景気ウォッチャー調査(17年5月)~旺盛な受注を背景に、企業関連が景況感を押し上げ~
6月8日に内閣府から公表された17年5月の景気ウォッチャー調査によると、景気の現状判断DI(季節調整値)は48.6と前月から+0.5ポイント上昇し、2ヵ月連続の改善となった。2017年以降、節目となる50を依然下回っているものの、景況感は持ち直しに向かっている。内閣府は、基調判断を「持ち直しが続いているものの、引き続き一服感がみられる」から「持ち直しが続いている」に6ヵ月ぶりに引き上げた。
今回の調査では、企業関連は、建設業などの受注が好調であり、懸念となっていた人件費や原材料価格の上昇を価格に転嫁する企業も出てきており、全体の景況感を押し上げた。家計関連においては、客数が伸びている一方で、客単価は伸びていない。また、自動車や住宅の購入には慎重との声が聞かれた。
企業関連が大幅に改善
現状判断DI(季節調整値)の内訳をみると、家計動向関連(前月差0ポイント)は前月から横ばいとなり、雇用関連(同▲0.6ポイント)は悪化したが、企業動向関連(同+3.0ポイント)が大幅に改善し、全体を押し上げた。家計動向関連では、サービス関連(前月差+0.3ポイント)、住宅関連(同+1.2ポイント)が改善したが、小売関連(同▲0.2ポイント)、飲食関連(同▲0.6ポイント)が悪化した。
コメントをみると、家計動向関連では「客単価は今までよりも若干低くはなっているが、来客数が大幅に上がってきている」(九州・一般レストラン)や「来客数は継続して前年を上回っている。前月まで低迷していた紳士婦人衣料が回復傾向にあり、売上を押し上げている」(中国・百貨店)など、来客数が伸びているというコメントが目立った。また、「インバウンド客が増えており、100万円以上の化粧品のまとめ買いがあるなど、売上につながっている」(中国・百貨店)」など、インバウンド需要は好調を維持しているようだ。他には、「新型車が出て3か月が過ぎ、その効果も薄れてきている。先行きが心配になるほどである」(北海道・乗用車販売店)や「6月と9月に売れ筋車種の発売が控えており、買い控えの動きがみられる。また、全体的に盛り上がり感がない」(東北・乗用車販売店)など、乗用車販売店からは慎重なコメントが聞かれた。住宅関連では、「分譲物件や土地の問い合わせは増加傾向にあるものの、成約までには至らない」(北陸・住宅販売会社)など購入には慎重な顧客の姿勢を指摘するコメントがみられた。
企業動向関連では、製造業(前月差+2.8ポイント)、非製造業(同+3.1ポイント)ともに大幅に改善した。コメントをみると、「エレクトロニクス市場、産業機材市場、工具鋼市場共に受注旺盛で繁忙な状況である」(中国・鉄鋼業)などのように、受注の増加に言及するコメントが目立った。非製造業では、「主要荷主の出荷量が激減しているなか、人件費やその他の経費が上昇傾向にあり、厳しい経営状況が当分続く見込みである」(南関東・輸送業)とコスト増を懸念するコメントが引き続きみられる一方で、「労働規制が厳しさを増す中、人件費や労働環境改善費用を運賃に転嫁する方向に動いている」(四国・輸送業)と、価格転嫁を進めている企業も徐々に現れているようだ。
雇用関連では、「求人倍率は高止まりであり、企業の採用が難しくなっているなか、採用に費用をかけるケースが増えている。営業職や各種エンジニアなどの専門職といった幅広い職種での募集が増えている」(東北・人材派遣会社)など、幅広い業種で労働需給が逼迫しているとのコメントが引き続き目立った。
景気の先行き判断DI(季節調整値):2ヵ月連続の改善
先行き判断DI(季節調整値)は49.6(前月差+0.8ポイント)と2ヵ月連続の改善となった。先行きの景況感は2017年に入り一進一退の動きが続いているが、底打ちの兆しがみられる。先行き判断DIの内訳をみると、家計動向関連(前月差+0.6ポイント)、企業動向関連(同+1.7ポイント)、雇用関連(同+1.0ポイント)のいずれも改善した。
家計動向関連では、「来客数の減少に加えて、客単価も低下している。酒類の値上げもあり、客の節約志向はますます強くなるとみている」(東北・スーパー)といった消費者の節約志向を懸念するコメントもみられたが、「5月には購入単価を上げるべく券売機を増設する予定である。合わせて新装オープンイベントを行い来客数増加を図っていく」(東北・競艇場)など、客単価の増加に期待するコメントも増えてきた。また、「夏場はここ2~3か月よりコンビニへの来客数は増加する。ドリンク等も伸びてくるし、気温も上昇すれば、売上は伸びてくる」(南関東・コンビニ)や「今年は猛暑の長期予想もあり、季節家電の動きが活発になる」(近畿・家電量販店)など、予報されている夏の猛暑に伴う消費喚起に期待するコメントが目立った。
企業動向関連では、「鉄鋼向け大規模改修など大型注文の製造が始まり、当面生産量が高止まりの状況になるので多忙になる」(中国・窯業・土石製品製造業)と、今後も受注の増加が見込まれているとするコメントがみられる。一方で、「好調な出荷が継続すれば、業績が上向くので景気は良くなるが、原料価格の上昇が予想されるなど楽観視できる状況ではない」(中国・化学工業)や「海外仕入れ原料、製品の高騰、国内水産原料は高値で推移している。小売店は販売価格に転嫁できず、利益を圧迫していく」(四国・食料品製造業)など、原材料価格の上昇による業績悪化を指摘するコメントがみられた。また、「人手不足で手取り収入のアップ、作業の効率化が進んでいる。同時に、専業への特化による効率化も図られている」(四国・食料品製造業)など、人件費が増す中、業務の効率化に取り組んでいるというコメントもみられた。
雇用関連では、「新卒求人が活発になっており、企業側の採用意欲を感じる。学生の就職活動にも拍車がかかっている」(沖縄・学校)など、売り手市場になっている新卒の就職活動について言及するコメントが目立った。一方で、「求人条件に見合う求職者が少なく、採用決定が停滞する状況が続く」(東海・人材派遣会社)など、求職者と求人の条件が合わず、ミスマッチが起きているというコメントもみられた。
景況感は2017年に入り弱含んだが、足元では持ち直しの動きがみられる。先行きについては、仕入れ価格の上昇や人手不足が企業経営の足枷となる懸念もあったが、価格転嫁や業務の効率化により対応を図っている企業も出てきている。受注は引き続き好調であり、賃金の緩やかな上昇を背景に消費も緩やかに回復してきており、景況感が改善に向かうことが見込まれる。
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白波瀨康雄(しらはせやすお)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部
研究員
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