レクサスのラグジュアリー・クーペ「LC」が人気だ。3月中旬に発売されたレクサスLCだが、発売後1カ月で、月間目標台数の36倍の1800台を受注している。LC500で477馬力、LC500hでは299馬力を発揮するハイパフォーマンスクーペ。価格は1300万円~1450万円。この価格帯にしては珍しく明るい色が選ばれ、若い人の気持ちを引きつけているというが、なぜなのだろうか。

レクサスLCの魅力

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Lexus LC(画像=プレスリリースより)

レクサスLCは、コンセプトカーLF-LCの革新的なデザインイメージをモチーフに、新開発GA-Lプラットフォームによる骨格を活かすことで、走行性能とデザインが調和した独創的なデザインが 特徴的であり、先の価格が決して高いものではないと評価されているところが好調な販売につながっているのだろう。

だが、デザインやパフォーマンスが突出しているからという理由だけでは、富裕層の気持ちを捉えきれないというのも事実ではないだろうか。その成功には、レクサスのブランディング戦略が鍵を握っている。

購入者のパーソナリティー

レクサスLCを選んだのは、どのようなパーソナリティーなのだろうか。年齢比は、約60%が50代以上、約25%が40代、約10%が20代、約5%が30代となっている。1300万円のクーペということで、50代以上が過半を占めるのは自然な流れであるが、40代や20代が予想したよりも多いと感じないだろうか。

そして、エクステリアの内訳だ。約50%がホワイトノーヴァガラスフレーク(白)、約20%がラディアントレッドコントラストレイヤリング(明るめの赤)、以下、ネープルスイエローコントラストレイヤリング(黄)、グラファイトブラックガラスフレーク(黒)、ガーネットレッドマイカ(暗めの赤)が約5%ずつという構成だ。白や明るめの赤といった輝度の高い色に人気が集まり、通常なら無難で人気の高い、黒とグレーは少ないようだ。

下取り需要から見る輸入車からの乗り換えは、約15%と見られ、かなり高くなっている。

ライフスタイルと価値観の変化

マーケティングの世界では、2013年頃から新しいラグジュアリーの流れとして、「オープン」「ソーシャル」「コンフォート」というキーワードを上げている。オープンは限定から開放、ソーシャルは社会性、コンフォートは、他人視点から自分視点への変化を意味している。

例えばエルメスは手仕事を多くの人に見せるイベントを開催し、これまでの秘密主義を開放した。ルイ・ヴィトンは、長野県小諸市で森林再生プロジェクトを行っている。そして、他人からどう見られるかより自分が快適に過ごせることを重視する傾向だ。これは現在でも続いているが、さらにボーダーレス、パーソナル、モーメントという潮流が加わった。ボーダーレスは、誰もが日々感じているだろう。SNSをはじめとしたデジタルの力によって、もはや国境はないと言っても良い。

パーソナルということでは、ビジネスジェットがスマホで予約できる、サザビーが「コト」のオークションをはじめるなど、自分だけの特別な体験が手軽に味わえるようになっている。そして、モーメント。情報が溢れ、流れの早い現代だからこそ、富裕層は一瞬一瞬を大切にするというわけだ。一夜限り、限定シートなど、自分だけしかできない一瞬を切り取り、ときにSNSで拡散していく。

レクサスLCの発表会で、レクサスインターナショナルの福市得雄プレジデントは「いま、ラグジュアリーの概念は転換期にあり、感性を刺激する体験型へと変化するようになってきています」と述べた。「エクスペリエンス・アメージング、予測できないワクワクする驚きと感動を届けたいという気持ちから生まれたレクサスLCは 我々の新しい時代を象徴するモデルで、人々を移動させるだけではない、五感を刺激するクルマなのです」と続けた。

ラグジュアリーの概念をグローバルな視点から再構築し、レクサスらしい回答を出したのがLCなのではないだろうか。

だからこそLCには、高額な価格設定にも関わらず明るい色が選ばれ、若い人の気持ちを引きつけ、そして、これまで輸入車に乗っていた人でさえ、乗り換えさせてしまう、魔力があるのだ。

もちろん、メーターパネルやスイッチの配置、エンジンサウンドなどがLFAと相似しているという部分など、細部にこだわってこのクーペの魅力を発見するのも一つの解法であろう。だが、レクサスLCに乗ってみたい、と背中を押すのは、確固たるレクサスの哲学によるものではないだろうか。(高橋大介、モータージャーナリスト)