IBMはかつての朋友
アップルとIBMの提携は初めてではありません。1990年代にはPowerPCで提携を組んでいました。そして今回の提携はハード面での協力ではなく、IBMが得意とする企業向けソリューションをアップルのハードで強化するという面になります。IBMのビッグデータ分析機能をアップルのモバイル端末で活用する、といったアプローチが予想されます。
この分野であれば、アップルとIBMは全く競合していませんでした。つまり、提携によりマイナスが生じる事はあり得ず、プラスだけが生じるであろうという、お互いの弱点を補い合える理想的な提携とも見られます。
両社のビジネスモデル
現在、IBMが重点を置いているビジネスは、企業向けソリューションをクラウドの活用で提供する、といったものです。つまりソリューションを提供する企業で有り、業務システムの構築や基盤提供が本業となっています。パソコン事業も2005年にレノボに売却して以来、ハードウエア事業は展開していません。現在は様々なパートナーの機器に、ソリューションを組み込んで販売するというのがIBMのビジネスモデルです。そのため、今後もIBMは、拡大するクラウド市場をどれだけ取り込めるかということが重要になっています。
しかし現在、パソコンを利用してIBMのシステムを利用するというモデルが頭打ちになってきていると考えられます。IBMとしては、これにiPhoneやiPadといったモバイル端末も取り込んでいく必要が生じているのです。従って、この度のアップルとの提携は、絶妙なタイミングであるとも言えそうです。この変化に乗り遅れると、スマートフォンやタブレットを端末としたクラウド型ソリューションの企業への提供を、競合他社に奪われてしまう可能性があるからです。従って、今のうちからiPhoneやiPadと連携したクラウド型ソリューションの市場を、IBMが抱えてしまえば優位に立てるという戦略があります。
一方のアップルにとっても、IBMの販路を利用できることで、iPhoneやiPadを企業向けに拡販する機会が大きくなります。これまでもアップルは、iOSがAndroidに対してセキュリティの高さを売りにしていましたが、企業向けソリューションとしてはWindowsやAndroidの自由度が評価されてきたという経緯があります。そのため、この秋にリリースが予定されているiOS8では、企業向けの管理機能やアプリ開発の自由度がアピールポイントとなる様ですが、ビジネスユーザー向け販売チャネルを増やす必要も有り、IBMとの提携が必要となったわけです。
狙いはアナウンス効果か
この度のアップルとIBMの提携内容の骨子は次の4点であるとされています。
1つめは、「IBM MobileFirst for iOS」というソリューション名で、各業界に特化した100種類以上の企業向けソリューションが提供されます。2つめは、「IBM MobileFirst Platform for iOS」というソリューション名で、IBMのクラウドサービスがiOSに最適化して提供されます。3つめは、「AppleCare for Enterprise」というソリューション名で、アップルのカスタマーサポートグループとIBMのオンサイトのサポートを組み合わせたモバイルサービス&サポートが提供されます。4つめは、「IBM MobileFirst Supply and Management」というソリューション名で、IBMが企業向けににiPhoneおよびiPadを販売します。
以上を見ると、実はそれほどインパクトがある具体的な提案があるようには見えません。ただ、アップルとIBMが協力関係を結んだという信頼感をアナウンスすることが、最も大きな提携の効果だと言えそうです。
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