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(写真=Evannovostro/Shutterstock.com)

2016年11月、元フォルクスワーゲングループジャパン(VGJ)の社長であった庄司茂氏が日産自動車に入社することになり、業界内がざわついた。

庄司氏は2015年7月に突如フォルクスワーゲンジャパンを退職。その後は転職の噂を聞くことがなく、1年以上たったあと、急に日産自動車に入社するという話で、こちらも初耳の人がほとんどだったようだ。

なぜ日産自動車は庄司氏を採用するに至ったのだろうか。

VWでの手腕

庄司氏は1963年生まれ。早稲田大学を卒業後、伊藤忠商事に入社。自動車第一部に配属後の94年、マツダとの合弁会社(マツダモーターハンガリー)の代表を務める。その後、2009年よりスズキとの合弁会社(スズキモーターロシア)の代表を務めた後、12年にフォルクスワーゲングループジャパンの代表取締役に就任。

日本市場で輸入車販売台数は15年連絡連続ナンバーワンであったフォルクスワーゲンだったが、中でも7代目ゴルフの販売は目覚ましく、庄司氏は「ゴキゲンワーゲン」キャンペーン等を展開し、話題を集めた。

日本市場でのフォルクスワーゲンのブランド力向上にはひときわ力を注いだ人だったと思う。例えばディーラーの女性スタッフのユニフォームを統一する、それからポロGTI、ゴルフGTI、ゴルフRなどにマニュアルモデルを投入し、マニュアルミッションに乗りたいと思う人の期待に応えた。

筆者も実際に庄司氏と話しをしたことがあるが、仕事のできるビジネスパーソンで、クールな人かと思いきや、クルマ好きの熱を感じるアツい方だった。

VW退職の理由

フォルクスワーゲンを辞めたのが2015年の7月、そしてフォルクスワーゲンのディーゼル問題が発覚したのが2015年の9月に発覚したことから、一部には庄司氏がディーゼルの排ガス偽装問題について知っていたのではないかという噂が流れた。

だが、自動車業界のジャーナリストたちは「その可能性は低いのではないか」という意見が多い。「そのことよりもフォルクスワーゲンが日本で思ったように販売を伸ばすことができなかったからだ」という意見が大半を占めた。

2013年と2014年は、フォルクスワーゲンは日本市場で販売台数が1位だったが、その間にメルセデスベンツが追い上げてきていた。月間販売台数ではしばしはメルセデスベンツに抜かれることもあり、庄司氏が退職した2015年はトータルでメルセデスベンツが販売台数首位となり、フォルクスワーゲンの15年間首位記録を打ち破ったのだ。

庄司氏は、社長就任当初から2018年には10万台の販売目標を掲げていた。計算すると前年比+10%程度で推移を続けて行かねばならない。具体的にはどうするかといえば、国産車ユーザーにフォルクスワーゲン車への乗り換えを推進するということが一番簡単な手法である。そのためには、フォルクスワーゲンのブランド力のアップ、ディーラー数の増加、そして販売価格を国産車並みに下げる車種を設定するということを行っていかないとならず、かなり苦しんでいたのではないだろうか。

日産で求められるもの

庄司氏が日産に入社したことで、フォルクスワーゲンの排ガス問題への日本市場での影響などは、ほぼないと見られている。フォルクスワーゲン ジャパンでは、失った信頼を取り戻すため、社員が一丸となり、販売台数の回復に全力を注いでいる。

庄司氏が日産でついたポジションは、日本ネットワーク戦略本部の本部長だ。これは日本のディーラーの再構築や最適化を判断するもので、最終的には日本市場の販売台数増が使命であるといっても良いだろう。業界関係者は、「日本市場のテコ入れのために庄司氏が呼ばれた」と考える人が多い。

日産自動車は2015年の販売台数が、前年比-8.1%と落ち込み、また、日本市場の占有率は11.6%となってしまっている。中国、北米ともに販売台数を伸ばしており、グローバルでは+2.0%にもかかわらず、エリア別に見れば、最も下げ幅が大きく、足を引っ張っている状態だ。

カルロス・ゴーンCEOも、5年前に建てた中期経営計画「日産パワー88」に取り組み始めてから、5年で年間販売台数は120万台以上増加し、540万台に達し、持続可能な売上高営業利益率8%の達成に向かって順調に進んでいると述べている。

そして、今年は、新型ノート(とくにe-POWER)が、サニー以来30年ぶりに月間販売ランキング1位になるという、日産にとって日本市場を開拓する良いチャンスでもある。

そのような中で、弱点を克服するため、庄司氏が選ばれたということだ。フォルクスワーゲンで辣腕ぶ(らつわん)りを発揮した庄司氏には、まさに適職と言えるのではないだろうか。

そして、日産自動車には、画期的なEVパワートレーンであるe-POWER、プロ パイロットをはじめとした自動運転技術、燃費偽装問題に端を発した三菱自動車とのアライアンスなど、過去の経験に基づけば、庄司氏が輝けるステージが数多用意されているようだ。

どんな規模の会社でも、優秀な人材がもっとも会社の成長を引き上げる原動力なのである。その意味で、庄司氏の転職はお互いにとって良い効果を生み出していくだろう。(モータージャーナリスト 高橋大介)