全米不動産投資信託協会(NAREIT)は11月15日、深い見識と誠実な努力によりREIT(以下、リート)業界の認識を広めた個人に贈る「 業界功労賞(The Industry Achievement Award)」をフィデリティ・インベスメンツのポートフォリオ・マネージャー スティーブ・ビューラー氏に、リート業界の発展と成長等に多大かつ長期的な貢献を与えた個人に贈る「業界リーダーシップ賞(The Industry Leadership Award)」を、キムコ・リアルティの元副会長兼代表取締役兼CEOデイビッドヘンリー氏に贈った。
スティーブ・ビューラー氏が運用するファンドの1つが、日本国内最大級の純資産残高を誇る「フィデリティ・USリート・ファンド」である。同ファンドは11月15日、不動産市況の停滞や円高による運用成績の悪化から、分配金の引き下げを発表し注目を集めている。12月の米利上げ観測、トランプ氏大統領就任後の米国経済に注目が集まるなか、ZUU online編集部は同氏にインタビューをおこなった。
2017年の米長期国債金利は「2.5%」程度
1.米国長期国債の利回りが9月の1.6%程度から現在では2.32%へと急激に上昇しています。現在の状況および今後の見通しについてお答えください。また、金融政策にも注目が集まっておりますが、利上げについてはどのようにお考えでしょうか。
おっしゃる通り、財政赤字の拡大やインフレ圧力の高まりへの懸念から米10年国債は売られ、利回りが急上昇しています。しかし、個人的には、2017年には穏やかな上昇となり、2.5%程度に留まると予想しています。
政策金利については、市場関係者の間では2017年、2018年に合計3回程度の利上げが行われるとの見方が多く、かなり穏やかなペースでの利上げになるでしょう。私は、12月に利上げが行われると見込んでおり、来年については0〜2回程度の利上げの可能性があると考えております。
金利上昇が米国リートに与える影響は?
2.長期金利の上昇を受けて、米国リート相場は軟調な展開となっています。借入コストの増大などが懸念されますが、今後の米国リートに与える影響はいかがでしょうか。
長期金利の上昇の際には、リース契約期間が長いヘルスケアなどが苦戦する傾向にあり、今回も同様の動きとなりました。また、今回については「患者保護および医療費負担適正化法(オバマケア)」の見直しについて不透明感が高まったことも悪材料となりました。
米国リート全体のパフォーマンスに関して、過去を振り返って分かることは、どの程度かつどのような金利上昇が起こったかという点が重要なポイントになります。
通常、金利上昇が経済の拡大を反映したものであった場合には、商業用不動産には追い風となります。私どもとしては、今回の金利上昇に関しても、米国経済の拡大に伴い堅調に推移すると見込んでおります。
国内の米国リート投資家への影響
3.日本の個人投資家の米国リートへの比率はどれぐらいでしょうか。分配金の引き下げなどにより流出があった場合の市場への影響はいかがでしょうか。
日本の個人投資家の投信経由での投資総額は、米国リート市場全体の8%程度だと推計しております。すでに米国株に比べて長期金利の上昇などにより神経質な展開を強いられている現状では、日本の投資家の資金動向が不透明要因となり、相場の変動の要因となる可能性はあるかもしれません。
4.逆に足元の調整を経て、バリュエーションは割安となり投資タイミングとしては魅力的にも映りますが、いかがでしょうか。
実際に、より多くのバリュー投資家が足元の米国リートの下落を受けて米国リートに関心を高めています。また、純資産価値に対して割安に取引されている現状では自社株買いによる上場廃止をする米国リートが出てきてもおかしくないと思っております。
トランプ氏の大統領就任が米国リート市場に与える影響は?
5.トランプ氏は5500億米ドルのインフラ投資による道路や橋などの整備や減税などによる景気浮揚策を打ち出していますが、米国リートへの影響はいかがでしょうか?
トランプ氏のインフラ投資が実現されれば、短・中期的に経済成長を促すと期待されます。その場合には、あらゆる商業用不動産にとって需要が高まる点で追い風で、ファンダメンタルズの改善が見込まれます。
また、インフラ投資による道路や橋などの建設が行われれば建設コストが上昇するため、(歴史的低水準にある)商業用不動産の新規供給の拡大はより難しくなり、結果として賃料の引き上げが避けられなくなるでしょう。米国リートにとっては賃料収入の増加が業績にプラスになると期待されるでしょう。
6.最後に、2017年の米国経済、米国リート見通しを教えてください。
米国経済および米国リートの2017年の先行きについてそれなりの確信を持っています。ファンダメンタルズは良好であり、経済が拡大することによりさらに加速すると考えています。
たしかに足元の米10年国債の金利上昇により資金調達コストは増加しているものの、依然として妥当な水準であると同時に過去の平均を下回っている状態です。また、10月以降の調整局面を経て価格水準が割安になっていることなどから、中・長期的な観点で魅力的な銘柄を発掘する絶好な投資機会だと捉えております。(ZUU online 編集部)