投資,企業倒産
(写真=PIXTA)

顧客の資産を預かり、絶対的収益を狙い投資運用するヘッジファンド(運用業者)。ファンドマネジャーは保有銘柄に自分が認識していないリスクがないか、常にチェックを怠りません。

もちろん有価証券報告書や説明会資料、補足資料などによって企業のことを理解することはできますが、これらの資料に記載されている数字からだけではわからないことがあるのも事実です。

(※本記事は、土屋敦子氏の著書『本当にわかる株式相場』(日本実業出版社)の中から一部を抜粋・編集しています)

それを調べるために、ファンドマネジャーが繰り返し行なっているのが「企業訪問」です。

会社の「雰囲気」が、業績の鏡

さて、実際に企業訪問などをしたとき、ファンドマネジャーはどういうところに注目しているのでしょうか。もちろん企業によって、あるいは状況によって違うのですが、ひとつだけ共通していることがあります。

それは会社の雰囲気です。

通常、会社の業績が良いときは社員の雰囲気も明るく、社内全体にやる気がみなぎっています。逆に、業績の低迷が続いていると、社員の士気も下がり、会社全体に暗い雰囲気が漂うものです。

以前、関西のある企業を訪問したときのことです。日中に会社訪問したにもかかわらず、部屋に入ったときに室内がとても暗かったことがありました。その理由がなぜか、すぐに気づきました。

雰囲気が暗いのではなく、無駄なところの照明が一切点いていないのです。社屋も非常に地味でした。しかし、陰気な雰囲気はどこにもありませんでした。それは社員のみなさんがとても明るかったからです。当然、業績も好調です。

こうなると、「ケチな会社」というイメージは吹き飛び、「なんて堅実な経営をしている会社なのだろう」となるのです。きっと、投資家の資金も大事に使ってくれるに違いない、そう思ったものです。それらの企業は、いまから15年前の日東電工、村田製作所、任天堂、日本電産などでした。

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企業訪問でみえた、倒産間近の会社の実際は……

また、かつて日立製作所の子会社のクラリオンの株価が50円以下で取引されていたことがありました。2008年後半の、リーマン・ショックで世界経済が大きく揺らいでいたときです。クラリオンは純資産が300億円もありましたが、上期に営業赤字に陥っていました。しかも、年末に取材をしたのですが、そのときに世間でいわれていたのは、上期以降も急激に業績が落ち込んでいるという話でした。

半年前はかろうじて200円を維持していた株価が50円前後になっているということは、倒産を織り込んでいるとしかいいようがありません。

50円の株価で計算すると、クラリオンの時価総額は140億円ほど。上期の当期損失は6億円で、純資産は300億円。PBRは0・47倍です。解散価値から考えると、株価は会社の純資産が140億円を割り込むと見込んでいて、それを前提に考えると、当期損失が160億円を超えることを意味しています。

このままだと債務超過に陥ることも想定しておかなければならないと思い、企業訪問に踏み切りました。クラリオンが倒産するリスクがどの程度あるのかを見極めようと思ったのです。

私が埼玉の本社に出かけたとき、株価はついに40円を割り込んでいました。もう倒産まで待ったなしです。本社に到着すると、ガラス張りの非常にぜいたくな建物でした。「業績がここまで悪化しているのに、分不相応なビルだな」と思いつつ、招かれるまま取材部屋に向かいました。その途中、大勢の人がいろいろなところに配置されているテーブルで、活発に話をしていました。

応接室に入り、担当者と名刺を交換した私は、すぐに外の光景について質問しました。「大勢の人が話をしていますが、何をしているのですか」と。

すると、担当者は「あれは商談ですよ」と言うのです。それに引き続き、社長室、経営推進本部、経営戦略室の部長の方々が部屋に入って来られ、取材がスタートしました。

正直、拍子抜けする思いでした。クラリオンの経営について危機感を抱いていた私は、さまざまな角度から、いまの経営問題について質問したのですが、それに対する答えがみなとても明るい内容ばかりだったのです。「引き合いは悪くありません」「来年には営業黒字を目指します」などとおっしゃり、最初はなかなか信じられませんでしたが、商談が非常に多いという雰囲気もあり、これなら当分、潰れることはないだろうと思いました。

その後、クラリオンの業績は回復へと向かい、債務超過に陥ることもなく、数か月後の有価証券報告書では在庫が減少し、翌年の第1四半期には営業黒字を出していました。

また、企業の決算説明会にもできるだけ参加するようにしています。決算説明会にはたいてい、社長が出てきますし、質問に回答してくれるからです。私が説明会に参加するときは、参加人数が前回に比べて増えているのか、それとも減っているのか、説明会が始まる前に資料などを読み込んでいるアナリストや投資家たちの雰囲気はどうなのか、などをまずチェックします。

個別取材と違い、自分の聞きたいことを簡単には質問できませんが、他の人がどういう点に興味を持っているのかを把握するのには役立ちます。(提供: 日本実業出版社

土屋 敦子
アトム・キャピタル・マネジメント 代表取締役