米信用格付け会社、ムーディーズが、中国の人民元建ておよび外貨建て格付けを「AaA3」から「A1」へ引き下げ、見通しを「ネガティブ」から「安定」 に引き上げた。1989年以来、初めて格下げとなる。

「成長の鈍化や債務拡大が、今後財政面の健全性を低下させる」 との懸念に基づいた判断だが、中国政府はこれを「実施中の経済改革を軽視した不適切な評価」と反論している。

政府の直接的な債務責任のGDP比は45%に達すると予想

ムーディーズは中国政府による経済改革をポジティブに評価する一方で、「成果となって経済や経済システムに反映されるには時間を要する」と述べている。そのため今後数年にわたり、偶発的な物も含め、債務は増え続けるとの見方だ。

人民元建ておよび外貨建て格付けのほか、外貨建て上位無担保社債や外貨建て預金も「AaA3(最も信用力が高い)」から「A1」へと1ランク引き下げた。人民元建て預金は「AaA3」を維持したものの、政府の直接的な債務責任がGDP(国内総生産)を占める割合は、2018年までに40%、2020年までに45%に達すると予想している。

それに加え、家計や非金融セクター債務の悪化の可能性も懸念している。景気刺激策が功を成し、鈍化のペースは穏やかになると見こまれているものの、中国の潜在成長率は今後数年間で5%まで低下する可能性が高い。

国際金融機関から鳴り響く警鐘

中国株式市場はムーディーズの発表を受け、軒並み下落。上海総合指数は一時的に1.3%安まで落ち込むなど、昨年10月以来の安値を付けた。香港市場では、ハンセン指数が0.2%下げた。

1978年の経済改革・開放路線切 り替えて以来、急激な発展を遂げてきた中国だが、ここ数年でその勢いは著しく低下している。2012年には習近平国家主席の指導のもと、大胆な経済構造改革 に着手したものの、不動産と短期インフラ投資に依存するところが大きく、資産バブルや景気刺激策に伴う副作用への懸念は依然として緩和されていない。

昨年には国際決済銀行(BIS) がGDPの2.5倍に膨れあがった中国の債務総額について、「今後3年間で深刻な問題を引き起こす兆候」と警告を発したほか、国際通貨基金(IMF)もすみやかな対応を政府に要請した。

ゴールドマン・サックスはシャドー・バンキング(正規の融資システムを通さない影の融資)の実態などを指摘し、「実際の数字は公表されている数字を遥かに上回る可能性がある」との見解を示している。

中国政府「問題点を誇張し、改革を過小評価している」と不満

中国政府 はムーディーズの判断が、「中国経済の問題点を誇張し、改革への取り組みを過小評価している」と、不服を唱えている。中国政府側の見込みでは、政府債務の拡大は穏やかなペースを維持し、国有企業や地方政府の投資企業による債務膨張による影響は少ないという。国家発展改革委員会(NDRC)も、企業レバレッジ低下措置が効果を上げていることなどを理由に、債務リスクは低いとの認識を示した。

中国本土株を自社の指数に組み入れるか否かを検討中である米金融サービス企業、MSCIのヘンリー・フェルナンデスCEO は、「中国は多くの問題を抱えている」とブルームバーグのインタビューで指摘。

シンガポールのキャピタル・エコノミクスのアナリスト、ジュリアン・イバンス氏は、中国経済が政府の介入なしには改善不可能な地点に達したこと、政府が介入する上で一時的な負債拡大は回避できないことなどを挙げている。

ムーディーズは中国経済の状況を定期的に見直す意向を示している。今後レバレッジが予想を超える急速な拡大を見せれば、信用力はネガティブに傾くが、レバレッジ解消に向けた確固たる兆候が見られれば、信用力にはポジティブな圧力が強まるはずだ。

海外からの投資誘致強化に本腰を入れようとしている中国にとっては、歓迎すべき流れでないことは確かだろう。その一方で、政府は海外への資本流出防止策として、対外投資の規制強化に乗り出している。(アレン・琴子、英国在住フリーランスライター)