上司や先輩から、分析やレポート作成の仕事を指示されるものの、その内容や進め方のイメージが湧かず、頭がモヤモヤしたまま堂々巡り。やがて手を動かしてみるものの、書いては消しを繰り返し、3時間かけてやっとつくれたのは1枚か2枚。できたところまでで良いからと上司に言われて見せた資料は、根本からダメ出しされて最初からやり直し。ひとつのタスク(作業)でさえこうなのですから、複数のタスクに同時に取り組もうものならなおさらのこと。思考整理とは、おおざっぱに言えば「仕事の準備」のことです。あらゆる仕事は「思考」から始まり、あらゆる思考は「思考整理」から始まります。思考整理とは、すべての社会人にとって必要と言っても言い過ぎではありません。
(本記事は、井上龍司氏の著書『
会社では教えてもらえない 生産性が高い人の思考整理のキホン
』すばる舎(2017年6月24日)の中から一部を抜粋・編集しています)
「頭の整理」こそ、飛躍的に「仕事を進める」ための極意
学生時代のアルバイトであれば、多くの場合、用意されたマニュアルに従って仕事をしておけば給料をもらえたかと思います。しかし、社会人の仕事は、「自分で仕事を組み立てる必要がある」のです。さらに、社会人の仕事はマルチタスク(掛け持ち業務)が当たり前です。
しかし、私たちのほとんどは、その対処法を教わったことがありません。その結果、「何から手をつければ良いのかわからない」「仕事がたまりすぎて身動きができない」状態に陥ってしまうのです。そして「混乱しているうちに時間が過ぎてしまい、締切りが来ても仕事が終わっていない」「なんとか終わらせたのに、中身が雑だと叱られてしまった」状態になり、周りからの信頼・評価を失ってしまうのです。しかし、たくさん失敗をし、上司や先輩の仕事を見て学ぶうちに、「頭の中をきちんと整理して、進め方を丁寧に組み立てることで、仕事はスムーズに進む」ということがわかりました。
この「頭の中をきちんと整理する方法」こそ、「思考整理」です。思考整理のノウハウを身につけることで、「頭がぐちゃぐちゃ」の時間を減らすことができ、仕事の生産性を高めることができます。
判断の速さとアウトプットの速さが一流と二流を分ける!
職場の上司や先輩たちは、会議ではムダな脱線をほとんどすることなく時間内に話をまとめ、自分のデスクに戻るとエクセルやパワーポイントの資料をミスなく高速で完成させていきます。しかも多くの場合、同時に他のプロジェクトや部下の管理を抱えているわけです。締切りが近い仕事も手早く片づけながら、まだ先の仕事に対する「仕込み」も計画的にこなしているのです。
また、もうひとつ気づいたことは、ただ「仕事が速い」だけでなく「イレギュラー(突発事態)からの立て直しが速い」こと。たとえば、顧客からのクレームが発生し、最優先で対応する必要が生じた場合、当然、他の仕事は影響を受けます。このようなとき、仕事がデキる人は慌てずに的確に対処します。影響を受けて遅れそうな仕事があれば、期限を変更できないか関係者と相談するような調整を冷静に進め、影響を最小限に抑えていくのです。ぐちゃぐちゃな頭で仕事をしていると、仕事を俯瞰して見たり、柔軟に対応したりすることができなくなってしまうのです。
「クリアな思考」になるために頭の良し悪しは関係ない
仕事がデキる人とそうでない人との差は、「思考整理ができているかどうか」です。デキる人は必要なことと不要なことをきちんと区別しています。何からどう手をつけるべきかをクリアにしているため、常に頭がスッキリと整理され、仕事にムダがなく、ミスや見落としもなく短時間で仕上げます。彼らには特別な才能やセンスがあるのではなく、そのためのテクニックを使っています。それが、「思考整理」の技術で、誰にでも十分に身につけることができます。
ある会社の業務改善プロジェクトに関わったときに行ったことは、単なる「整理」でした。多くの関係者の意見や、あちこちに散らばっている情報・データを集め、整理し、現在置かれている状況や改善のための論点をわかりやすくまとめたのです。それによって、議論はまとまりやすくなり、短時間でプロジェクトの方向性が決まったのです。
つまり、単なる「整理」にも大きな価値がある、ということです。創造力や発想力がなくても、まず情報を整理して示せるだけでも、会社に貢献できる可能性があります。
ふたつのことをするだけで、思考整理はできるようになる!
部屋を整理するときに当たり前のことを、頭の中でも同じように行うのが、「思考整理」です。たとえば、来週の会議の準備を任されると、頭の中には次のようにあれこれと浮かんでくるでしょう。
(1)「会議の目的は何だっけ?」
(2)「来月の販売計画の共有が必要だな」
(3)「たしか7月25日の10時だったな」
(4)「そういえばその日は妻の誕生日だったな」
(5)「あと、来週に研修会があるからついでに案内しておこう」
(6)「会議の場所は……A会議室か」
(7)「会議後は11時から商談が入っていたな」
(8)「そうそう、今月の売上も報告しておかなきゃ……」
まず、会議に関係のない情報は取り除きます。(4)の誕生日は大切なイベントですが、会議とは関係がありません。(7)の別の商談も同様です。そして、残った情報をよく見ると、日時など会議の「概要」と、会議の「目的=議題」についての情報があることがわかります。頭の中を整理していき、最終的に以下のようにまとめます。
〇会議概要
・日時:7月25日(火)10時
・場所:A会議室
〇会議の目的(議題)
・今月の売上の報告
・来月の販売計画の共有
〇その他
・来週の研修会の案内
実際の仕事では、複数の業務が複雑に絡み合います。しかし、どれだけ複雑で膨大な情報であろうとも、「不要な情報を取り除き」「残った情報を整える」というふたつが、思考整理の大原則になるのです。
すぐにパンクする人ほど「頭の中だけ」で考えている
仕事がデキる人は、頭の中だけで考えず、あらゆる情報を紙に書き出す習慣を持っています。たしかに人間は、大変優れた脳を持っています。しかし、それだけに頼り切ってしまうと、複雑な情報は整理できません。私たちが使っているパソコンやスマートフォンは、ハードディスクの情報を直接処理するのではなく、いったんメモリに置いてから処理しています。私たちの脳も同じで、頭の中の情報をいったん作業テーブルの上に乗せて、情報を整理していきます。ただ、このテーブルはそれほど大きくないようです。それをわかっている人は、紙を利用することで「脳のテーブル」を大きくしているのです。たとえば、段取りを整理するなら、必要なタスクを全部書き出してみる。すると、紙を使わない場合に比べて、整理がスムーズに進むことに気づくはずです。
また単語だけでも十分なので、浮かんだことは紙に書いていきます。悩んだら、迷ったら、「すぐに」「何でも」書き出す。自分の頭を過信せずに、メモ帳をすぐに取り出せるようにしておくなどして、これを習慣化しておきましょう。
井上龍司(いのうえ・りゅうじ)
1976年生まれ。東京音楽大学を中退後、慶應義塾大学環境情報学部を卒業。 外資系コンサルティング会社であるプライスウォーターハウスクーパース(現在はIBMにより買収)に入社。以後、自動車メーカー、総合商社、都市銀行、生命保険会 社など各業界の大手企業における戦略策定や業務改善、システム導入などのコンサルティング業務に長年にわたり従事。現在は、外資系金融機関において業務改善、システム開発などのプロジェクト管理に携わっている。一方で中小企業診断士の資格も有し、これまで小売店や理髪店、飲食店などのコンサル ティングや人材育成にも携わる。コンサルティングの仕事を通じて、仕事のスピードアップや品質の向上をもたらす「思考整理」の威力に気づき、その技術を習得し活用している。
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