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こんにちは、経済学修士号を取得後、株価推定の事業・研究を行っている「たけやん」です。宜しくお願いします。

今回は、ブラジルのレアル相場がソブリン危機の影響を僅かにしか受けず、上昇していった背景について書きたいと思います。
まず、実際にどのような為替レートの推移を示したかを実質実効為替レートから検証した上で、
(1)債務国から債権者への転換
(2)投資対象の柱としての認識
(3)為替介入への楽観視
がその動きの理由にあるという事を説明します。また、最後に中長期的なリスクを補足します。


ソブリン危機後のレアル相場の急回復

下図は、ユーロとブラジルの実質実効為替レート指数の推移を示しています。この指数は、値が高いほど通貨高、値が低いほど通貨安を意味します。図によると、2009年10月のギリシャ政府の粉飾決算が明らかになった時期からユーロが大幅に下落し、その後ユーロ安の状況が続いています。

一方でブラジルの実質実効為替レートは、同時期に僅かにレアル安になりましたが、その後急速に回復し、レアル高になりました。
その後、財政赤字問題などからレアルが下落していますが、少なくとも欧州ソブリン危機の影響はあまり受けず、1年半近く相場が上昇し続けた事は事実です。 ブラジルと欧州の経済的な結びつきは強く、欧州ソブリン危機の影響を多く受けるという見通しもありましたが、少なくとも為替レートに関しては欧州の影響をあまり受けませんでした。

これは何故でしょうか。

ユーロとブラジルの実質実効為替レート指数の推移

行天(2011)は、この理由について
(1)債務国から債権者への転換
(2)投資対象の柱としての認識
(3)為替介入への楽観視
から説明しています。

参考:行天豊雄(2011)『世界経済は通貨が動かす』PHP研究所

では、この議論を紹介した上で、今後のブラジル経済について考えてみましょう。


債務国から債権者への転換

ブラジルは、2008年に純債務国から純債権国に転じています。
純債務国とは対外資産よりも対外債務を上回っている状態で、純債権国とは対外債務よりも対外資産が上回っている状態です。
一般に純債権国である事は国の信認に繋がり、欧州ソブリン危機後の為替レート上昇も純債権国である事が影響していると行天(2011)は述べています。

日本の債務残高は極めて多いですが、その割には長期金利が低くおさまっている理由の一つに世界一の債権国である事があることからも、債権国への転換の重要性が分かるでしょう。勿論、日本もブラジルも、長期的には対外債務の多さはリスクになるのですが、少なくとも短期的な相場変動に関してはあまり関係ありません。


投資対象の柱としての認識

債権国としての信頼に加え、投資対象としての魅力から資金が流入して、ソブリン危機直後でも直ぐに相場が上昇したと考えられています。 ここ2~3年は実質経済成長率が低下していますが、 欧州ソブリン危機までのブラジルは、リーマンショック直後などを除いて高い成長を続けていました。 資本は、高い成長が見込めるものに集まるので、日本の長期不況、米国のリーマンショックによる経済停滞、欧州のソブリン危機による停滞などがある中で、ブラジルなど新興国は魅力的な市場になっています。

また、行天(2011)によると、欧州からのブラジルへの対外投資も積極的ですが、欧州系金融機関による資金調達手段が主に現地での預金となっている事から、欧州ソブリン危機の影響を受けにくいという事も指摘しています。この点が、アメリカから始まった世界金融危機が世界的に影響を与えた事とは大きく異なります。


為替介入への楽観視

一方で欧州ソブリン危機直後のブラジルは通貨高による交易条件の改善により、内需が拡大する事によって輸入が増える等の理由で、経常収支の赤字が拡大していました。その頃のブラジルは為替介入などで通貨高に対抗する動きもあったわけですが、行天(2011)は、この事象すらも、「西洋期待が強く資本が引きつけられている証左」であると解釈され、相場に対してポジティブな影響を与えていると述べています。

最近は、ブラジルの経済成長率の鈍化や、日米経済の回復などにより、やや買われ過ぎだったレアルが売られ、相場が下落していますが、少なくとも欧州ソブリン危機直後の相場上昇については、為替介入に楽観視するほどポジティブに見られていたという解釈も無理は無いでしょう。(買われ過ぎの反動がくるほどブラジル経済が投資家に好意的に捉えられていたという事です。)


中南米経済の中長期的リスク

では、今後のブラジル経済はどうなるでしょうか。
中長期的に見れば、前述したように債務残高や経常収支赤字の問題など懸念すべき事項はまだまだ多いです。また、行天(2011)が指摘するように、①一次産品価格と中国などの大口需要国の動向、②国内の経済格差と政治の左傾化などの問題もあります。
①については、ブラジルは鉄鉱石など資源が豊富な国であり、その価格が景気に大きな影響を与えるという問題があります。②については、経済格差が慢性化する事により、ベネズエラのように政治が左傾化して国際協調路線から離反して金融システムが不安定化するというリスクです。

一方で、最近のレアルは逆に売られ過ぎの懸念もあります。
経済成長率は鈍化していますが、マイナス成長をしているわけではないものの、2009年末時点よりも実効為替レートベースでレアル安になっているからです。 上記のリスクは過渡的なもので、上下落を繰り返しつつも、経済成長に伴って長期的にはレアル相場が高くなっていくというのが妥当な解釈 ではないでしょうか。

photo credit: R. Motti via photopin cc