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(画像=首相官邸Webサイトより)

中国の各ネットニュースは日本または米国メディアの報道として、日本の安倍晋三首相が珍珠湾(真珠湾)を訪問すると発表したニュースを伝えている。中国の関心は高いようで、有力ネットメディアは競って報じ、次々と後追い記事の出る盛況となっている。分析を加えてみよう。

崩れた安倍首相の外交シナリオ

各メディアとも事実関係の記事は似通っている。

米ニューヨークタイムス紙は12月5日、安倍首相は記者会見で12月26〜27日、オバマ大統領と一緒にハワイ真珠湾のアメリカ海軍基地を訪問する、と発表したと報じた。

安倍首相の、オバマ大統領広島訪問への答礼である。菅官房長官は「我々は戦争の恐怖を演じてはならない。共に未来へ向かい日米の和解を発信する機会となる」と発言した。

人民日報系の環球網は、安倍首相はオバマ大統領と共同で慰霊儀式を挙行する。アリゾナ記念館で花を献上する予定である。初めて米大統領と共同で真珠湾を参拝する日本の首相となる、といったものだ。

以下は、ニュースメディアに転載された“侠客島”という消息筋の見解を紹介する。この筋は“権威人士”ともされていて、本当は政権の別動隊という可能性もある。

戦後71年間、日本の首相が真珠湾を訪問したことはない。犠牲者を慰霊した先例もない。今年の5月、オバマ大統領が広島を訪問し、原子爆弾の犠牲者に献花して以降、安倍首相は、「真珠湾を訪問しないのか?」という問いにさらされてきた。しかしこれまで態度を明らかにしたことはない。

そのため安倍首相の決定は人々を驚かせた。彼は今年の年初には、2016年を外交で勝利を収める年、と位置付けていた。ホストとしてG7サミットを成功させ、オバマ大統領には広島訪問を促す。G7指導者に神道の「大本営」伊勢神宮へ参拝してもらう。年末にはプーチン露大統領の訪日を実現させて、領土問題を進展させ、外交成績を仕上げとしたい。

しかし思惑通りにはいっていない。5月のフィリピンの政局転換によって南シナ海での支点を失った。11月にはトランプ候補の意外な勝利で泡を食った。クリントン氏一点に賭けていたからである。その安倍首相には、外務省に多くの“罪臣”がいる。外務事務次官や外務審議官は国を誤った。さらに安倍首相がトランプ次期大統領との会見を望んだとき、外務省には何の伝手もなかった。経済産業省と日系企業のタッグで実現にこぎつけたのである。

しかし、未就任の次期大統領と会見したことは、ホワイトハウスの不興を買った。またプーチン訪日でも、領土問題での日露間の隔たりは大きい。ロシア側は通常のビジネス訪問、としているのに対し、日本側は重要な“国事”訪問と考えている。

クリントン勝利、TPP国会通過、日露首脳会談での成果、という美しい外交シナリオは乱れ去ったのだ。

効果は見込めるか

さらに2017年初頭における解散総選挙、そして2020年東京オリンピックまでの長期政権という戦略にも影響を与えかねない。こうした状況下、日米関係と外交上の総合成績を上げるため、真珠湾訪問をひねり出した。

安倍首相は3つの効果を見込んでいる。

1 オバマ大統領の広島訪問への返礼として、歴史課題上の和解を演出する。米国内にある“歴史修正主義者”という評を覆し、米国内からさらなる支持を取り付ける。

2 日米関係の特殊性を強調。日本側はトランプ次期政権に対し日米同盟の特殊性と重要性を再認識してもらいたい。安倍ーオバマが一緒に真珠湾の米軍犠牲者に献花する場景は、必然的にトランプ次期大統領への大きなアピールとなる。

3 国内に対し安倍政権の対米外交能力をアピールする。安倍政権への支持率は比較的安定しているが、時間とともにTPPの失敗などが攻撃され、支持率に一定の影響を与えかねない。

安倍首相の真珠湾訪問は、彼個人の史観には何の変化ももたらしていない。今年真珠湾では75周年の大規模記念活動を行う。それは12月7日である。なぜ20日後に行くのかはよくわからない。とにかく安倍首相の飛行機は真珠湾上空を飛ぶ。そのとき彼の脳裏に去来するのは“慰霊”である。他に何もない。

中国にかなりの心理的影響か?

後追い記事では、日米関係の転変は中国に何をもたらすのか、といった分析もあるが、やはり多いのは「慰霊」であって「謝罪」ではないことに焦点を当てたものだ。第二次世界大戦をテーマとした記事は明らかに増え、自衛隊の装備に関する記事はいつも以上に活発だ。最近では台湾、韓国の動きも鼻につく。中国の言論界は全体に「今、何となくまずいのでは?」とあせっている印象もある。なぜ南京には謝罪に来ないのだ、とする過激な記事も出たが、さすがにこれは削除されたようである。

ネットのコメント数は記事によりばらつきはあるが、そこそこ活発である。以下感情的な「戦犯日本憎し」系を排してを紹介してみよう。

・謝罪ではなく和解、というのは日本人主流の考えである。これについてもっと論じる必要がある。
・米国は日本を管理し続けるだろう。
・日米同盟を強化して、中国に圧力をかける策略だろう。
・これは米国にとって恥辱ではないのか?
・日本の誠意は感じられない。
・日本人は喜んで慰霊にいくだろう。米国が席を用意してくれたのだから。
・オバマの広島訪問で安倍は謝罪しないことを学んだ。
・日米は鬼ではないよ。
・戦争とは残酷なもので、いちいち謝罪の必要はない。
・日米は互いに謝罪しない、これは中露関係の参考になるのでは?

いずれにしろ安倍首相の真珠湾訪問発表は、中国にさまざまな波紋を巻き起こしているのは、間違いない。戸惑い、いらついている。今後の言論動向に引き続き注目していきたい。(高野悠介、中国貿易コンサルタント)

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