前編ではビットコインや官民データ活用推進基本法などについて聴いたインタビュー。フィンテック議連の会長も務める平井氏に、今回は「人口減の中で日本を縮小均衡に向かわせない唯一の方法」などについて語ってもらった。(聞き手:濱田 優 ZUU online編集長)
※このインタビューは2017年2月14日に行われました。
特区のようにエリアでしばるのはITやフィンテックには向かない
――日本のフィンテックでは金融機関の存在感が大きいように思います。
日本の今の状況とかつてのアメリカなどと違う点は、アメリカの金融機関はITの開発を、ある時点で全部外部に出した点です。それがフィンテックの始まりだという人もいますが、日本の場合は、幸か不幸か、ベンダーロックインがほとんどです。切り離さずに自社および自社グループのスタッフでまかなっている。
だから独立系金融ITベンダーがあんまりないですよね。だから余計に、金融機関が中心となって開発を進める体制にならざるを得ないのではないでしょうか。
そんな中で、まずやっていかなければいけないと思っていることは、ブロックチェーンが本当に使えるかどうか、社会実装の検証です。
――ブロックチェーンに対する期待感は相当高まっています。
今、特に注目されているのが公共分野でのブロックチェーン活用ですね。そこでポイントになるのは、まず本当にブロックチェーンでセキュリティコストが下がるのかということ。
ただもうやっている国はあって、エストニアではもう何年も前から共通台帳管理方式みたいなものを導入している。ただブロックチェーンと呼んでなかっただけなのです。
社会実装のために考えられるのは、たとえばサンドボックスでしょうね。実装してみないと分からないことが多いですからね。
――どこか小さい自治体とかでやってみたらいいという指摘もあります。
今まで日本の特区は、物理的な地域でしばってきました。Uberは京丹後市(京都府)で、民泊も大田区(東京都)とか。
ITの時代はこのエリアの概念を捨てなきゃいけないのですよ。僕が言っているサンドボックス、レギュラトリー・サンドボックスはエリアじゃなくてレイヤーで範囲を決めるというもの。エリア限定ではなくて、サービスレイヤーでサンドボックスをつくってしまう。
――たしかにエリアで縛る特区よりはいい気がします。ただ具体的に実行レベルに落とし込もうとしたときに、省庁の壁も立ちはだかりそうですね。
これは議員立法でやるしかない。データ利活用法と同じです。僕は党のIT戦略特命委員会の基本方針として、民間からヒアリングを重視しています。現行法と役所の発想では、明るい未来を引き寄せることは難しいと思うからです。
ブロックチェーンの実装だって、金融分野で進められないなら、防災データや医療データのほうで進めて風穴を開けることだって考えられる。やり方はいろいろあると思います。
自動走行などの技術検証はエリア限定でもいいかもしれませんが、金融分野、フィンテックでエリア限定にするのはおかしいと思いますね。
こういったアイデアは、これから民間の要望に沿ってアイデアを募集したいなと考えています。
――それは相当いろんな面白いアイデアが集まりそうですね。
それで試しにやってみればいいのですよ。例えば、期間を区切ってでもそういう環境をつくらないと、なかなかイノベーションは生まれないから。
人口減の中で日本を縮小均衡に向かわせない唯一の方法
――議員がフィンテック分野以外も含めて、これはやっていきたい、こういう社会にしたいというお話を聞かせてください。
僕は日本の未来は明るいと思っています。お年寄りとか障害を持った方もいる社会の中で、いかに裏側で世の中を便利にできる仕組みをつくるかということが大事。そういう意味で、フィンテックとかブロックチェーンとかAIやIoTなんていう言葉すら聞かれなくなって、それらの技術や仕組みが気づかないところで動いていて、国民が暮らしているのはただただ「便利で安全な社会」という状況にしたい。そうすれば日本は世界でも勝ち組になれる。
これから先は、サプライサイドの論理で「こんな技術はどうだ」「この商品でこんなことができる」みたいな目線でITを実装してもだめです。
田舎のおじいちゃんやおばあちゃんまでが、「ITを使えばこんなに世の中よくなるのだ」と実感できるようにすること。自分は政治家として、ストレスのない、安心安全なIT社会をつくるという、大きな方向で国民の合意をとりたい。そうすれば人口減ろうが、少子化になろうがバタバタせずに済む。
これはエストニア流に言い直すと、ITの利活用により国民の利便性を上げ、よって国家を発展させるということ。これを国是にすべきです。
これ以外に、日本を均衡縮小の世界に向かわせない方法があるでしょうか。思い切って発想の転換で振り切ったほうがいい。
そしてIT社会の将来で僕が一番問題と思っているのはセキュリティです。利便性の享受というプラス面と、セキュリティのリスクとそれに対する投資などの負担。前者が大きければいいですが、後者が大きくなった途端に「こんなはずじゃなかった」と言われてしまう。だから法律はすべてセキュリティ・バイ・デザインでやらなければいけない。
――例えば地元・四国にお戻りになったとき、こういうお話はされるんでしょうか?
しませんよ。詳しく分かってもらう必要はないし、技術的な話は分からないでしょうからね。そうはいっても人口は減るし、高齢者が増える。だったら便利な技術を使わなきゃいけないねっていう合意は得たいです。
それに、田舎のおじいちゃん、おばあちゃんだって、インターネットの上で生活しているようなものですよ。ネットで買い物をするとかしないとかではなく、物流がネットで支えられているのだから。社会インフラがすべてインターネットにつながってしまっている。
ただそういうことを事細かに言うのではなく、心配ないと思ってもらうこと。行政の効率も上げるし、財政再建もする。働き方もかえる。それによって将来は明るくなると思ってもらいたい。テクノロジーが発展すれば、人口が減ってもやっていけるのだと。
――孫たちの暮らしは安心なのだよということですね。
そう思ってもらうしかない。「スマホを使え」「これをしろ、あれをするな」という政策ではなくて、それはやっぱり人に優しい政策ですよ。
そもそも平均寿命が50歳を超えたのって昭和22(1947)年のことですよ。当時還暦っていったら、「よくあなた、60まで生きましたね」って思われたわけですよね。
その後、高度成長期を経ての一番の成果は人生が長くなったことです。年寄りがたくさん増えるってことは、我々が成功した一番のことじゃないかって思います。
それをこれから大変だと思わないようにするためには、社会全体でいろいろなもののやり方を変えていかないといけない。フィンテックとか何とか、そういう単語は使わないで、そして嘘ついたり騙したりはいけないけど、誰もが仔細に技術的な話を聴きたいわけじゃないと思うのですよ。特に高齢者は。
だからとにかく、便利なものができたのですと。いちいち役所に足を運ばなくてもいいし、誰かがちゃんとやってくれるのだよと。というような話を、手を変え品を変えしていくつもりです。
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