2016年の家計支出に占める食費の割合を示す「エンゲル係数」が1987年以来29年ぶりの高水準になりそうだ。飲食店や販売形態の多様化に加え、グルメ情報を扱うテレビの情報番組や雑誌、ネットサイト、スマホアプリが増加するなど、食のレジャー化、エンターテイメント化が進行したことが数字に表れたと見る向きが多い。

かつては支出が多かった衣料品や家具などから、食事などに消費構造が変わってきたこともあるようだ。「貧困の度合い」をはかる指標として使われてきたエンゲル係数も、曲がり角にきている。

エンゲル係数26%超え?

家庭の貧富の指標として、19世紀にドイツの統計学者、エンゲルが提唱したことで知られる「エンゲル係数」。家計の消費支出に占める飲食費の割合のことで、生命の維持に関わる食事にかかる支出はほかのものと比べて極端に減らすことが難しいため、数値が高いほど、経済的に困窮しているとされる。

国内の平均値は2013年までは約20年にわたってほぼ22%台の横ばいだった。ところが、2014年に急上昇。消費増税があったほか、円安に伴う輸入コスト上昇や人手不足を受けた人件費の増加が背景にあったからだ。

この傾向は2015年になってもそのまま続き、25.0%まで上昇。2016年1〜11月の平均値は25.7%になった。宴会が増えたり家族が集まる大晦日のある12月には一般に食費は多くなるため、2016年は26%台になる可能性が高い。

2016年1〜11月平均値をみると、1か月あたりの消費支出は27万8888円で、前年同期比で約2%減った。ところが、食料支出は7万1603円と同1.8%増えているのだ。そのかわり「被服および履物」「住居」で減っている。

2016年には2014年にあった食品の値上げ傾向は一段落しているにもかかわらず、エンゲル係数は上昇し続けている。こうしたことからも、エンゲル係数が上昇したのは、決して家計が逼迫しているというだけではなく、個人のライフスタイルが変化し、グルメに関心が向かっているからととらえるほうが自然だろう。

デパ地下は混むが上はガラガラ

節分前の新宿伊勢丹に足を運んでみた。金箔で巻かれた1本1万円(税別)のものをはじめ、40種類以上の恵方巻きを取りそろえた地下の食品売り場は、買い求める客で立錐の余地もないほどの賑わいだった。一方、2階より上の衣料品売り場は確かにすいており、楽に歩けた。「あれ、デパートとは食べ物を買いに来るところだったっけ」と思わず、錯覚してしまいそうになった。

それにしても、確かにデパ地下で売られている食品は盛り付けもキレイで、どれもこれもおいしそうだった。レストランはもちろん、ファストフードでさえ店舗に買いに行けば調理時間の待ち時間があるのに、おいしそうに盛り付けられた惣菜が目の前にあり、それをすぐに買って家に帰ったらすぐに食べられるのは、とても便利だ。

こういう場所はデパートかスーパーか、駅ナカくらいしかないのかもしれない。最近は料理をしない女性も増えているというし、出かけた日は家に帰って料理はしたくない、外食するかデパ地下で買って帰りたいという気持ちは理解できる。それがゆえに、これほど繁盛しているのだろう。

野村総合研究所が実施している「生活者1万人アンケート」をみても、「積極的にお金を使いたいのは何ですか」という質問に、「食料品」「外食」「交際費」をあげる人は多くの世代で年々、増加している。

グルメは共通の話題になる

こうした傾向に沿うように、メディアもこぞってグルメブームを盛り上げている。テレビでは朝から晩まで美食や流行しているグルメを紹介する情報番組があふれている。また、タウン誌、ファッション誌からビジネス誌や週刊誌のようなお堅いものにまでグルメページがある。コンビニに置かれている漫画本にもグルメを扱ったものが増えてきた印象がある。肌感覚ではかつて「究極VS至高」で人気を博した「美味しんぼ」のブームを凌駕しているのではないかと思えてしまうほどだ。

消費者側もInstagramやFacebookに料理の写真を毎晩せっせと投稿している。最近では「フォトジェニック」といって、写真映えするグルメを若者たちは競っているという。グルメサイトには口コミを書き込みすることで食べた料理に対する感動や落胆を分け合うことができるようになった。趣味や価値観が多様化する現在で、グルメほど広く共通話題にできるネタもないかもしれない。

ポイントは、このグルメブームが決して高級志向一本槍ではないことだろう。富裕層には富裕層なりの、それなりの層にはそれなりの、個々の懐具合に合わせた食べ物や飲み物を楽しんでいる。

私たちがこれほどまでにグルメにこり始めたのは、やはり、ほかに買いたい物が減ってきたからではないだろうか。車や家具、家電など高価格帯の新製品は続々と出ている。ただ、それらが刺激する物欲よりも、グルメが楽しませてくれる新しさや珍しさ、特別感のほうが優位な時代なのではないだろうか。

今回のエンゲル係数上昇は、決して不況で所得が減って家計が逼迫して大変だ、というかつてのイメージだけでは語れない。この指標の定義づけにも再考が迫られるだろう。(フリーライター 飛鳥一咲)

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