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みなさんは、ブリグジット(Brexit)って知っていますか?
まず用語の解説から。ブリグジットとは、「イギリス(Britain)がEUを出ていく(Exit)」という意味の造語です。(ちなみに、ギリシャ(Greece)がユーロを離脱(Exit)するグリグジット(Grexit)という造語もあります。)現在イギリスは「ユーロ」には不参加なものの、EUには加盟しています。今回、このイギリスがとうとうEUからも離脱してしまう可能性があるという事で、水面下で問題となっています。この危険すぎるブリグジット。実現してしまうと大変なことになってしまいます。そこで今回はまだまだ情報が少ないこのブリグジットについて、問題の背景と今後の見通しも含め、お伝えしていきます。

そもそもEUのメリットとは?

そもそもEUとは、ざっくり言うと、ヨーロッパでの政治・経済の「統合体」のことです。現在、27の国がこのEUに加盟しています。メリットはとにもかくにも、EU圏内において原則「関税が撤廃」されることです。(この点は、日本でもっぱら話題になっているTPPも同様。是非はともかく。)

なぜなら、EUは世界のGDPの「3分の1」と言われています。その中で「関税が撤廃」されて自由貿易が行われるとすると、例えばドイツのような工業国(ベンツ・BMW・ポルシェなど)は大きな市場を関税なしでビジネスができることになります。そんなEU、パワーバランスはどうなっているのでしょうか?

EU内での対GDP比上位は下記です。
1位 ドイツ 19%
2位 イギリス 17%
3位 フランス 15%
いわゆるスリートップ、EUのパワーバランスはこの3強によって成り立っています。
(ちなみに話題のギリシャは 2.2%。ワースト3はキプロス・エストニア・マルタの3国です。)

「EU」と「ユーロ」は別モノ

EUに加盟している国のなかでも、ユーロ圏(ユーロゾーンともいう)といわれるものがあります。今、このユーロ圏には17の国が加盟しており、ご存知「ユーロ」を共通通貨として導入しています。EUに加盟している国すべてがユーロ圏に加盟しているわけではありません。(EU≠ユーロ圏)そして、ユーロ圏では、金融政策は、ECB(欧州中央銀行)が決定しています

(総裁はマリオ・ドラギ)(日本では日銀(日本銀行)、アメリカではFRB(連邦準備制度理事会)に相当します)

ちなみに、このユーロを導入するには、物価など一定のレベル(審査)を満たす必要があります。そんな中、自主的にユーロを導入していないのが、イギリス(英国)です。(他には、デンマーク、スウェーデンの2国もありますが)

EUを離脱したい理由「イギリスはヨーロッパではない」

なぜイギリスはEUを離脱したいのか?なぜユーロを導入しないのか?ヨーロッパがキライなのでしょうか?

イギリスは、かつて世界を制した大英帝国。そういったプライドがイギリス国民にあり、「イギリスはヨーロッパではない。イギリスはイギリスだ!」という意識があるのは事実です。そうした中、対GDP比トップのドイツが主導権を握っているEUに、イギリス様がドップリ浸かるわけにはいかないと考えるのかもしれません。EUには入っているが、ユーロを導入していないという「中途半端な足の踏み入れ方」にもイギリスの態度が見て取れます。

きゅうりの「曲がる角度」にこだわる?

さらにイギリス国内での、メディアによる「反EU」報道も、大きく影響しています。メディアはEUの執行機関、欧州委員会を様々な角度から批判していました。それは、さも日本のメディアが、各省庁役人の法外な待遇や、官僚主義を批判するように。その結果、イギリス国民の反EU感情(EU懐疑論、ユーロスケプティシズムEuroscepticismともいいます)は日に日に増大していきました。

実際、EU機構で働いている人材が5万人以上もいて、EU全予算の6%が人件費と言われています。EU議員の給料は各国の首相よりも高く、立派な官舎やその他厚遇の手当等を受けています。さらに、不必要な法律を乱立させ、すべての商品の製造方法、形状などを規格化させました。例えば、きゅうりの曲がる角度まで規制で決めるという徹底ぶり。その結果、ブルガリアのヨーグルトが「ヨーグルト」と認められなくなったという、笑い話のような本当の話もあります。

「イングランド銀行を負かした男」

突然ですが、ジョージ・ソロス氏という人物はご存知でしょうか?現在の総資産は「2兆円」以上と言われている、ヘッジファンド界では知らない人はいないと言われている、伝説の投資家です。この男「イングランド銀行を負かした男」と言われています。彼がした「ある」ディールにより、イギリスは深いトラウマを抱えています。

今から25年ほど前、当時EUの前身であるEC(欧州共同体)は、ECに加盟している国の為替レートを「一定の範囲内に固定」する制度を採用していました。これをERM(欧州為替相場メカニズム European Exchange Rate Mechanism)といいます。当時イギリスもこのERMに加盟していました。そんな中、1990年といえば東西ドイツの統一。これによりドイツの通貨マルクが上昇し、それにつられ英ポンドも上昇しました。

ジョージ・ソロス氏率いるヘッジファンド「クウォンタムファンド」は、独マルクにつられただけの英ポンドの実体価値を見抜き、大量にポンドの売りを仕掛けました。イングランド銀行は、ポンド買いの市場介入に加えて、公定歩合を10%から12%へ引き上げ、さらに同日中にもう一度15%に引き上げたが、それでも売り浴びせは止まらず、イングランド銀行は「この男」に敗北。事実上のERM脱退となりました。これをポンド危機または、ブラック・ウェンズデー(黒い水曜日)といいます。ソロス氏はこのディールにより20億ドルもの利益を得たと言われています。

この1件が未だにサッチャリズム(ユーロ不参加。国の通貨は選挙で選ばれた一国の政府が行うべき)の強固な支持につながり、イギリスのユーロ不参加、そして今回のEU脱退にも影響を与えていると思われます。

2014年イギリスで新たな「火種」が!

さらにイギリスには、まだあまり報じられていないのですが、今年イギリス史上最も大きな出来事が起ころうとしています。
それが、スコットランド独立問題です。そもそも、イギリスとは1つの国ではなく、「イングランド」「スコットランド」「ウェールズ」「北アイルランド」の4つの国の連合国です。(なので、サッカー選手ベッカムは「イギリス」代表ではなく「イングランド」代表なのです。)

ちなみに、イギリスの国旗(ユニオンジャック)は上記4つの国の国旗を重ねあわせたものです(ウェールズだけ絵面が合わせづらかったので入っていません。入れようとする動きもあります。)

そんな4つの国のうちの1つ、スコットランドが独立をするかもしれないのです。実際に、2014年9月18日に独立するかどうかの住民投票が行われます。この結果、賛成票が上回ると、2016年3月には独立が実現します。
さらにスコットランドは独立後、EUに加盟するとかしないとかの話も出てきています。

現在はウクライナ問題がメインで報道されていますが、2014年下半期はこのスコットランド独立問題がメディアを賑わすことが予想されます。EU問題と合わせてこちらもかなり気になるところです。

今後の流れ。まずは、キャメロン氏率いる「保守党」の勝利が必須条件!

今後のイギリスとEUを巡る流れについて抑えておきたいと思います。

2015年5月   イギリスで総選挙(保守党が勝てば予定通り国民投票へ)
2017年まで   EU脱退を決める国民投票
2017年以降?  EU脱退

まずは、イギリスがEUに脱退すべきか否かの国民投票を2017年までに行うと、キャメロン首相が公約をしました。そして、2015年5月17日にはイギリスで総選挙があります。そこで、まずは公約をしたキャメロン率いる保守党が勝利する必要があります。なお、現状、世論調査では過半数が「EUを脱退すべき」としています。なので、上記総選挙で保守党が勝利すれば、ブリグジットがますます現実味を帯びることになるでしょう。

ポンド円はここ5年で、最高水準へ

最後に、テクニカルアナリストの立場から見ると、現在(2014年5月)、ポンド円の為替レートはリーマン・ショック以降、最高水準を維持しています。さらにヘッジファンドのポンド買いも最高水準に推移しているとの事。このまま順調に上昇するか、どこかで再び大暴落するか。いずれにせよ、ここ3年はイギリスにとって重要なフェーズになることは間違いなさそうです。

今後、確実に世界のマーケットの注目を集めるであろう「ブリグジット」。イギリスの動向にますます目が離せません。

photo credit: Alex E. Proimos via photopin cc