経済の低迷が続く中南米の中で、唯一跳躍を遂げるパナマ。GDP(国内総生産)の平均成長率は7%とほかの中南米地域のおよそ2倍に達しているほか、今後も5%から6%前後の伸びが予想されている。
パナマの成功は独自の中間貿易制度を最大限に活かしたサービス業だけではなく、「移民の労働力に起因するところが大きい」との見方もでている。
「コロン・フリーゾーン」で海外投資を活性化
中南米およびカリブ地域のGDP(国内総生産)成長率の平均が1%にも満たないのに対し、パナマの平均は6%近い(世界経済フォーラム/WEF2015年データ)。 パナマ経済が中南米で常に突出している状態は長年にわたり継続しており、2008年の金融危機直後もほかの中南米地域のように、成長率がマイナス圏におちこむことがなかった。
2001年から2013年にかけての平均成長率は7.2%。中南米地域の平均のおよそ2倍だ。2017年の予想は5.4%、2018年は0.1ポイント増 と、今後も好調さが続くと期待されている。
人口が日本の約4分の1 に値するわずか398万人 (Trading Economics2016年データ)というパナマは海外投資を活性化させ、「コロン・フリーゾーン(CFZ)」を全面に押しだした自由経済体制を確立することで、中間貿易を軸とするサービス産業や金融産業を急発展させた。
CFZ とは1948年、パナマ政府系自治体機関として設立された免税地域で、非課税の状態で保管・再輸出が合法に行える。近年、中国経済の失速や資源価格の下落の影響がCFZにもおよんでいるものの、輸入分野の拡大や輸入原材料の国内加工など大幅な制度改革を実施することで、状況を立て直そうという試みが見られる。
サービス業がGDPを占める割合は80%。ほかに鉱工業や農業、観光業などが国の経済を支えている。起業に最適な国として挙げられることも多い。
ハウスマン教授「シリコンバレーも移民なしでは存在しない」
なぜパナマ経済のみが成長を続けているのだろう。ハーバード大学のリカルド・ハウスマン教授は、パナマの長期的成功を決定づける重要な要素をもうひとつ挙げている。「移民による労働力」だ。
米国では総人口の14%、起業家の30%が移民である。米国が世界に誇る名門校、ハーバード大学の教授のほとんどが移民。カナダ、ニュージーランド、豪でも、移民の割合は総人口の25%に達しているほか、シンガポールなどは40% を超えている。
欧州一のビジネス都市ロンドンも人口の3分の1を移民が占めており、2031年まで2分の1にまで増えると予測されている(ロンドン・データ・ストア)。
ハウスマン教授は「地元の人材だけでは国際クラスの組織を創造し、革新をもたらすには限界がある」 とし、優秀な人材を海外から引きよせる重要さを主張している。ハウスマン教授の見解によると、「FinTechで跳躍したシリコンバレーも移民なしでは存在しなかった」という。
移民への開放度がパナマとほかの中南米地域の明暗をわけているという説は、実際に移民の割合を比較してみると信憑性をおびる。
パナマの移民の割合は1000人に対して1.49%。パナマと並んで競争力が伸びているチリは2.30%だが、ブラジルは0.02%、コロンビアはマイナス0.62%、メキシコはマイナス0.85%と、成長が頭打ちしている国ほど移民の割合が少なくなっていく(knoema.com2015年データ )。
中南米で成功をおさめている企業の多くが移民によって設立された事実も、ハウスマン教授は指摘している。
合計47万人が貧困層から脱出 「世界競争力ランキング」は42位
こうした突出した経済成長の裏で、パナマは貧困層の縮小計画も進行させている。中でも2008年から2014年にかけては経済危機の余韻にも関わらず、貧困率を18.7%まで7.5ポイント、極貧率を14.2%まで4.3ポイント引きさげた。貧困層から30万人が、極貧層から16万8000人が抜けだしたことになる。
しかし地域別に見ると都会の極貧率が4%であるのに対し、過疎地では27%とまだまだ過酷な現状だ。特に「コルカマ」と呼ばれる先民族の自治県では、貧困層が40%、極貧層が70%を超えている。水道や衛生設備が整っておらず、より包括的な支援が必要であることは明白だ。
経済に潜む陰と陽の局面に対応しながら、パナマ経済は今後も加速していくだろう。WEFの「世界競争力ランキング」の最新版では世界138カ国中42位 と、チリ(33位)とともにトップ50にランクインしている。(アレン琴子、英国在住フリーランスライター)