苦労してつくった企画やアイデアを、上司から「論理的じゃない」と一蹴される。会議で「もっと論理的に話せ」と突っ込まれる……。皆さんも一度はこのような経験があるのではないでしょうか。論理的に考える力は、説得力やわかりやすさに直結する、ビジネスにおいてもっとも重要なスキルのひとつです。
自分で仕事をつくるために必要なのは「主張」です。「こういう新商品をつくるべきだ」とか「営業のやり方をこう変えるべきだ」といった主張があって初めて、「じゃあ、やってみろ」となるわけです。情報をもとに考えを整理し、「我が社は何をすべきか」を提案する。それができる人にだけ、やりがいのある仕事は回ってくるのです。逆に、考えを整理することができなければ、主張をすることはできず、結果チャンスは回ってきません。それが、私たちが思考整理を必要とする大きな理由です。
「なかなかやりがいのある仕事を任せてもらえない」と不満を感じているのなら、まずは思考整理を通して「主張」をすることから始めましょう。
(本記事は、井上龍司氏の著書『
会社では教えてもらえない 生産性が高い人の思考整理のキホン
』すばる舎(2017年6月24日)の中から一部を抜粋・編集しています)
「グループ分け」することでできる整理の鉄則
主張のために「根拠」が必要で主張の根拠となる情報を集める必要があります。しかし、集めた情報を並べただけでは、相手を説得することはできません。
- 接客態度が良くない
- 料理の量が少ない
- 注文時のミスが多い
- 店舗が古くみすぼらしい
- 従業員の服装が乱れている
- 料理の味が良くない
- 従業員の私語が目立つ
しかし、これをそのまま店長さんに見せても、「なんだかいろいろ問題点があるんだなあ」 という印象を与えるだけでしょう。情報が多い場合は、まずは分類するところから始めます。情報もグループ分けしていくのが基本です。たとえば先ほどのレストランの例であれば、次のようにグループ分けできます。
〈従業員についての問題点〉
- 接客態度が良くない
- 注文時のミスが多い
- 従業員の服装が乱れている
- 従業員の私語が目立つ
〈料理についての問題点〉
- 料理の量が少ない
- 料理の味が良くない
〈施設についての問題点〉
- 店舗が古くみすぼらしい
情報の数は同じですが、最初に「従業員」「料理」「施設」の3つのグループが示されているので、全体を把握しやすくなっています。また、「従業員についての問題点が多い」といった特徴がすぐにわかるようになっています。「分ける」と「わかる」は似た響きの言葉ですが、実は意味も似ています。多くの情報を「分ける」ことによって、全体が「わかる」ようになってくるのです。相手に伝えるときはもちろん、自分で情報を整理するときにも、集めた情報や出したアイデアはグループ分けするようにしましょう。理解を深めることに加えて、自分の視点がきちんと全体を見渡せているか、抜け落ちている視点がないか、といった確認をすることもできます。
主張を強化するための「ピラミッド構造」
ビジネスは常に「自社」「お客様」「ライバル」の3つの視点から考える必要がある、と言われています。ひとつでも見落としがあれば、失敗の可能性が高くなってしまいます。
「オリジナルの美味しいスープを開発した。試食したお客様の多くも満足していた。近くには強いライバル店もいない。だから、ラーメン屋を開業したい」と言うことができれば、説得力のある主張になります。このように、主張を強化する根拠を枝分かれさせて、図解化したものを「ピラミッド構造」と呼びます。もっとも上にある主張から始まり、それを支えるいくつかの根拠があり、そしてそれぞれの根拠はまた細かい情報に枝分かれして……と展開していきます。何かを主張する際は、常にこの構造を意識しましょう。じっくり仕分けてピラミッドをつくっていくことで、頭の中が整理されてくるはずです。より強固な「根拠」を複数揃えて、バランスの良いピラミッドをつくることができれば、その主張は確かな説得力を持ったものになります。
思考を助ける3つの「フレームワーク」
どう考えればいいのかわからないような状況を解決するために、思考を助けるさまざまなツールが用意されています。それが「フレームワーク」であり、「この場面にはこの視点で考える」という指針になります。フレームワークとは、直訳すると「枠組み」です。ここでは、使用される機会が特に多いものを紹介します。
フレームワーク(1):マーケティングに必要な4P マーケティングとは「お客様の心を動かすこと」です。商品の魅力や価格、宣伝などを通じて、商品を知ってもらったり、商品を買いたいと思わせるための活動全般を指します。マーケティングでは、次の4つの視点から考える必要があると言われています。
- 商品:既存の商品やライバル商品と比較した、商品の機能や特徴です。
- 価格:お客様が買ってくれそうな価格を検討します。安いほうが好ましいですが、ブランド品であればあまり安くても高級感が失われる、といった例外もあります。
- 販路:お客様にとってどのような地域・場所で売るのが効果的かを考えます。最近ではWebも重要な販路のひとつです。
- 販促:購入を促すための取り組みです。テレビや雑誌、Webなどでの広告、店頭イベント、割引クーポンなど方法は非常に多く、最も効果的な手段と内容を考える必要があります。
フレームワーク(2):SWOT分析
SWOT分析は、自分の会社や商品の方向性を分析する際に用います。この分析では、①強み②弱み③機会④脅威の4つに分けて考えます。強みと弱みをそれぞれ洗い出し、強みはどのようなチャンスにつながるのか、弱みはどのようなリスクが考えられるのかなどを考えていきます。
フレームワーク(3):5つの力
この5つの力は、市場の特徴や魅力を評価するものです。①業界内の競合②新規参入③売り手④買い手⑤代替品の5つの力が市場には存在します。これらの視点から市場を評価し、魅力がないと判断した場合には撤退するという選択肢もあり得ます。このように、今自社がいる市場、もしくはこれから参入を考えている市場を分析する際に、5つの力の視点で考えると、幅広く検討することができます。
表にすることでメリット・デメリットを把握する
仕事では、何かを選んだり決めたりしなければならない場面が多くあります。
仕事以外でも、悩みの種は尽きません。そういった場面では、慎重に考えて判断しないと、不満や問題の多い選択肢を選んでしまうことになります。このような選択や判断をするときのポイントは、それぞれのメリットやデメリットを丁寧に整理することです。
まずは選択肢ごとのメリット・デメリットを書き出します。漏れがあると正しい判断ができませんので、じっくりと考えましょう。
このように表に書き出していくと、今まで気づいていなかったメリットやデメリットを見つけることができます。仮に選んだ選択肢が「失敗」だったとしても、表の検証をする癖をつけておけば、「このときに挙げた要素が甘かったからだ」「○○の視点が抜けていたから失敗につながった」などと、次回同じような選択を迫られたときに活かす反省点を見つけることができます。
整理の結果、一方に明らかにメリットやデメリットの数が多いとわかれば簡単に決まるのですが、実際にはそのようなことはあまりありません。どちらも同じくらいの数が出てきて、なかなか決められないということもしばしばあります。その場合は次のように考えていきます。
- 「判断基準」を洗い出す:判断基準とは「どんな観点で評価・判断をするか」ということです。たとえば転職先の選択であれば、「給料」「やりがい」「通勤時間」「安定性」などの観点が考えられます。
- 選択肢を評価する:それぞれの選択肢について、①の判断基準ごとに評価します。たとえば給料について、高ければ「○」、まあまあなら「△」、低ければ「×」などと表に書き出していきます。
- 総合して判断する:○△×の数を数えて、もっとも総合評価の高い選択肢を決定します。 このように、できるだけ数字で表す習慣をつけること。それが、速く正確な判断を下すコツです。
バイアスを見極めて客観的になる
正しい判断のためには、客観性や中立性が求められます。しかし、私たちは無意識にバイアスに引っ張られて、誤った結論を導いてしまうことがあるのです。その他、ビジネスの場面で起こりうるバイアスには、主に次のようなものがあります。
確証バイアス:自分の好みや考えが正しいことを「確」かめる「証」拠に偏って集め、自分に都合の良い結論を導く傾向を指します。
現状維持バイアス:良い改善策を考えついて、それを論理的に主張したとしても、相手が首を振ってくれないことがあります。それは、人は「成功したい」よりも「失敗したくない」という気持ちのほうが強いためです。合理的で、それなりの成功の可能性があったとしても、変化やチャレンジを避け、現状のままでいようとする傾向があるのです。
バイアスは無意識に引っ張られます。逆らうのはなかなか難しいものです。しかし、少なくともその存在を知っておけば、判断ミスを避けられる確率が高まります。情報やデータを入手したとき、情報をもとに判断を下すとき、そこにバイアスがかかっていないか、少し立ち止まって考えてみましょう。
井上龍司(いのうえ・りゅうじ)
1976年生まれ。東京音楽大学を中退後、慶應義塾大学環境情報学部を卒業。 外資系コンサルティング会社であるプライスウォーターハウスクーパース(現在はIBMにより買収)に入社。以後、自動車メーカー、総合商社、都市銀行、生命保険会 社など各業界の大手企業における戦略策定や業務改善、システム導入などのコンサルティング業務に長年にわたり従事。現在は、外資系金融機関において業務改善、システム開発などのプロジェクト管理に携わっている。一方で中小企業診断士の資格も有し、これまで小売店や理髪店、飲食店などのコンサル ティングや人材育成にも携わる。コンサルティングの仕事を通じて、仕事のスピードアップや品質の向上をもたらす「思考整理」の威力に気づき、その技術を習得し活用している。
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