アメリカなどで相次いだエアバッグ事故の影響で、大手エアバッグメーカーのタカタ <7312> が6月26日、1兆円を超える負債を抱えて東京地方裁判所に民事再生法の適用を申請し、受理された。

東京証券取引所も7月に株式の上場廃止となる。国内の製造業では戦後最大の経営破綻となったわけだが、同社が同族経営であり、経営トップの高田重久会長兼社長が3代目であることも話題となっている。

巷では「会社は初代が大きくし、2代目が傾け、3代目がつぶす」などと否定的に語られることもあるが、逆に会社を大きく成長させた3代目の名経営者はいないのだろうか。5人をピックアップして紹介する。

(写真=PIXTA)
(写真=PIXTA)

社食レシピ本が爆発的ヒット
――タニタ、谷田千里氏

体重計など計測器メーカー大手のタニタは創業1923年(大正12年)。当時はシガレットケースや貴金属宝飾品などを手がけ、戦時中は軍用通信機部品などを生産した。家庭用体重計は1959年から製造を始め、世界初の体脂肪計や体組成計などの開発でブランドを確立した。ただ、やはり同社の名を世に知らしめたのは、同社の社員食堂のレシピ本『体脂肪計タニタの社員食堂』の大ヒットだろう。

その少し前の2008年、3代目社長に就任したのが谷田千里氏だ。おいしいうえに満腹になり、しかも健康的にダイエットができるという本の内容は、メーカーという会社のカタいイメージ打破につながったが、社長自身もニコニコ動画に出演するなどして徹底して若い世代へのアピールを行った。また、業績アップのためイノベーションを促す人事制度として社員の給料を2割カットする代わりに、就業時間に業務外の好きな活動ができる「チャレンジャー制度」も導入、常に社員に率先垂範して会社を引っ張っている。

初めて講談社に勝った小学館の3代目
――小学館、相賀昌宏氏

創業1922年(大正11年)の総合出版大手、小学館の現社長、相賀昌宏氏も3代目だ。同社は子供向けの漫画や雑誌で国民に広く知られており、2013年に取り壊しになった3代目本社屋は「オバQビル」と呼ばれていた。

長らく講談社の後塵を拝していたが、昌宏氏就任後の2006年、前年度の総売上高が講談社上回って初めてトップに立った。当時、「エビちゃん」こと蛯原友里さんが大人気で、専属モデルを務めるファッション誌「CanCam」が売れまくっていたことが主な勝因だった。

残念ながら、小学館の天下もその年限りで、翌年には講談社に業界最大手の座を奪還される。現在、総合出版業界はKADOKAWAとドワンゴが経営統合したカドカワ <9468> が圧倒的シェアを誇っており、再びトップの座につくことは難しい。しかし、「ドラえもん」など多くの国民の心をとらえるキラーコンテンツを持っていることから、今後もその存在感に揺らぎはないだろう。

マグナムドライが大ヒット
――サントリー、鳥井信一郎氏

1899年、ぶどう酒を製造販売する「鳥井商店」として始まった酒造メーカーのサントリーも、創業以来、同族経営を続けている。

現在は5代目で、たくさんの商品を展開して業界を牽引する存在になっているが、1990年に社長に就任した3代目の鳥井信一郎氏は、発泡酒を国内で初めて販売したことで知られる。「マグナムドライゴールデントライ」「ダイエット生」などは人気を博し、さかんにCMでも流れていた。

「第三のビール」(当時)の登場でシェアが縮小し、現在、サントリー公式サイトを見ると、発泡酒は商品ラインナップから姿を消している。

3代目で急拡大
――築地玉寿司、中野里孝正氏

1924年(大正13年)に東京・築地で創業した「築地玉寿司」(東京都中央区)は現在、首都圏や札幌、名古屋の百貨店や商業施設などに江戸前にぎりの寿司店29店舗を展開する。

寿司店では珍しい食べ放題メニューを取り入れたり、女性に親しまれる店作りをしたりなどで人気を集めている。2代目を継いだのは創業者の妻で、3代目となったのは息子の中野里孝正氏だ。

孝正氏は渋谷東急プラザ9階に第1号となる支店を開業した。銀座コアに近代的和洋インテリアと均一価格の店をオープンするなど、チェーン化を続々と展開した。店舗では「つ・き・じ・た・ま・ず・し」の平仮名で描かれている顔マークを見かけるが、この顔は3代目の中野里孝正氏の笑顔をモチーフとしているという。

現在、4代目社長の陽平氏は創業者の孫なので、世代でいえば3代目だ。陽平氏も会社の財政再建を行うとともに若者に受ける店舗やメニュー作りなど次々とアイデア力を発揮するほか、次世代の寿司職人を養成するための学校を開くなどしている。

表装文化が海外で大人気
――マスミ東京、横尾靖氏

表装・内装、ふすま材料の販売を手がける「マスミ東京」(東京都豊島区)は、現在、3代目の横尾靖社長だ。もともとはふすまのメーカーで廃業する予定だった会社を、横尾氏が義父から受け継いだという。

アメリカのオバマ前大統領がお気に入りというシアトルのチョコレートショップ「フランズ・チョコレート」のギフトセットの箱に、同社プロデュースの茶箱ボックスが使われアメリカで人気が沸騰、国内でも同社は広く知られるようになった。横尾氏は現在、表装文化を世界に広めるための活動に邁進している。(フリーライター 飛鳥一咲)