個人金融資産(16年12月末): 16年9月末比では47兆円増

2016年12月末の個人金融資産残高は、前年比17兆円増(0.9%増)の1800兆円となった(*1)。残高は過去最高を更新し、初の1800兆円台を記録した。年間で資金の流入超過が15兆円あったほか、年後半の株価持ち直しと円高是正によって、時価変動(*2)の影響がプラス2兆円(うち株式等がプラス3兆円、投資信託がマイナス1兆円)発生し、資産増加に繋がった。

四半期ベースで見ると、個人金融資産は前期末(9月末)比で47兆円もの大幅な増加となった。例年10-12月期は一般的な賞与支給月を含むことからフローで流入超過となる傾向があり、今回も18兆円の流入超過となった。さらに、11月上旬の米大統領選以降、トランプ新政権の政策への期待から、急激な円安・株価上昇が起きたため、時価変動の影響がプラス29兆円(うち株式等がプラス20兆円、投資信託がプラス7兆円)発生し、資産残高が大きく押し上げられた(図表1~4)。

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ちなみに、家計の金融資産は、既述のとおり10-12月期に47兆円増加したが、同時に金融負債も6兆円増加したため、金融資産から負債を控除した純資産残高は41兆円増の1409兆円となった。こちらも過去最高を更新している(図表5)。

なお、その後の1-3月期については、一般的な賞与支給月を含まないことから、例年フローで大幅な流出超過となる傾向が強い。金融市場では12月末から株価はやや上昇しているものの、為替が円高に振れているため、時価変動は資産の増加にあまり寄与していないとみられ、足下の個人金融資産残高は12月末からやや減少していると推測される。

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(*1)2016 年7-9月期の計数は確報化に伴って改定されている。
(*2)統計上の表現は「調整額」(フローとストックの差額)だが、本稿ではわかりやすさを重視し、「時価(変動)」と表記。
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内訳の詳細:株式からの資金流出目立つ

10-12月期の個人金融資産への資金流出入について詳細を見ると、季節要因(賞与等)によって例年同様、現預金への大幅な資金流入(積み増し)が発生している。ただし、例年の同時期と異なり、定期性預金からの資金流出が進んだ一方で、流動性預金(普通預金など)への流入規模が際立って多いという特徴がある。マイナス金利政策導入以降、定期預金金利がほぼゼロにまで引き下げられた影響で、引き出しに制限のある定期預金よりも、(同じくほぼゼロ金利だが)流動性の高い普通預金の選好度が強まったためとみられる。

リスク性資産に関しては、株式からの資金流出が2.9兆円と例年以上に流出が進んだ。株価が大きく上昇したことで、利益確定売りが進んだためとみられる。投資信託への資金流入も0.3兆円に留まり、近年の流入規模を下回っている。対外証券投資(1.1兆円の流入)、外貨預金(0.1兆円の流入)など、例年に比べて流入が進んだリスク性資産もあり、家計がリスク回避の動きを大きく強めたわけではないものの、リスク性資産への投資を積極化した形跡もない。昨年は年間を通じて不安定な市場動向となったため、投資を手控える傾向が続いたと考えられる。

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なお、株と投資信託に外貨預金や対外証券投資などを加えたリスク性資産の残高は294兆円、その個人金融資産に占める割合は16.3%と、9月末の268兆円、15.3%からそれぞれ増加・上昇している。円安進行と株価上昇によって時価が増加したためだ。

その他証券では、事業債から資金流出が発生する一方、国債からの資金流出規模が例年に比べて大きく縮小した。個人向け国債には最低金利保証(0.05%)が付いており、預金と比べて投資妙味が生まれたことが影響しているとみられる(図表6~9)。

その他注目点: 企業の現預金残高は依然過去最高付近に、日銀の国債保有は4割に迫る

2016年の資金過不足を主要部門別にみると、従来同様、企業(民間非金融法人)と家計部門の資金余剰が政府(一般政府)の資金不足を補い、残りが海外にまわった形となっている。ただし、2015年との比較では、企業の資金余剰が4.6兆円増加した一方で、家計の資金余剰は2.7兆円減少した。企業収益が過去最高レベルにある一方で賃金が伸び悩んだこと、超低金利下で住宅投資が活発化し、住宅ローンを借りる動きが強まったことなどが背景にあるとみられる(図表10)。

昨年12月末の民間非金融法人のバランスシートを見ると、現預金残高は過去最高であった9月末から微減の244兆円となった。一方で借入金が5兆円増加したため、企業の純借入(借入金-現預金)は9月末比5兆円増の117兆円となった。ただし、前年比で見ると、借入金の増加が9兆円に留まる一方で、現預金の増加は17兆円に達しており、純借入は8兆円減少している(図表11)。

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国庫短期証券を含む国債の12月末残高は1076兆円と、9月末から16兆円減少したが、前年比では41兆円の増加となった。

国債の保有状況を見ると、これまで同様、預金取扱機関(銀行など)の保有高が減少(209兆円、9月末比10兆円減)し、保有シェアはとうとう2割を割り込んだ(19.4%、9月末は20.0%)。一方、大規模な国債買入れを継続している日銀の保有高は引き続き増加(421兆円、9月末比7兆円増)し、シェアも39.1%(9月末は37.9%)と4割に肉薄している。次回発表の3月末時点では4割を突破する公算が極めて高い。

なお、海外部門の保有高も113兆円と9月末から1兆円増加。シェアも10.5%(9月末は10.3%)と若干上昇している。従来に比べて増勢は一服しているが、海外勢はドル調達コストの関係で有利な条件で円を入手できる状況が続いており、国債への需要は根強い(図表12)。

最後に、国内銀行の10-12月期の資金フローを確認すると、国債からの資金流出超過は続いているが、減少ペースに鈍化が見られる。また、今年7-9月期までは対外証券投資への流入超過(積み増し)が顕著であったが、10-12月期には大幅な流出超過(取り崩し)となっている。米大統領選後に米国債利回りが急上昇(価格が急落)したため、損失限定のための処分売りが活発化した模様(図表13)。

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上野剛志(うえの つよし)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 シニアエコノミスト

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