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(写真=vchal/Shutterstock.com)

不動産王と称される米国のドナルド・トランプ氏が次期大統領に決まり、世界の金融市場は大きく揺れた。トランプ・ショックだ。

選挙中のスローガンがどれだけ実行されるか不透明だが、トランプ氏の政治公約が今後の円ドル為替レートに与える影響を整理しておきたい。

トランプ・ショックで市場は大揺れ

日本時間2016年11月9日、国内市場では前日終値の1ドル105円程度から、選挙結果が判明した正午過ぎに101円代前半まで日本円が急伸した。だが、その後瞬く間に106円近くまで急落、結局は前日比小幅な円安で引けた。

この日の変動幅5円弱は、6月24日のブレグジット(英国のEU離脱)決定で8円近く振れて以来の大きな値動きとなった。日経平均株価も9日こそ約920円値下がりしたものの、翌日10日はこの下げを全て埋め、1,090円余り上昇した。

円安はその後も続き12月9日には115円台半ばと、トランプ氏当選確定からちょうど1ヵ月で10円近く動いたことになる。同様に株価も上昇が続いて年初来高値をつけ、2万円の大台乗せが視野に入っている。

このめまぐるしい相場の動きは「トランプ・ラリー」とよばれている。トランプ・ラリーは米大統領選絡みの不確実性が一旦解消し、トランプ氏が唱える大幅な減税・インフラ投資で米国の経済成長が加速するとの思惑が先行した結果だ。

ひと月で10円/ドル近い円安、日本株は年初来高値

では次期大統領が掲げる「トランプノミクス」が今後、円ドルレートに与えそうな影響を個別政策ごとに考えてみよう。

通商政策では、自由貿易で米国内の雇用が奪われているとして、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)や北米自由貿易協定(NAFTA)からの離脱を公言している。

単純に考えると、輸出入が縮小すれば米国の貿易赤字が減り、日本など輸出国のドル換金売りも減るのでドル高になりそうだ。一方で、トランプ氏は為替操作に目を光らせるとしており、日本や中国などの金融・為替政策に注文をつける姿勢をみせている。

これに対し、減税政策は実行されれば明らかなドル高要因になりそうだ。所得減税は家計、企業の2部門の可処分所得を膨らませ、消費や設備投資による成長加速要因になる。

さらに、トランプ氏が目論む米国投資法(HIA:ホームランド・インベストメント法)はドル高要因となるだろう。米企業が海外で上げた利益や貯め込んだ剰余金などを国内還元すれば、これまで35%だった税率を10%に下げるという減税策だ。2005年に時限立法として一度実施され、ドルがこの年後半に1割以上上昇した経緯がある。

トランプ氏が思い描くインフラ投資は5,000億~1兆ドル規模との観測もあり、これも実現すれば景気の追い風となり、ドル高要因になる。

10年で減税6兆ドルを公約する一方で、これだけ多額のインフラ投資を行うのは少なくとも財政面で帳尻が合わない。民間資金の活用が主体というが、どれだけ集められるか未知数だ。

総じて円安方向だが、地政学的リスクも

それでもトランプノミクス全体でみると、為替市場がファンダメンタルズ面では円安方向に進むとみるのが妥当だろう。

米連邦公開市場委員会(FOMC)の利上げ決定などの材料出尽くし感で、円が一時的に買い戻されることもあろうが、トランプノミクスで米国経済が加速すれば米金利が上昇し、金融緩和策を続ける日本との金利差が拡大するとみられるためだ。在日米軍駐留費の負担増を求められるようなことになれば、これも日本の財政悪化を通じて円安要因になる。

ただ、円ドルレートはトランプ政権の影響だけに左右されるわけではない。2017年は多くの地政学的リスクが待ち構えている。

欧州ではドイツ、フランス、オランダの国政選挙が控えているが、内向きといわれるトランプ氏の当選を追い風に、いずれも極右政党が勢いをつけている。これまで難民受け入れに寛容だった独メルケル政権が最近になって厳しい姿勢を打ち出したのも、極右勢力を意識した選挙対策とみてとれる。これら極右グループが政治の主導権を握れば、英国に続きEU離脱に向けた動きも出てくるかもしれない。

また、中国は不動産バブル崩壊などによる、さらなる景気減速が懸念材料だ。インドも高額紙幣廃止による混乱で、景気減速が長引くリスクがある。これらが表面化するたびに市場がリスク回避に転じ、安全通貨と目される日本円が買われる可能性は否定できない。

トランプ大統領の政策がそれなりにみえてくるのは、2017年1月20日の予算教書発表以降だ。

過激な政策を実行に移すとしても、そのタイミングやスピードによって為替市場の反応も変わってくるだろう。いずれにせよ、2017年は為替ディーラーには気の休まらない年になりそうだ。(提供: 百計オンライン

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