要旨
- 米国の1-3月期成長率(前期比年率)は、+1.2%(前期:+2.1%)と前期から伸びが鈍化。季節調整の影響に加え、天候要因などにより個人消費が低調となったことが要因。
- トランプ政権発足から4ヵ月が経過したものの、政策運営はスムーズに進んでいない。予算編成や税制改革のスケジュールが大幅に遅れているほか、オバマケアなどの重要政策で議会共和党との政策協調も不透明となっている。このため、政策期待を背景に高水準を維持している消費者や企業センチメントは、期待剥落から悪化する可能性。
- 米経済は、労働市場の回復基調が持続する中、個人消費を取り巻く環境は引き続き消費に追い風となっており、個人消費主導の景気回復が期待できる。さらに、これまで低調であった設備投資の回復が明確となってきたこともポジティブな要因である。
- 今後の米国経済動向は、引き続きトランプ政権の経済政策に左右される。当研究所ではこれまでの予想通り、政策遂行の遅れから経済政策による成長率押上げは17年の成長率の押上げはほぼゼロ、18年も0.3%程度と予想している。この結果、成長率(前年比)は17年が+2.2%、18年は+2.5%となろう。
- 金融政策は、6月、9月に追加利上げが実施された後、12月にバランスシート縮小に着手すると予想する。長期金利は17年末に2%台後半、18年末に3%台前半を予想する。
- 米国経済に対するリスク要因は、米国内の政治リスクに加え、地政学リスクの高まりなどを背景に資本市場が不安定化することが挙げられる。
経済概況・見通し
◆(経済概況)1‐3月期の成長率は前期から伸びが鈍化
米国の1-3月期実質GDP成長率(以下、成長率)は、前期比年率+1.2%(前期:+2.1%)と、2期連続で前期から伸びが鈍化した(図表1、図表3)。
需要項目別にみると、前期に成長を押し下げた外需の成長率寄与度が+0.13%ポイント(前期:▲1.82%ポイント)と、当期はほぼ中立に戻したほか、民間設備投資が前期比年率+11.4%(前期:+0.9%)、住宅投資も+13.8%(前期:+9.6%)といずれも2桁の伸びとなった。一方、政府支出が▲1.1%(前期:+0.2%)とマイナスに転じたほか、在庫投資も成長率寄与度が▲1.07%ポイント(前期:+1.01%ポイント)と、3期ぶりにマイナスに転じて成長率を押し下げた。もっとも、当期の成長率低下は、これまで成長を牽引してきた個人消費が前期比年率+0.6%(前期:+3.5%)と前期から伸びが大幅に鈍化したことが大きい。
個人消費の主要項目別の内訳をみると、1-3月期は財消費が前期比年率+0.3%(前期:+6.0%)、サービス消費が+0.8%(前期:+2.4%)と、財、サービス消費ともに前期から伸びが鈍化した(図表2)。財消費では、自動車関連の消費が▲13.9%(前期:+16.2%)と、2桁の大幅な落ち込みとなったほか、ガソリン・エネルギーが▲7.3%(前期:▲1.7%)と前期からマイナス幅が拡大した。また、サービス消費では、公共料金が▲17.7%(前期:▲16.3%)と前期からさらにマイナス幅が拡大した。
自動車関連消費は、前期から大幅な落ち込みとなったものの、16年12月の自動車販売台数が季節調整済み年率換算で18.4百万台と12月としては過去最高となっていたこともあり、好調であった前期からの反動とみられる。一方、エネルギーや公共料金の落ち込みは、17年2月の全米平均気温が1895年の統計開始以来2番目に高い気温であったことに伴い、暖房消費が落ち込んだ影響のようだ。個人消費を取り巻く環境は後述するように依然として消費に追い風となっているため、1-3月期の消費鈍化は一時的である可能性が高い。
また、近年は季節調整の影響で1-3月期の成長率が低くでる傾向がある(1)ため、今回の結果によって、米景気回復が変調していると考えるのは早計だろう。
一方、消費者や企業センチメントは高水準を維持しており、トランプ政権が掲げる減税策などへの期待は大きいものの、トランプ政権による政策運営は順調とは言い難い。トランプ政権が発足して4ヵ月以上経過するものの、トランプ大統領が選挙期間中に掲げていた政策公約のうち、現段階で実現した政策はTPPの離脱などに留まっている。
また、トランプ政権のスタッフ登用についても、議会で承認が必要な430程度のポストの内、6月8日時点で承認されたポストが40程度に留まっているほか、300近いポストでは指名すらされておらず、スタッフが不足する状況が続いている。このため、トランプ政権の政策立案能力が欠如していることが懸念される。
実際、3月中旬に発表された大統領予算(予算教書)は、通常の予算教書に比べて極めて不完全な内容であったほか、4月下旬に発表された大統領の税制改革案も僅か1枚ものの発表と、極めて内容に乏しく、予算、税制改革などで政策立案能力が欠如している証左だろう(2)。
また、議会共和党との政策協調においても、トランプ政権の調整力には疑問符が付く。政権発足当初から、トランプ大統領と議会共和党はオバマケアの廃止・代替案の作成を政策の最優先課題と位置付けていた。しかしながら、代替案の作成では下院共和党の意見集約に手間取ったほか、漸く5月6日に下院で可決した代替案についても、州が運営する低所得者向けの公的医療制度であるメディケイドに対する補助金の大幅な削減や、無保険者が23百万人増加することに対して上院共和党議員の一部からも公然と見直しを求める声がでており、代替案に関する議会共和党内での意見集約の目処は立っていない。このように、安定政権にも拘らず政策遂行がスムーズに行っているとは言えない。
さらに、トランプ政権とロシアの不適切な関係が指摘されているロシアゲート問題では、連日米メディアが疑惑を報じているほか、議会で公聴会が開かれるなど、トランプ政権は貴重な政治資本を費消しており、これらの問題も政策遂行する上で暗い影を落としている。
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(1)詳しくは、Weeklyエコノミストレター(2015年6月9日)「米国経済の見通し―1-3月期の落ち込みから15年の成長率は14年を下回る見込み」を参照下さい。
http://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=42498?site=nli
(2)詳しくは、Weeklyエコノミストレター(2017年5月12日)「予算編成、税制改革の動向―未だ詳細は不明。議会共和党からの支持が鍵だが、政策協調の可能性は低い」を参照下さい。
http://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=55695?site=nli
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◆(経済見通し)成長率は17年+2.2%、18年+2.5%を予想
米国経済は、労働市場の回復を背景に個人消費主導の景気回復基調が持続している。また、これまで回復が遅れていた設備投資についても、漸く回復が明確になってきており、米経済にとってポジティブな要因となっている。当研究所では前回見通し時(3月)と同様、トランプ政権の経済政策運営は今後もスムーズに進まないと予想しており、経済政策に伴う成長押し上げ効果は17年がほぼ中立、18年が+0.3%と予想している。
一方、消費者や企業センチメントの高さに反映されているように、トランプ政権に対する減税などの政策期待は残っているとみられるため、減税規模の縮小や減税時期が後ズレする場合には、政策期待の剥落に伴い、センチメントの悪化などを通じて実体経済に影響する可能性はある。しかしながら、労働市場の回復持続が見込まれる中、日本を含む世界経済が安定していることなどを考慮すると、政策期待の剥落によるセンチメントの悪化も限定的だろう。当研究所では、成長率(前年比)は17年が+2.2%、18年が+2.5%を予想する(図表3)。
物価については、原油価格が足元(6月8日時点)の45ドル台から17年末に53ドル、18年末に56ドルまで上昇すると見込んでいることから、エネルギー価格が物価を押上げる形で緩やかな上昇が続くと予想される。当研究所では、消費者物価指数(前年比)見通しを17年、18年ともに+2.4%としている。
金融政策は、6月、9月に0.25%の追加利上げを実施した後、12月のFOMC会合でFRBのバランスシート縮小を決定すると予想する。
長期金利は、物価上昇や政策金利の引き上げ継続に加え、FRBによるバランスシート縮小に伴う国債需給の引き締りや、財政赤字拡大に伴う国債供給増などを背景に、18年末にかけて上昇基調が持続すると予想する。もっとも、長期金利の水準は物価上昇が緩やかなことから17年末で2%台後半、18年末で3%台前半までの緩やかな上昇となろう。
上記見通しに対するリスクとしては、米国内の政治リスクと、海外の地政学リスクが高まることに伴う資本市場の不安定化が挙げられる。米国内の政治リスクでは、トランプ大統領の政治手腕が懸念される。トランプ政権が掲げる政策を推進する上では議会との協調が鍵を握っているが、野党民主党だけでなく、与党共和党内でもオバマケアなどの重要政策に対する意見の相違がみられており、政策協調の道筋がみえない状況となっている。現状では、ロシアゲート問題に絡んでトランプ大統領が弾劾される可能性は低いものの、ロシアゲート問題の対応に貴重な政治資本が費消されることで、国内政治が機能不全に陥る可能性がある。夏場に向けてリスクが高まる債務上限の引き上げ問題では、その対応を誤ると米国債がデフォルトする可能性があり、注目される。
一方、北朝鮮や中東情勢の深刻化に加え、欧州でテロが続くなど地政学リスクが高まっているにも関わらず、現状では投資家のリスク回避姿勢は高まっていない。しかしながら、何かのきっかけで、地政学リスクが再び意識される場合にはリスク回避姿勢の高まりにより、資本市場が不安定化する可能性がある。資本市場の不安定な状況が長期化する場合には、米実体経済に悪影響が出よう。
実体経済の動向
◆(個人消費)雇用不安が後退する中、個人消費を取り巻く環境は良好
労働市場は回復基調が持続している。非農業部門雇用者数(対前月増減)は、10年10月から統計開始以来最長となる80ヶ月連続で増加している(図表4)。また、雇用増加ペースも17年は年初来で月間平均16.2万人増と、16年平均の18.7万人増からは小幅低下しているものの、失業率を維持するのに必要な8~10万人を大幅に上回っている。このため、失業率の低下基調も持続しており、5月には01年5月以来の水準となる4.3%まで低下した。
今後の労働市場を占う上で、企業の採用計画をみると、中小企業で採用増加を計画している企業割合が高止まりする一方、これまで採用増加に消極的であった大企業でも、昨年後半からは採用意欲が高まっている(図表5)。このため、企業の強い採用意欲を背景に、今後も雇用増加基調は持続しよう。
次に、賃金上昇率をみると、これまで労働市場の需給を示す労働参加率(3)が改善するのに伴い、時間当たり賃金に改善がみられていたが、5月の労働参加率が2ヵ月連続で低下する中で、賃金上昇率も改善に足踏みがみられる(図表6)。もっとも、労働需給の改善が続くと予想されることから、今後賃金上昇率は再び加速すると予想する。また、消費の原資となる雇用者報酬は、雇用者数の増加が加わるため、賃金上昇率を上回る増加が見込まれる。
一方、5月の雇用統計で雇用者数の伸びが市場予想を下回ったほか、過去2ヵ月分の数値も下方修正されたことから、労働市場が完全雇用に近づく中で、採用が困難になっている可能性を指摘する声もある。しかしながら、労働参加率の回復が足踏みとなっているほか、25-54歳の労働参加率が金融危機前に比べて2%程度低い水準(雇用者数では260万人程度)になっていることから、現段階ではその可能性は低いと判断している。
労働市場の回復に加え、消費を取り巻く環境は依然として良好である。米株価が堅調であることや、減税期待から消費者センチメントが高い水準で推移しており、消費には追い風となろう(図表7)。もっとも、減税規模の縮小や減税時期の後ズレが見込まれることから、政策期待の剥落に伴う消費者センチメントの悪化には注意したい。
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(3)労働参加率は、生産年齢人口(16歳以上の人口)に対する労働力人口(就業者数と失業者数を合計したもの)の比率。
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◆(設備投資)設備投資の回復が明確
民間設備投資は、12年1‐3月期以来の2桁成長となった。また、設備投資の内訳をみると、原油価格の反発に伴い、資源関連の建設投資が大幅な伸びを示したことで建設投資が前期比年率+28.4%となったほか、設備機器投資が+7.2%、知的財産も+6.7%となり、14年4‐6月期以来となる3部門揃ってのプラスとなったことが分かる(図表8)。
さらに、足元で製造業の企業センチメントや、設備投資計画には改善がみられる。全米製造業協会(NAM)が集計している製造業センチメントおよび、今後1年間の設備投資計画(前年比伸び率)の推移をみると、17年1‐3月期のセンチメントは63.5と、好不況の境となる50を大きく上回り、20年来で最高となった(図表9)。また、設備投資計画も14年以来となる前年比+2%程度まで上方修正されてきており、今後も製造業の設備投資は回復が見込める状況となっている。
これら製造業センチメントの改善は、基本的に昨年の後半以降の世界的な製造業の回復を反映した結果とみられるものの、昨年の大統領選挙後に急回復を示していることを考慮すると、トランプ政権の減税やインフラ投資、規制緩和に対する政策期待も一定程度反映されているだろう。このため、消費者センチメント同様、政策期待の剥落に伴うセンチメントへの影響を注視したい。
◆(住宅投資)回復ペースは鈍化も住宅市場の回復は持続
住宅投資は2期連続で高い伸びとなったものの、住宅着工の先行指標である住宅着工許可件数(3ヵ月移動平均、3ヵ月前比)は、4月に▲11.4%と16年5月以来となる2桁の減少となった(図表10)。16年は、許可件数が3月から5月にかけて3ヵ月連続で2桁の減少となった後、16年4-6月期から住宅投資が2期連続でマイナスとなった。このため、今後も許可件数の減少が続くか住宅投資動向をみる上で注目される。
一方、住宅市場を取り巻く環境をみると、雇用不安が引き続き後退しているほか、住宅ローン金利(30年固定)も3月に一時4.5%まで上昇したが、足元は4.2%程度まで低下しており、住宅市場に追い風となっている(図表11)。また、住宅ローン申請件数も足元回復がみられることから、住宅市投資の伸びは鈍化が見込まれるものの、雇用不安の後退に加え、住宅ローン金利の落ち着きから回復は継続しよう。
◆(政府支出、財政収支)予算および税制改革の大統領案提示も先行きは依然不透明
5月23日に漸く予算教書(詳細版)が発表されたことで、予算編成作業が本格化している。予算教書は、本来2月上旬に発表される予定が3ヵ月以上遅れていたことから、予算編成作業は大幅に遅れている。今回発表された予算教書では、現行の予算関連法が継続することを前提としたCBOのベースライン予測に比べて、歳出を大幅に削減することで財政収支を27年度に黒字化する方針が示された(図表12)。さらに、債務残高(GDP比)については16年度実績の77%から、ベースラインでは10年後に89%まで増加すると予測されているのに対して、予算教書では60%まで削減するとしている(図表13)。ちなみに、これらの方向性は、前オバマ政権時代に議会共和党が提示してきた予算案に近い内容となっている。
もっとも、今回提示された予算教書は、非現実的であるとの批判が強い。これは、歳入額の試算においてはトランプ政権が進める税制改革によって、成長率が今後10年平均で2.9%まで高まる効果を織込む一方、税制改革に伴う歳入減などのコストは織込んでおらず、政権に都合の良い数値になっているからだ。
実際、債務残高についてCBOが想定する現実的な成長率予想(今後10年平均で1.9%)に変更するだけでも、10年後の債務残高は60%から76%まで悪化することが見込まれている。これは歳出の大幅な削減にも関わらず、債務残高が現在の水準からほとんど低下しないことを示している。このため、予算教書の財政収支見通しについては、議会共和党も含めて懐疑的な見方が多く、議会共和党がこのまま予算教書を受け入れる可能性は低い。
さらに、10月から開始の18年度予算についても、防衛関連予算を大幅に増額させることについては与党共和党から概ね賛同は得られているものの、防衛以外の予算額を大幅に削減させる案については、野党民主党を始め、一部上院共和党議員からも反対の声が挙がっており、大統領予算通りに議会を通過させることは困難となっている。このため、これからの18年度予算審議において、予算教書からの大幅な軌道修正は不可避だろう。
一方、18年度予算審議とは別に、夏場にかけて債務上限問題が重要課題として浮上してきた。米連邦債務残高には、3月中旬から19.8兆ドルの上限額が設定されており、トランプ政権は上限額を超える国債発行ができない。上限額を超えた場合には米国債はデフォルトするため、債務上限の扱いは非常に重要である。春先に上限額が設定された際には、CBOから上限額に抵触する時期として秋口との見通しが示されていたが、その後、税収が下振れしたことで上限に到達する時期が前倒しとなる可能性が高くなっている。このため、ムニューシン財務長官は、議会が8月の夏休みに入る前に上限額を引上げるよう要求している。
当初は、18年度予算審議と併せて債務上限額について審議されるとみられていたものの、予算編成や税制改革審議があまり進んでいない状況下で対応する必要がでてきた。オバマケアの代替案作成の目処が立たず、ロシアゲート対応もあってただでさえ審議日程が窮屈になっており、トランプ大統領の政権運営は益々困難となっている。
◆(貿易)6月に発表される不公正貿易に関する報告書に注目
1-3月期の純輸出は、前期の大幅な成長押し下げからほぼ中立に改善したが、輸出入の内訳をみると、輸入が前期比年率+3.8%(前期:+9.0%)と伸びが鈍化したほか、輸出が+5.8%(前期:▲4.5%)と伸びが加速しており、輸出入ともに純輸出の改善方向に働いたことが分かる。
前期までは、米国産大豆に絡む特殊要因から純輸出の成長率寄与度の変動が大きくなっていたが、当期は漸くその影響が剥落した。
先日発表された4月の貿易収支は、季節調整済みで▲476億ドル(前月:▲453億ドル)の赤字と、前月から赤字幅が拡大した(図表14)。輸出額が前月から▲5億ドル減少する一方、輸入額が+19億ドル増加しており、4-6月期の外需は再び成長率を押し下げるとみられる。
一方、今後の外需を占う上でトランプ政権の通商政策動向が注目される。トランプ大統領は、3月末に貿易赤字の原因となる貿易上の不正行為を特定するための大統領令に署名しており、90日以内の報告書提出を求めている。今月中に発表するとみられる報告書では、国、商品毎に不公正行為によって米国が受けた損害額が提示されるようだ。このため、報告書の内容次第では、特定の国や商品に対して対抗措置を採ってくる可能性があり、貿易収支への影響も含めて注目される。
物価・金融政策・長期金利の動向
◆(物価)エネルギー価格が物価を押し上げ
消費者物価の総合指数(前年同月比)は4月が+2.2%となり、2月につけた+2.7%からは2ヵ月連続で低下した(図表15)。消費者物価は、原油価格の反発に伴い16年7月の+0.8%を底に上昇してきたものの、足元で原油価格が頭打ちとなったことで、エネルギー価格の物価押し上げに陰りがみられる。
一方、エネルギーと食料品を除いたコア指数は、携帯電話料金下落などの一時的な要因から3月、4月と2ヵ月連続で低下しているものの、概ね2%近辺で安定しており、基調としての物価が安定していることを示している。このため、暫くは原油価格動向に左右される展開が続こう。
当研究所では、原油価格は、足元(6月7日時点)の45ドル台から17年末に53ドル、18年末に56ドルまで緩やかに上昇すると予想している。これらの原油想定を前提にすると、原油価格は18年末まで前年比での上昇基調が持続することから、当面エネルギー価格が物価を緩やかながら押し上げる状況が続こう。当研究所では消費者物価見通し(前年比)を17年、18年ともに+2.4%と予想している。
◆(金融政策)年内6月、9月の追加利上げ。12月のバランスシート縮小開始を予想。
6月13-14日に実施されるFOMC会合では、0.25%の追加利上げが確実だ。焦点は足元の雇用増加ベースの鈍化や、インフレ率低下にどのような判断を示すか。また、年後半から開始すると意欲を示しているバランスシート縮小の方針についてどのような議論がされるのか、FOMC会合後のイエレン議長の記者会見が注目される。
当研究所では、失業率がFOMC参加者の17年(4.5%)や長期見通し(4.7%)を下回っているほか、雇用増加ペースが鈍化したとは言え、失業率の維持に必要な8~10万人ペースを上回っていることから、労働市場が完全雇用に近づいているとの従来の見通しを変更する可能性は低いと考えている(図表16)。さらに、物価についても賃金上昇率の回復が足踏みしていることや、原油価格の頭打ちによって物価見通しを下方修正する可能性はあるものの、米国の底堅い成長が持続する中で、中長期的に物価が緩やかに上昇するとの見方にも大きな修正はないと考える。
一方、金融政策の意思決定において影響が大きいトランプ政権の経済政策については、依然として不透明な状況となっているものの、FOMC参加者の多くはその効果を見通しに含めていないとしており、今回の政策金利見通しに与える影響は限定的だろう。このため、FRBは6月を含めて年内2回の利上げ見通しを維持することが見込まれる。
一方、バランスシートの縮小については、6月FOMCで何らかの方針が示される可能性はあるものの、年後半とみられるバランスシート縮小時期の前倒しについて言及する可能性は低いだろう。FRBには、13年5月にバーナンキ前FRB議長が量的緩和政策の縮小に言及したことをきっかけに、世界的な資本市場の不安定化を招いた苦い経験がある。今回のバランスシートを縮小するための再投資方針の見直しを提示する際に、同様の事態を避けるため、資本市場とのコミュニケーションは慎重に行うだろう。当研究所では、FRBは6月と9月に政策金利を引上げたあと、12月にバランスシートの縮小を開始すると予想する。
◆(長期金利)18年末にかけて緩やかな上昇を予想
長期金利(10年国債金利)は、11月選挙前の1.8%台から12月には一時2.6%近辺まで上昇した後、足元は2.2%近辺まで低下している(図表17)。原油価格が頭打ちしているほか、選挙後の金利上昇が、トランプ政権の政策に対する期待先行で上げ過ぎていたこともあり、これまでの金利低下に違和感はない。
この先の長期金利については、物価が緩やかな上昇を続ける中で、政策金利の引き上げが持続することやFRBのバランスシート縮小に伴う国債需給の引き締りや、財政赤字拡大に伴う国債供給増などを背景に、18年末にかけて緩やかに上昇すると予想する。
もっとも、バランスシート縮小の方針提示によって一時的に金利が急上昇する場面はあろうが、原油相場の上昇が緩やかなほか、政策金利引き上げも年内合計0.5%に留まると予想しているため、17年末に2%台後半、18年末に3%台前半と上昇幅は限定的となろう。
(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
窪谷浩(くぼたに ひろし)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部
主任研究員
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