要旨

本稿は、中国経済をこれから学ぼうとお考えの方々を対象に、新聞記事やレポートでは通常前提として省略されることが多い基礎的な経済データを、図表を用いて分かり易く解説し、理解を深めていただくことを趣旨としている。

今回はその第十三回目として、「中国の人口問題」を取り上げ、人口問題が経済に与える影響を解説している。具体的には、人口ピラミッドの「富士山型」から「つぼ型」への変化、「一人っ子政策」から「二人っ子政策」への変化、「人口ボーナス」から「人口オーナス」への変化、そして人口構成の変化が住宅市場に与える影響などである。中国経済に関する新聞記事やレポートを読む上で、その一助となれば幸いである。

「富士山型」から「つぼ型」へ変化

現在の中国の人口は約13.83億人(男性は約7.08億人、女性は約6.75億人、2016年)である。前年と比べると約8百万人増えている。中華人民共和国が建国された1949年には約5.42億人だったので約2.5倍になった。1960-61年に大躍進政策の失敗やその後の飢饉で2年連続減少したのを除けば右肩上がりで増加してきた(図表-1)。

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しかし、増加率で見ると、建国から改革開放(1978年)までは年率2%で増加したものの、1980年代は年率1.5%、1990年代は同1.0%、2000年代は同0.6%、2011年以降は同0.5%と伸びは鈍化してきた。この背景には1979年に導入された「一人っ子政策」がある。そして、「富士山型」だった人口ピラミッドは「つぼ型」へと変化している(図表-2、3)。

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人口問題が経済成長の足かせに

◆「一人っ子政策」から「二人っ子政策へ」

人口増加率の低下は経済成長にマイナスの影響を与える。人口増加率が低下すれば、一人当たり個人消費が増えない限り、個人消費の伸びも低下するからだ。前述のとおり人口増加率は改革開放直後の1.455%(1981年)から0.586%(2016年)へと低下した。この間の平均寿命は、政治的に安定したことや経済的に豊かになったことなどを背景に67.77歳(1981年)から76.34歳(2015年)へ伸びた。

しかし、将来の食糧難に備えて1979年に「一人っ子政策」を導入したことから出生率(年出生人数÷年平均人数)は2.091%(1981年)から1.295%(2016年)へと大きく低下し、人口増加率を低下させることとなった(図表-4)。

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その後2013年の中国共産党第18期中央委員会第3回全体会議(3中全会)では、「一人っ子政策」の軌道修正を決定、2016年には「二人っ子政策」に移行した。これを受けて出生率は2015年の1.207%から小幅ながらも上昇した。

◆「人口ボーナス」から「人口オーナス」へ

また、人口ピラミッドの「富士山型」から「つぼ型」への変化も経済成長にマイナスの影響を与える。「富士山型」の時期には、新たに経済活動に従事する若年層が年々増えるため、所得の伸びも高くなり経済成長を後押しする(人口ボーナス)。しかし、「つぼ型」の人口ピラミッドになると、新たに経済活動に従事する若年層が年々減少するため、経済成長の足かせとなる(人口オーナス)。

経済活動人口の推移を見ると、長らく右肩上がりで増加し、中国経済に「人口ボーナス」をもたらしてきた(図表-5)。しかし、財やサービスの生産をする上で中心的な役割を担う生産年齢人口(15~64歳)は、既に2013年の10億582万人をピークに減少に転じており、2016年には10億260万人とピークから322万人も減少している。そして、十分豊かになる前に高齢化が進む「未富先老」への懸念が高まってきた。

そこで、前述の3中全会では「漸進的な定年引き上げ政策を研究・策定する」との方針を示し、「人口オーナス」がもたらす経済への悪影響を少しでも緩和しようと動き出した。

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バブル崩壊の遠因になる恐れも

また、人口構成の変化がバブル崩壊の遠因になる恐れもある。中国では住宅バブル問題が深刻化しており、上海の住宅価格は平方米当たり25,910元(2016年)と10年前の3.7倍に上昇した。当研究所の試算では年間平均賃金の14.1年分に相当し、4~6倍 とされる合理的水準を大幅に上回るとともに、1990年前後の日本のバブル期並みの水準となった(1)(図表-6)。

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日本のバブル崩壊の原因は、大蔵省(現在の財務省・金融庁)による総量規制や日銀の公定歩合引き上げなど様々な指摘があるが、住宅に対する需要の変化も見逃せない。日本の人口動態を見ると、住宅の主要取得層である25-49歳の人口が1980年前後をピークに減少トレンドに転じていた(図表-7)。

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一方、中国の人口動態を見ると、住宅主要取得層(25-49歳)は現在がほぼピークで、今後は長期に渡って減少傾向を辿るものと見られる(図表-8)。中国の住宅価格は、ある年は下落してもその翌年には最高値を更新するというような右肩上がりの展開が続いてきた(図表-6)。

そして、いずれバブルは崩壊すると言われて久しいが崩壊せず現在に至る。その背景のひとつは住宅主要取得層が増加トレンドだったことがある。しかし、今後はその住宅主要取得層が減少し始めるため、金融引き締めなどをカタリスト(触媒)としてバブルが崩壊する可能性は以前よりも高まっている。中国でバブルが崩壊すれば日本経済へ悪影響が波及する恐れがあるだけに、今後の動向に注目したい。

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1)住宅バブルに関しては「 図表でみる中国経済(住宅市場編)~住宅バブルの現状と注目点 」基礎研レター 2016-11-1を参照
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三尾幸吉郎(みお こうきちろう)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 上席研究員

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