自然消耗の修繕費は、家賃に含まれているので、さらに『敷引き』として支払うのは、家賃の二重取りとなり、『敷引特約』は、借主の義務を加重することになる」という点と、「借主と貸主との情報力、交渉力に格差があるのは当然で、『敷引特約』はそれに乗じて、貸主が借主に一方的に押し付けたもので、信義則に反する」という点などだ。

対してB氏は、「敷引きの性質は、契約成立の謝礼であり、家賃を低く抑えることの代償である」という点と、「『敷引特約』は消費者契約法第10条に違反しない」という点、さらに「『敷引特約』は、賃貸借契約書の中にも明記されており、A氏は仲介業者から重要事項の説明を受けているので、信義則に反しない」などを主張している。

地裁はA氏の主張を認め、B氏に「敷引き金25万円」の返還を求めている。理由としては、「敷引きが『契約成立の謝礼』、『自然損耗の修繕費』等として、借主に負担させる意味を見出すことが難しい」という点と、「契約時に、借主が『敷引特約』を排除させることは、その交渉力の差を考えれば困難である」という点などが挙げられている。

賃貸借契約で注意することは?

アパートやマンションを借りる際に「賃貸借契約書」を取り交わすことになるが、その際には「敷引特約」が条項の中に入っていないか、確認するべきだ。「契約書」の中に盛り込まれていた場合は、説明を聞く必要がある。

「敷引特約」が「消費者契約法」に違反していることは、不動産業者であれば知っているはずなので、それでもあえて「契約書」に盛り込んでいる真意を確認する必要がある。

過去の判例では、「敷引特約」そのものがすべてNGと言っているわけではなく、「敷引きの額が常識の範囲を超えているといっても過言ではない場合」に違法性であるとしている。このため、「敷引特約」を盛り込んだ理由を確認した上で、常識の範囲内での「値引き交渉」は可能だと言うことになるのだ。

仮に「『敷引特約』は判例で違法なので、なくさない限り契約はできません」という強固な交渉方法をとれば、仲介業者も「それではこの契約はなかったことにします」という方向にもっていくかもしれない。せっかく苦労して探した物件が人の手に渡ることも考えられる。「敷引特約」そのものを全否定するのではなく、ある程度のところで納得することも大切だろう。

「高額な敷引き額は、判例で認められていない」というのは、現在では不動産業者の間ではスタンダードになりつつある。もともと借りる側と貸す側の力関係や交渉力の差によって、以前は不受理とも言える条件で、借主は契約せざるを得なかった。

しかし、法改正や判例によって、消費者である借主の立場はかなり確立されたといえる。(井上通夫、行政書士)

【訂正】礼金および保証金などについて誤解を招く説明がありましたので、一部修正いたしました。

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