2016年は新興国の株価が先進国をアウトパフォームした。新興国が先進国を上回るのは4年ぶりで、通年でプラスになったもの4年ぶりだ。「トランプ・ラリー」で世界的に株価は上昇しているが、先進国をしのぐ株高が今年も続くのかどうか、2017年の新興国を展望してみよう。

新興国での株高の背景は米景気の回復

2016年に新興国が株高となった背景には世界的な景気回復見通しがある。

昨年11月28日に公表されたOECD(経済開発協力機構)の世界経済見通しによると、2017年の世界経済の成長率は3.3%と2016年の2.9%から0.4%ポイント成長を加速させる見通しだ。また、2018年は3.6%とさらに成長率を高めると予想されている。

2016年は世界経済の先行きに対する安心感からリスク・オンの流れとなり、新興国へと資金が流入した。先進国を中心に世界経済全体が回復したことがポイントであり、新興国が世界経済の成長をけん引したわけではない。

むしろ、世界経済を支えていたのは米国だったと言える。2016年の米成長率は1.5%程度の低い伸びにとどまる見通しだが、2017年は2.3%、2018年には3.0%へと成長を加速させる見通しとなっており、米景気の回復が世界的な景気見通しを楽観視させている。

世界経済安定なら2017年も新興国がアウトパフォーム

2017年の株式市場では、新興国が先進国をアウトパフォームするとの見方が優勢だ。重なる点も多いのだが、異なる点もあるので、主な金融機関の見通しをいくつか紹介しよう。

ゴールドマン・サックスは金利の上昇や政治的な不透明感から先進国での株価の上昇は限定的とみており、リターンを高めるための代替投資先として新興国を勧めている。2011年から2016年の年初まで、新興国の株価のバリュエーションが低過ぎたことで、新興国への投資魅力が高まっているからだ。

モルガン・スタンレーもゴールドマン同様、ここ数年は新興国の株価が先進国をアンダーパフォームしており、その間に新興国通貨も大きく下落したと指摘。ドルと原油価格に大きな動きないことを条件に、2017年も新興国のアウトパフォームが続くだろうと述べている。

JPモルガンは成長の加速スピードに注目している。経済の成熟度の違いから、新興国の成長率は先進国を上回るのが常であるが、ポイントはどの程度上回るのかにある。

2008年の金融危機以降、先進国の成長率は軒並み鈍化したが、新興国の成長率は先進国以上に鈍化した。こうした成長の鈍化が新興国の株価の重しとなっていたが、2017年の新興国は先進国を上回るスピードで成長を加速させると予想し、株価もアウトパフォームすると考えている。

シティバンクは新興国のオーバーウェイトを推奨しながらも、ドル高や脱グローバル化の動きが国ごとに与える影響には大きな差があるとし、「選別」が重要と指摘している。

コモディティ価格は2017年も上昇を続けると予想した上で、資源国は商品価格上昇の恩恵を受けるのみならず、製品の輸出国と比べると貿易摩擦の影響を受けにくいと述べている。

ドル高は、経済が開放的で貯蓄率や外貨準備率が低く、ドル建ての債務が大きいほどマイナスの影響を受けやすい。一方、内需への依存度が高く、外需の依存度が小さいほど影響を受けにくいとしている。

地域別でみると、コモディティ価格の上昇の恩恵を受けやすいラテンアメリカが引き続き魅力的であるとする一方で、政治的な不透明感からヨーロッパの新興国は見送りを勧めている。アジアは相対的にバリュエーションが高いことに加え、債券の海外依存度が高いことから、資本流出の影響を受けやすいのでアンダーウェートとしている。

クレディ・スイスもコモディティ価格の回復が新興国の経常収支を改善し、通貨を安定させ、インフレ率を低下させたとして評価している。また、いくつか新興国で構造改革への取り組みが進展していることをポジティブに捉えている。ただし、中国については債務の増加を懸念し、過去のような高成長は考えづらいと警戒している。

ドル高や貿易摩擦が懸念材料

新興国に対して慎重な見方もある。例えば、ドイツ銀行は「2017年の新興国市場には目立った改善は見られないだろう」と述べている。中国は構造改革の途上にあり、成長は鈍化するとした。ブラジルとロシアが景気後退から脱することができれば明るい材料だが、米金利の上昇とそれに伴う新興国からの資金流出、保護貿易主義の台頭を危惧している。

ブラック・ロックも先進国の成長加速やリフレが新興国の株価に追い風になるとした一方で、ドル高や貿易摩擦がリスクと述べている。

フィディリティもドル高が向かい風とした上で、米国を主な輸出対象国としている国に注意すべきと指摘した。また、米国の国内への生産回帰の動きが新興国の生産に打撃を与える恐れがあるとも述べている。

バンク・オブ・アメリカも世界経済、新興国ともに成長の加速を見込んでいるが、メキシコと中国に関しては貿易戦争や通貨戦争の発生を懸念している。

より高いリターンを期待してポートフォリオへの組み入れを

世界的に景気見通しが堅調であることから、わざわざ新興国に投資せず、先進国に投資すればよいというのも一つの考え方ではある。とはいえ、既に指摘があったように、先進国のみでポートフォリオを構成した場合、どうしても絶対的なリータンは低くなってしまう。

主要金融機関の見解をまとめると、2017年はリスク・オンの年となり、より高いリターンが期待できることから、ポートフォリオの一部に新興国を組み入れることを「お忘れなく」ということになりそうだ。(ZUU online 編集部)