スイスで2050年までの脱原発を柱とする「新エネルギー法」の是非を問う国民投票が行われ、賛成58.2%、反対41.8%で可決された。2050年までに脱原発を実現し、再生可能エネルギーを大幅に促進、省エネを推進する。

欧州諸国は、原子力エネルギー政策をめぐり国の政策、世論とも大きく割れている。しかし、福島原発事故が契機になって、全体として脱原発の動きが高まっている。対照的に、チェルノブイリ原発事故を経験したウクライナ初め東欧では、依然として原発利用に前向きだ。

「原子力エネルギー放棄の歴史的な日」を宣言

原発
(写真=TW Stocker/Shutterstock.com)

スイスは「エネルギー戦略2050」を掲げ、2050年までに稼働中の5基の原子力発電所をすべて順次停止し、新設も禁止する。スイス政府は、2011年の福島原発事故の教訓を得て、年月をかけて慎重に法案を作成、昨年10月に連邦議会が承認していた。

新法は15年度に全発電量の33.5%を占めていた原子力をゼロにする。不足分を埋めるため、水力や太陽光、風力など多様な再生可能エネルギー源を組み合わせる「エネルギーミックス」を目指し、特に太陽光や風力エネルギーのシェアを2.6%から4倍に増やして電気の安定供給を図る。

このため水力発電を2050年までに55.9%%、水力以外の太陽光、風力、バイオマスなど再生可能エネルギーを30.6%と大幅に増やし、不足分を天然ガス・化石燃料発電の13.5%で補う計画である。一方、年間1人当たりのエネルギー使用量を2000年比35%減らし、省エネと効率的利用を目指す。節電を奨励し、建物や自動車、電機製品のエネルギー効率を高めて燃料消費を削減するなど、エネルギー消費全体を抑える。

ドリス・ロイトハルト環境・エネルギー相は「原子力エネルギーを放棄する歴史的な日となる」と宣言した。新エネルギー法は2018年1月から施行される。

欧州諸国は原子力エネルギー利用で二分

西欧諸国、特にドイツは脱原発の代表的な国である。1990年代に国家政策として脱原発を決めた。その後は現存の原発は残す方向にあったが、福島原発事故後に2022年に全廃することを最終的に決定している。メルケル首相は当時、「私自身にとって福島第一原発事故は想像を絶するものであり、原子力エネルギーの役割を再考する必要に迫られた」と述べている。イタリアのベルルスコーニ首相は原発推進派だったが、東日本大震災を受けて国民の間で不安が広がったため、新設計画の凍結を決めた。イタリアでは国民投票で94%が脱原発を支持している。

一方フランスは58基の原発を保有する原子炉輸出国、原発推進国である。福島発事故を受けて当時のサルコジ大統領は、原発の安全性について、「厳格で国際的な統一基準の設置が望ましい」と述べ、フランスが今後、原発の安全面で主導権を握っていく姿勢を強調した。英国も19基の原子炉が稼働しており、ほとんどは2023年までに寿命を迎える。テリーザ・メイ首相は就任直後、EU離脱とともに重要なヒンクリーポイントC原発の承認を先送りして注目されている。(長瀬雄壱 フリージャーナリスト、元大手通信社記者)