こんにちは、経済学修士号を取得後、株価推定の事業・研究を行っている「たけやん」です。宜しくお願いします。

バブル崩壊後の日本は「失われた20年」と呼ばれているわけですが、その間の経済成長率はどうだったのでしょうか。本稿ではバブル以降の日本の経済成長率を見る事で、この20年間も経済成長していたという事を論じます。

まず、GDPの概念について整理し、その成長率として名目経済成長率と実質経済成長率の違いを見ます。実質経済成長率でみると、バブル以降も成長している年が多いです。その上で、自然成長率の観点から日本の経済成長率を分解し、低成長の要因は労働生産性のマイナス成長である事を示します。その上で、経済成長に必要なポイントを補足します。

GDPとは

GDP(国内総生産)は、一定期間内に当該国内で産出された付加価値の総額を表します。多くの場合は1年間に国内で産み出された付加価値を総額して推計されています。

GDPというのはあくまでも「生産面」から見た推計で、「分配面」から見たGDI(国内総所得)も、「支出面」から見たGDE(国内総支出)も理論的には同じになります。(推計誤差が出ます。)この3つが等しい事を「GDPの三面等価の原則」と言います。 ケインズ経済学の基礎的なモデルでは、以下のようにGDPを表現する事が多いです。

GDP (GDE) = C + I + G + (X – M)

ここでCは民間支出、Iは民間投資、Gは政府支出、Xは輸出、Mは輸入を表します。これを基本に複雑な分析が行われますが、GDPの基礎概念である「国内で生産された」付加価値を理解する上では、これで十分でしょう。

名目経済成長率と実質経済成長率

上記のGDPは、いわゆる名目GDPであり、長期時系列で見ると問題がある事が多いです。インフレ率の概念があるからであり、額面は同じでも、過去のGDPと現在のGDPの価値は異なる場合があります。

このように、インフレ率を考慮せずに名目GDPの成長を見たものが名目経済成長率で、インフレ率を考慮した経済成長率を実質経済成長率と言います。

確かに、図1のように、日本の名目GDPの推移を見ると、バブル崩壊以後は伸び悩んでいるどころか減少傾向にあります。「失われた20年」と言われるのは、この辺りが影響しているでしょう。

図1:日本の名目GDPの推移

出典: 世界経済のネタ帳

注:2013年はIMFによる推計値

日本はバブル後も経済成長し続けている

ご存知の通り、近年の日本はデフレ傾向にあり、実質経済成長率で見れば一部を除いてバブル以後も経済成長しています。図2は、日本の名目経済成長率と実質経済成長率の推移を示しています。実質経済成長率を見ると、2009年はリーマンショックによって主要国の多くがマイナス成長でしたし、2011年は東日本大震災の影響でマイナス成長であったものの、それ以外では1998~1999年以外はプラス成長しています。

図2:日本の名目経済成長率と実質経済成長率の推移

出典: 世界経済のネタ帳

とは言え、「派遣社員も増えて貧しくなっている」という反論があり得るので、下図3の一人当たりGDPの推移も見て置きましょう。一人当たり実質GDPも、購買力平価で見た一人当たりGDPのいずれも増加し続けています。

図3:日本の一人当たり実質GDP・購買力平価換算のGDPの推移

出典: 世界経済のネタ帳

一方で、所得格差が拡大しているのは事実です。図4のように主要国の中では平等な部類ではあるものの、日本のジニ係数は上昇傾向にあります。

図4:主要国のジニ係数の推移

出典: 平成21年全国消費実態調査 各種係数及び所得分布に関する結果(総務省統計局)

日本の経済成長要因の分解

では、この経済成長は何によって引き起こされたのでしょうか。細かく見ればその要因にはキリが無いですが、その多くは「労働生産性成長率」と「労働人口成長率」で説明する事が可能です。

ハロッド=ドーマーは自然成長率という概念を提唱し、これは労働人口成長率と生産性成長率を足したものです。経済成長率と自然成長率が等しい場合は完全雇用状態になり、現実に自然成長率と経済成長率が一致する事は考えにくいですが、簡易的に経済成長要因を分解する上では、自然成長率の概念を利用出来ます。

生産性成長率というと労働生産性成長率や資本生産性成長率など細かな分析が必要ですが、ここでは簡単に労働生産性成長率と置換え、労働人口成長率と一緒に経済成長要因を分解してみましょう。

図5は、労働人口成長率と労働生産性成長率を棒グラフとして積み重ねたものと実質経済成長率を比較しています。これを見て分かる通り、労働人口成長率と労働生産性成長率で実質経済成長率のかなりの部分が説明出来ます。

図5:日本の経済成長要因の分解

出典:労働生産性成長率と労働人口成長率は「 労働力調査 長期時系列データ(総務省統計局) 」より筆者が計算した。実質経済成長率は図2と同じ。

注:労働生産性は「実質GDP ÷ (就業者人口 × 延週間就業時間)」で計算し、労働人口は就業者数を利用し、それぞれの前年比を成長率として利用した。

経済成長に必要なこと

図5を見て分かるように、バブル以前は労働生産性も労働人口も伸びており、高い成長をしていましたが、バブル以後は労働生産性が伸びていますが、労働人口が経済成長を押し下げる効果を持っている年が多いです。2004~2007年は派遣労働者の増加などで就業者人口は増えていますが、それ以外は基本的に労働人口がマイナス成長です。

労働生産性成長率も長期的に見れば鈍化していますが、それは成熟国家においては当然の帰結で産業革命のような飛躍的なイノベーションが起こらない限りは難しいでしょう。ただ、TPPがサービス産業の労働生産性を上昇させる効果はあると思います。

労働人口は、日本の人口が減少し続ける限りにおいて、長期的にはマイナス成長していくと考えられます。出生率を上げて根本的に人口を増やすか、移民などを受け入れて人口を増やすといった方法はありますが、どちらも実現性の問題、費用、世論など簡単ではありません。

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