有給,買い取り,職場の法律
(写真=PIXTA)

職場において一種のビジネスマナーとして求められていることが、法律と合っていない場合がある。最近話題になったケースをもとに、いくつか事例を紹介したい。

事例1 有給休暇を取るときに相応の理由を求められた

理解しづらい理由で有給休暇を取得する社員に対しては、経営者・管理者の立場からは社会人としてのマナーを疑いたくなる気持ちも、わからないではない。

しかし、有給休暇を取得することに理由など必要ない。労働基準法第39条第5項本文は、「使用者は、前各項の規定による有給休暇を労働者の請求する時季に与えなければならない」と規定している。労働者は理由など述べることなく有給休暇を取得すればよい。あえてビジネスマナーとして理由を述べたいというのであれば、「所用のため」で十分である。

また労働基準法第39条第5項ただし書きは、「ただし、請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合においては、他の時季にこれを与えることができる。」と規定している。仮に労働者が請求する有給休暇の取得時季に不都合があるのであれば、経営者・管理者はこの規定に従って時季変更を求めることができる。

事例2 病欠するとき代わりの人を紹介するように求められた

少人数で運営する事業場において社員が急に病欠してしまった場合、業務に支障を来すことになろう。経営者・管理者の立場からは、病欠するときには代わりの人を紹介するよう求めたくなる気持ちも、わからないではない。

しかし代替要員を探すことは労働者の職務ではない。

加えて代替要員を見つけられなかった場合に減給のペナルティを課すということまですると、さらなる問題が生じる。

まず労働基準法第91条は、「就業規則で、労働者に対して減給の制裁を定める場合においては、その減給は、1回の額が平均賃金の1日分の半額を超え、総額が1賃金支払期における賃金の総額の10分の1を超えてはならない」と規定している。よって減給額が賃金総額の10分の1を超える場合には明らかに労働基準法違反である。

そもそも代替要員を探すことは労働者の職務ではないのであるから、代替要員を見つけられなかったことを減給の理由とすること自体ができない。

しかも労働基準法第16条は「使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない」と規定している(賠償予定の禁止)。よって、代替要員を探せなかったことにより使用者に損害が発生するとしても、損害賠償額を予定する契約をすることはできない。

事例3 「会社のために」と言われて自社販売商品の購入を求められた

社員が任意で自社販売商品を購入するのは個人の自由であるが、義務付けることは問題となる。

労働基準法16条は、「使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償を予定する契約をしてはならない。」と規定している(賠償予定の禁止)。ノルマ未達成の場合に社員に自社販売商品の購入を義務付けることは、実質的に違約金を定めたり損害賠償を予定したりするのと同じ効果を生じることから、この規定に違反することになる。

また労働基準法24条1項本文は原則として、「賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない」と規定している(賃金現金払いの原則)。このため、社員に自社販売商品の購入を義務付けることは、企業が賃金の一部を現金ではなく自社販売商品という現物で支給することと同じ効果を生じることから、「通貨で」という点と「全額を」という点に違反する。

法律と実態が乖離しているのはやむを得ないことか

上述のようなことを書くと、「法律の建前と現実の職場の実態とは違う。法律は机上の空論にすぎない。現実の職場では、そのような法律の建前など主張することなどできるわけがない。」という反論を受けるであろう。

しかし、そのような諦めとも言える考え方が長時間労働を跋扈させ、「働き方改革」を阻害する要因になってしまっているのではなかろうか。多様な人材層を受け容れかつ活躍できる職場とする「働き方改革」を実現するためには、法律で規制されていることは文字通りきちんと守られる職場環境を実現することが大事なのではなかろうか。

労働者の立場からは、ビジネスマナーの名の下に法律に違反する行為を強制されないようにしたいし、経営者・管理者の立場からも、ビジネスマナーの名の下に法律に違反する行為を強制することのないよう気を付けたい。(星川鳥之介、弁護士資格、CFP(R)資格を保有)

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