「民泊」が話題になって久しい。一般の家の一室や使っていないアパート、マンションを安価な値段で貸すことが「民泊」だが、手軽にできるだけにトラブルも少なくない。行政書士である筆者のところに相談に来たAさんも、この「民泊」で迷惑を被っている一人だ。Aさんが住んでいるマンションのある部屋が「民泊」に利用されているようで、当職に「どう対応したらいいですか?」と困った様子だった。
無届の「民泊」では?
Aさんの話によると、同じマンションに住む人が、不特定多数の人に一時的に部屋を貸している様子だという。夜中に時々、大きな話し声が聞こえてきたり、ゴミの集積所にたくさんのゴミが散乱したりしている。見知らぬ外国人を複数見かけるようになった。
Aさんはマンションの管理会社に連絡し、実態を話した。管理会社はマンションのエントランスにある「掲示板」に「騒音、ゴミ出しに注意してほしい」旨の張り紙を掲示したり、一戸一戸のポストに同じ内容チラシを入れたりして、それなりに対応したが、効果はほとんど見られない。そこで、業を煮やして当職の所に相談に来られたのである。
民泊の現状と法律
Aさんのマンションで、実際に「民泊」が行われているかどうかは別にして、当職はまず、「民泊」の現状と法律について、説明を行った。
最近日本では、海外からの観光客が急増して、ホテルや旅館などの宿泊施設が慢性的に不足をしていることは、多くのマスコミが伝えている。また、観光客に限らず、地方都市で人気歌手のコンサートなどが行われた場合でも、宿泊施設を探すのがひと苦労だという。
「不足しているなら増やせばいいではないかと素人は勝手に考えるが、宿泊施設のための敷地の確保や消防法や条例などに合致するような建築、さらに従業員などの人手の確保も必要になる。
しかし何よりも重要なのは、新たに宿泊施設を作っても安定的な「稼働率」が確保できるのかという問題である。観光シーズンや人気歌手のコンサートなどが開催される時期であれば、高い「稼働率」が見込めるが、それ以外の時期には、なかなか部屋が埋まらない状態は、すぐに経営状態に影響を与える。つまり、ある程度恒常的に「稼働率」が見込めないと、新たな宿泊施設の建設は難しいのである。
そこで、今ある「空室」を宿泊施設に転用しようというのが「民泊」である。この方法であれば、あらたに建設する必要もなく、空き家、空き室の有効利用にもなる。まさに、一石二鳥の方法なのだ。
「民泊」のどこが、なぜ問題なのか
宿泊希望者と宿泊施設をマッチングするサイトがいくつかがある、問題なのは宿泊客に空き家、空き室を提供して、金銭を受け取ることは、「旅館業」に該当するのである。無届けで旅館業を運営することは、あきらかにこの法律に違反している。
「旅館業法」では、宿泊施設を「ホテル営業」、「旅館営業」、「簡易宿所営業」、「下宿営業」の4種類に分けているが、「民泊」はこの中の「簡易宿所営業」に該当する。「民泊」に問題があると主張する人は、民泊が簡易宿所としての認可を受けていないため、「旅館業法」に違反している、と言うのである。
旅館業を管轄している厚生労働省は、「仲介サイトを通じて、反復継続して有償で宿泊施設を提供する者は認可が必要」としている。「反復継続」、「有償」という点で、旅館業を営んでいると解釈されているのである。
管理会社と保健所に連絡を
そこで次の2点をAさんにアドバイスした。
まずマンションの「管理規約」を確認し、「『転貸し』の禁止」の条項の確認である。ほぼ全てのマンションやアパートでは、「転貸し」を禁止している。入居の際に契約者とその家族という限られた人が生活することを条件に賃貸借契約を結んでいるはずである。
もし同じマンションで「民泊」をしているのであれば、明らかに「管理規約」違反である。この点をもう一度、管理会社に確認し、調査をお願いするのである。
もう一つは行政への相談である。先程述べたように、無許可で「民泊」を行っていた場合には、明らかに「旅館業法」違反である。「民泊=簡易宿所業」の許可を取っていないのだから、相談先は市町村役場(保健所)になる。
保健所に、民泊を無許可で行っている恐れがある旨を通報すれば、保健所の担当者が現地におもむいて該当者から聞き取りを行う。
その結果、無認可で「民泊」を行っていることが明確になれば、行政(保健所)から民泊を止めるような「行政指導」が行われる。ただしこの「行政指導」には、法的拘束力がなく、中には従わない人もいるが、それでも悪質な場合には、警察の通報されることもあるので、効果はあるはずだ。(井上通夫、行政書士)