2016年12月の中国は不安に苛まれている印象が強い。近ごろ意に沿わないことばかり起こる。トランプ米次期大統領は、台湾の蔡総統との電話会談に応じたばかりか、「1つの中国」原則の見直しとも取れる発言をする。貿易政策でも何を仕掛けてくるかわからない。日米欧はWTO加盟15年を迎えた中国を「市場経済国」とは認めない。
トランプ次期大統領とプーチン露大統領とは互いにシンパシーを感じ合っている。安倍首相の真珠湾訪問も意外であった。どれも中国にはコントロールできない地殻変動だ。おそらく災害に遭遇している感覚だろう。何もせずに不利な立場に陥ってはならない。そのため軍事力を誇示るようは発信は急増している。日露首脳会談に関するけん制も盛んで、関心の高さを伺わせた。
ネットニュースの見出し
「成果は限られたものになる」「プーチンは体こそ日本にあっても、頭の中はシリアばかりだ」会談前まで、こうした記事が毎日のように掲載されていた。会談当日、15日のネットニュース見出しを追ってみよう。
「日露首脳会談、ロシア高官は、共同声明は不可能、と語る」
「プーチン11年ぶり訪日、双方第二次世界大戦の終結を希望」
「プーチン訪日、4100名の警備体制」
「プーチンの遅刻で歓迎の市民、雨中で2時間待たされる」
「プーチン11年ぶり2度目の訪日、焦点は北方領土の帰属」
「虎と戦ったプーチン、日本犬の吠声に怯える?」
「安倍首相とプーチン大統領、男女共浴文化を同時に体験」
「安倍首相は明るい表情を絶やさない」
国内記事では見られない週刊誌的アプローチやエピソードを取り上げた記事が目立つ。
新華社の分析記事
会談終了後の12月17日、新華社系の参考消息網は、トップページに欧米・ロシアメディアの報道を載せていた。
「プーチンと安倍、互いにプレゼント交換、日本側の贈り物に意義はあったのか」
「山口の温泉旅館会談、プーチン大統領、故意に遅刻して威厳を誇示か」
この2本は12月17日午前の参考消息網、記事ランキングの7位と8位を占めた。
新華社直営の新華網では17日朝、「なぜ日本はロシアに熱視線を注ぐ?」という見出しの人民日報記事を掲載した。公式見解といってよく、以下細かく紹介していこう。
15日夜、日本・安倍晋三首相は、山口県長門市の温泉旅館“大谷山庄(大谷山荘)”でロシア・プーチン大統領と会談、両人は北方四島問題と平和条約問題を集中討論した。プーチンは11年ぶり再度の日本訪問である。
この会談を実現するため、安倍政権は膨大なエネルギーを費やした。安倍は今年5月の首脳会談で、北方四島での共同経済活動の展開、8項目のロシアとの経済協力案件、を提案している。経済援助と四島主権を引き換えるものと考えられた。
その後も日本はたびたびロシアに善意を寄せた。それは米国の不満を引き起こす。ロシア外交筋は、米国はプーチン訪日に反対していた、日本は米国の理解を得ていない、と語った。実際に米国は何度も反対を表示した。
安倍は2012年の再任以来、ロシアを4回訪問し、また幾多の国際会議でも会談を重ねている。欧米では、今回のプーチンの狙いは、欧米の対ロシア経済制裁の歩調を乱すことと見ている。
プーチン訪日を切望した理由は、まず安倍自身が外交上の実績を欲しているからだ。何としても日露の領土問題を前進させ、返還への道筋をつけたい。
さらにトランプ次期政権の対ロシア姿勢も上げられる。次期大統領は、国務長官にエクソンモービルCEOのティラーソン氏を指名した。プーチン大統領とは旧知の仲である。次期政権では米露関係は大幅に改善される可能性がある。それ以前に先手を打つ必要があった。
「日露双方とも成果なし」と分析
日本のアプローチに対し、ロシアの態度は冷え冷えとしたものだった。「日本と領土問題は存在しない」とさえ発信した。
安倍首相は米国とその同盟からロシアの受けている政治経済的な困窮を同盟を破ってでも日本の資金でサポートし、領土問題で譲歩を引き出そうとした。
しかし想定外のトランプ当選により、米露関係は好転の兆しを見せ、日本の“吸引力”は限界だった。安倍は重要な外交カードをうまく生かせずに終わった。
領土問題以外に日本にはロシアにとって警戒すべき点はたくさんある。修正主義歴史観、右傾化の趨勢、THAAD迎撃ミサイルシステムの配備などである。日本の力を借りてシベリア東部開発を加速させるのは歓迎だが、この状況下、領土問題で妥協することなどできない。結局両国関係の実質は何も変わらなかった。
このところ安倍政権の外交領域での失点は大きい。欧米対露包囲網参加したはいいが、激情したプーチンの日本訪問を呼び込んで欧米の不興を買った。そして今回、日本の接待レベルが低かったことはロシアの不興を買った。そして日露双方とも得るものはなかった。
以上のように分析を結んでいる。日露首脳会談は実質失敗だった。中国としては、想定外の政治的地殻変動はなく、ほっと一安心という見立てだろう。いかにも中国らしい現実的な視点である。日本人としてはそれ以上の成果があった、と信じたいところである。(高野悠介、中国貿易コンサルタント)
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