2017年の米株式市場には、春先から景気のいい上場案件がある。多くの有力投資家から巨額の資金をプライベートに調達することに成功し、ビジネスとしても順調な発展を遂げる米ソーシャルメディアのスナップチャットの親会社、スナップだ。
主幹事はモルガン・スタンレーやゴールドマン・サックスとも、クレディスイスとも言われ、最低でも250億ドル(約3兆円)以上、うまくいけば最高で400億ドル(約4兆7000億円)の時価総額となる見込み。その10%程度が株式上場(IPO)されるという。
2014年の巨大電子商取引企業アリババの上場規模を凌駕し、まさに、時価総額の巨大な「ユニコーン」と呼ばれる公開銘柄の筆頭となるのにふさわしい。3月早々に予定されるIPOに今から投資家の熱い期待と視線が注がれている。
特に近年、リターンの低い「低品質」のIPOが相次いでいたこともあり、2016年の米IPO市場での資金調達額は2003年以来の低水準(米ルネッサンス・キャピタル調べ)であった。期待通りの高値がつかずにIPO延期というケースさえあった。こうしたなか、米ダウ平均株価が20000ドルの壁の突破をうかがう気運の高まりとともに、高リターンが期待できると言われているスナップのIPOで、活気を失っていた新規上場部門が活性化することが期待されている。
勇猛果敢なスナップの挑戦
スナップチャットは、最大10秒しか表示されずに消えてしまう写真やメッセージをやり取りする「すぐ消える系」のSNSアプリで、2011年に始まった。毎日のユーザー数は1.5億人を突破し、先発の巨大SNSであるフェイスブック(同11.8億人)やインスタグラム(同1.5億人)を脅かす存在に成長中だ。
スナップチャットの親会社、スナップはこれまでにアリババやヤフーをはじめ、多くのベンチャーキャピタルなどから30億ドル以上を調達している。スナップがわざわざ出資をお願いしなくても、投資家から「出資させてください」と逆に頼みに来るという、他の企業から見れば何ともうらやましい財政状態にある。
その投資家人気の秘密は、スナップチャットに出稿された広告が、有望な広告ターゲットであるティーン層や20代の若者にしっかりと視聴され、クリックされているところにある。推定年間収益は10億ドルを下回り、新興企業の例にもれず現在は大赤字なのだが、その急発展と、競合のフェイスブック・インスタグラム・ツイッターなどがかなわない、質の極めて良いビジネスモデルが期待を高めているのだ。
ユーザーにとっては瞬時に消えるはずの写真や動画は、スナップチャットのサーバーに永久保存され、映り込んでいる物体や人物が独自のアルゴリズムで徹底的に解析された上で、利用者の好みに合った商品やサービスの広告がパーソナライズされて出るようになる。この技術は特許を取得している。
米国では、可処分所得が増える18歳から34歳の若年層の41%が一日最低一回はスナップチャットを利用しているため、企業にとっては他のSNSに優先して広告出稿をしたくなる。
また、常に技術革新を重ねているところが、落ち目のツイッターなどと違う。アプリの中に巧妙にニュースフィードを挿入してユーザーのアプリ内滞在時間を増やしたり、最大16人で楽しめるグループチャットも積極的にプッシュし始めた。今秋にはイスラエルの拡張現実スタートアップのシマジン・メディアを4千万ドルで買収している。
果てはハードウェアの世界にまで進出し、10秒の録画が可能なファッション性の高いサングラスの「スペクタクルズ」を、若年層にもお手頃な130ドルで発売した。録画した「消える動画」はスマホに直接無線送信され、すぐに家族や友人とシェアできる仕組みである。スマホのロックを解除し、アプリをわざわざ起動した上で、シャッターを押す手間が省けるという点で、手軽なアクションカメラのようであり、若い人たちにウケる可能性を秘めている。
勢いのついたスナップは、失敗を怖れず、勇猛果敢に市場に挑んでいる。そのため、広告モデルの確立に失敗し、企業買収相手としても魅力がないことをさらけ出してしまったツイッターと対比されることが多い。12月28日付の米有力経済紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』は、「スナップのメッセージは、『我々は新しいフェイスブックであり、ツイッターにはならない』というものだ」と分析している。