燃料自動車(FCV)の普及に向け、官民一体となった取組みが本格化する。政府が描く「水素社会」の実現を目指し、トヨタ自動車など11社が水素ステーションの整備を目的とする新会社設立に向けた覚書を交わした。まずは2020年度までに水素ステーション160箇所の整備、FCV4万台の普及を目標にオールジャパン体制を築く。

2030年までにFCV普及台数を80万台に

水素自動車,電気自動車
(写真=PIXTA)

この度覚書を締結したのは、トヨタ自動車 <7203> 、日産自動車 <7201> 、本田技研工業 <7267> 、JXTGエネルギー、出光興産 <5019> 、岩谷産業 <8088> 、東京ガス <9531> 、東邦ガス <9533> 、日本エア・リキード、豊田通商 <8015> 、日本政策投資銀行の11社。

5月19日に覚書を交わし、年内の新会社設立に向けた協議に入る。出資比率や資本金等の詳細は今後調整を行う。自動車メーカーはFCVの普及拡大、インフラ事業者は水素ステーションの整備・運営、金融機関等はファイナンス等による支援を行う。それぞれの役割分担を明確にしつつ、オールジャパンの企業連合が連携して目標を目指す。

念頭にあるのは政府の進める「水素社会」の実現である。経済産業省は「水素・燃料電池戦略ロードマップ」を公表している。それによると、水素ステーション整備数は2020年度までに160箇所、2025年度には320箇所、FCVの台数は2020年までに4万台、2030年には80万台とする事を目標としている。この目標を達成するべく、今回の覚書が交わされたのである。4月に政府が「水素社会」の実現に向けた基本計画の年内策定を決めた事も大きい。

政府が絵を描き、民間が実現させる、正に官民一体となった事業である。政府は道筋を示すだけでなく、補助金の投入等の金融支援や規制緩和の継続、拡大を検討していく。

インフラ拡充でFCV普及に弾みを

FCVはトヨタが2014年に「ミライ」、ホンダが2016年に「クラリティフューエルセル」を市場投入しているが、普及台数はまだ1700台程度に留まっている。トヨタは水素を燃料とするバスも開発し、2月に1台目を東京都へ納入しているが、商用部門での展開は乗用部門より更に遅れを取る。次世代自動車では電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド車(PHV)が大きく先行しているのが現状である。

FCVの普及に向けた障壁は主に2つある。1つ目は水素ステーションの普及である。水素ステーションは現在全国で約90箇所しかなく、普及に向けたインフラが整っているとは言えない。また、現状の水素ステーションの建設コストはガソリンスタンドの数倍であると言われている。官民一体となり、コストが先行してでも水素ステーションの拡充を進める事で、インフラの整備が進むと共に、建設コストの低減も可能となる。

2つ目の障壁はFCVの車両価格の高さである。様々な補助金を使っても、FCVの車両価格はガソリン車やEVよりも高くつく。インフラの拡充を先行させ、FCVの普及を促す事で、自動車メーカーがFCVの量産体制に入り、車両価格が下がる事を狙う。

FCVはEVと比べ、水素充填時間が短く、航続距離が長いという特徴がある。現状の障壁をクリアできれば、普及に大きな弾みがつく可能性も十分にある。官民連合の発足は世界を代表するFCV大国を目指した第一歩となる。(ZUU online編集部)