SG証券・会田氏の分析
(写真=PIXTA)

シンカー:現在注目されている物価水準の財政理論の分かりにくい部分を、政府・中央銀行の通貨発行益の役割を使って解説する。

前編では、現在注目されている物価水準の財政理論(FTPL)は、政府の財政運営が、リカーディアン型(実質ベースでの予算制約式の成立)から非リカーディアン型(実質ベースでは予算制約式は成立しないが、名目ベースは会計上必ず成立し、そのために物価で調整される)に変わることにより、物価に影響を与えるという考え方を解説した。

一般的なマクロ経済理論では、物価は貨幣的現象として財政政策と切り離されて考えられるが、FTPLでは財政運営が物価に大きな影響を与えると考える。

かなりの将来にわたる予算制約式を前提とするFTPLは物価動向を説明するツールとしては、鈍い刀であると考えられ、1%単位の細かな物価の変動を説明することは困難である。

例えば、消費税率引き上げや物価上昇の大幅な加速が、2年後に起こるのか、4年後なのかは、かなりの将来にわたる予算制約式にとって誤差にしかすぎない。

しかし、景気過熱を考慮しない異常な財政拡大が、いずれ異常な物価上昇をもたらすことは説明できる。

一方、逆にも応用でき、過剰な政府債務残高への警戒感による異常な財政緊縮が、デフレの原因になってしまうということも説明できることになる。

FTPLで分かりにくいのは、物価で調整した後、現在の名目政府債務残高と将来の名目財政収支の和の現在価値がイコールになるという予算制約式が成り立てば、政府はいずれは債務を返済するために実質財政収支を黒字化させないといけないことだ。

実質財政収支がずっと赤字であれば、物価がどれだけ押しあがろうと、、現在の名目政府債務残高と将来の名目財政収支の和の現在価値がイコールにはならない。

結果として、実質財政収支の黒字を目指すために、政府が将来的な増税等の緊縮策をとるように見え、リカーディアン型の論理に戻ってしまう。

この分かりにくさを解く鍵は、FTPLのモデルを解くと、政府の予算制約式には、政府の実質財政収支だけではなく、政府・中央銀行の通貨発行益(シニョリッジ)も含まれることだ。

シニョリッジとは政府・中央銀行がマネーを発行するためのコストと発行されたマネーの価値の差である(実質的な中央銀行の収益である)。

一般的に当座預金に付利が無いとすれば、先進国の中央銀行が発行するマネーのシニョリッジは買入れる国債の金利である。

中央銀行が財政赤字分の国債を買入れ、マネタイズすると、国債の金利分のシニョリッジが生まれる。

国債の買入が増加し、マネタリーベースが拡大すると、シニョリッジの額は拡大する。

実質財政収支に実質シニョリッジを加えた実質財政余剰を前提として、物価で調整され、現在の名目政府債務残高と将来の名目財政余剰の和の現在価値がイコールになるという予算制約式が成り立つことになる。

実質財政収支がずっと赤字であっても、シニョリッジで実質財政余剰を黒字にし、そのシニョリッジの拡大をともなう中央銀行の金融政策が、現在の名目政府債務残高と将来の名目財政収支の和の現在価値がイコールまで物価を調整させると解釈できる。

FTPLは、一般的には含まれないシニョリッジの影響を入れることで、非リカーディアン型の財政運営でも政府の予算制約式が成り立ち、同時に財政拡大が物価に影響があることを示している。

ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
会田卓司

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