金融政策の概要:10月にバランスシートの縮小を開始することを決定、政策金利は据え置き
米国で連邦公開市場委員会(FOMC)が9月19-20日(現地時間)に開催された。FRBは、市場の予想通り、10月からバランスシートの縮小を開始する一方、政策金利の据え置きを決定した。
今回発表された声明文では、景気の現状認識部分では、設備投資に関する表現が上方修正されたものの、ほぼ前回会合からの変更はなかった。また、経済見通しの部分では8月下旬から9月にかけて米国を襲ったハリケーンが、経済活動や物価に短期的に影響する可能性について言及された。しかしながら、これらの影響はあくまで短期的に留まるとの見通しも同時に示された。
今回の金融政策は、全会一致で決定された。
今回発表されたFOMC参加者の見通しは、前回(6月)から一部成長率や失業率が上方修正された一方、物価見通しについては下方修正された。また、政策金利の見通しについては、19年と長期の見通しが下方修正された。なお、今回から20年の見通しが公表された。
金融政策の評価:年内1回の追加利上げ見通しが維持され、FRBは12月利上げへ
バランスシート縮小開始、政策金利据え置きは当研究所の予想通り。ハリケーンについては、経済活動や物価について攪乱要因となるものの、短期的な影響であることが強調されているため、今後の金融政策への影響は限定的と考えられる。実際、今回発表された政策金利見通しで年内1回の追加利上げ方針を維持したことから、7-9月期の成長率が多少下振れても、FRBは12月の追加利上げを実施する可能性が高いと判断できる。
一方、今回の記者会見でも基本的な金融政策手段として、バランスシート調整ではなく、政策金利の調節を活用することが明言された。今後、資本市場が大幅に不安定化しない限り、FRBは金融政策の意思決定とは別に、バランスシートの縮小を粛々と継続するとみられる。
今回の会合では、18年に年3回(合計0.75%)の追加利上げ方針を維持した。しかしながら、FRB理事の定員7名の内、現在は3名欠員しているほか、フィッシャー副議長の辞任が確定していること、来年2月に任期を迎えるイエレン議長の去就についても不透明となっており、来年以降はFRB理事の顔ぶれが大幅に刷新される可能性が高い。このため、来年以降の金融政策運営の方針については大幅に変更される可能性がある。今後のFRB理事の人事でどのような人選がされるか注目される。
声明の概要
◆金融政策の方針
- FF金利の誘導目標を1.00-1.25%に維持(変更なし)
- 10月に、委員会は2017年6月の「委員会の政策正常化の原則と計画に関する補遺」に記載されている計画を開始する(バランスシートの縮小を10月に開始することを明記)
◆フォワードガイダンス、今後の金融政策見通し
- 既に実現した労働市場環境や物価、およびこれらの今後の見通しを考慮して、委員会はFF金利の目標レンジを1.00-1.25%に維持した(変更なし)
- 金融政策スタンスは依然として緩和的であるため、労働市場環境の幾分かの改善や、物価の2%への持続的な上昇を下支えする(変更なし)
- FF金利の目標レンジに対する将来の調整時期や水準の決定に際して、委員会は経済の現状と見通しを雇用の最大化と2%物価目標に照らして判断する(変更なし)
- これらの判断に際しては、雇用情勢、インフレ圧力、期待インフレ、金融、海外情勢など幅広い情報を勘案する(変更なし)
- 委員会は、対称的な物価目標に関連させて、物価の実績と将来見通しを注意深くモニターする(変更なし)
- 委員会は、FF金利の緩やかな上昇のみを正当化するような経済状況の進展を予想しており、暫くの間、中長期的に有効となる水準を下回るとみられる(変更なし)
- しかしながら、実際のFF金利の経路は、今後入手可能なデータに基づく経済見通しによる(変更なし)
◆景気判断
- 労働市場は引き続き力強さを増し、経済活動は年初来で緩やかに成長している(変更なし)
- 雇用増加はここ数ヵ月堅調を維持しており、失業率は低位に留まっている(雇用増加に関する表現を微修正したほか、失業率について「低下した」”declined“から「低位に留まる」”stayed low”に変更)
- 家計消費は緩やかに増加したほか、設備投資の伸びはここ数四半期に加速した(家計消費に関する表現を微修正したほか、設備投資について「拡大が続いた」“continued to expand”から伸びはここ数四半期加速した)”growth in business fixed investment has picked up in recent quarters”に上方修正)
- 前年比でみた総合および、食料品とエネルギーを除いたインフレ率は今年低下し、2%を下回った(「今年」”this year”を追加)
- 市場が織り込むインフレ率は、依然として低位に留まっている(変更なし)
- ほとんどの調査に基づく長期物価見通しは、全般的に変化に乏しい(変更なし)
◆景気見通し
- ハリケーン「ハービー」、「イルマ」、「マリア」がたくさんの地域を荒廃させ、深刻な困難を与えた。暴風に伴う破壊と再建は、短期的に経済活動に影響を及ぼす、しかしながら、過去の経験からは、暴風が中期に渡って経済全体の方向を著しく変える可能性が低いことを示唆している(ハリケーンの米経済への影響についての表現を追加)
- 委員会は、金融政策スタンスの漸進的な調整により、経済活動は緩やかに拡大し、労働市場の状況が更に強くなると予測している(変更なし)
- ハリケーンの影響による、ガソリンやその他商品価格の上昇が、一時的にインフレ率を引き上げる可能性が高い(ハリケーンの物価への影響についての表現を追加)
- その影響を除けば、前年比でみたインフレ率は短期的には幾分2%を下回るものの、中期的に委員会の目標とする2%近辺で安定すると予想する(「その影響を除けば」”apart from that effect”を追加)
- 経済見通しに対する短期的なリスクは概ねバランスしている(変更なし)
- 委員会は、引き続きインフレ動向と世界経済および金融情勢を注視する(変更なし)
会見の主なポイント(要旨)
記者会見の主な内容は以下の通り。
◆ハリケーンの影響
- 第3四半期の経済成長は、ハリケーン「ハービー」、「イルマ」、「マリア」に伴う深刻な破壊によって押下げられるだろう。経済活動が再開し、再建が進むにつれて成長は直ぐに回復する可能性が高い。
- 過去の経験からは、これらの影響が今後数四半期を超えて経済全体の方向を変えてしまう可能性は低い。
◆バランスシート縮小方針
- バランスシート縮小に当っては償還上限額を設けることで、民間投資家が吸収しないといけない金額を限定し、大幅な金利変動や、その他の金融市場にかかる負担を防ぐ。
- これまで示してきたように、FF目標金利を変動させることが、金融政策手段の基本である。バランスシートは、通常時のアクティブな金融政策手段とはならない。このため、バランスシート正常化プログラムを今後調整することを計画していない。
- 経済見通しが顕著に悪化し、非負制約によってFF金利の引き下げ幅が限られるような状況になった場合には、バランスシートの再投資戦略を復活させるかも知れない。
◆インフレ動向
- 14年半ばからの長期に亘るインフレ率の低下には、労働市場の「緩み」、エネルギー価格の下落、ドル高などの明確な理由があった。一方、今年に入ってからのインフレ率の低下は、これらの要因では説明できないため、不可解な動きとなっている。委員会は、現在起こっていることの要因を明確に理解できていると言うつもりはない。
- 委員会は、主にこれらの低下が一時的な要因によるもので、来年以降影響が解消されると判断している。
◆その他
- トランプ大統領とは、就任直後に会った。その際、大統領には任期を全うすることを伝えた。その後、大統領とは会っていない。来年の任期以降のことについてはコメントしない。
FOMC参加者の見通し
FOMC参加者(FRBメンバーと地区連銀総裁の16名 )の経済見通しは(図表1)の通り。前回(6月14日)公表されたものと比較すると、17年の成長率、18、19年の失業率が上方修正(失業率は低下)された一方、18年の物価見通しが下方修正された。なお、今回から20年の見通しが公表された。
一方、政策金利の見通し(中央値)は、19年が2.94%から2.69%に下方修正されたほか、長期についても3.00%から2.75%に下方修正された(図表2)。長期見通しの下方修正について、記者会見では長期的な中立金利水準が下方修正された可能性に言及された。17年(1.38%)、18年(2.13%)は、前回の見通しが維持された。今回、20年について2.88%の見通しが公表された。
この結果、政策金利の引き上げ回数は、17年が年内1回(0.25%)、18年は年3回(0.75%)、19年は年2回(0.50%)となったほか、今回公表された20年では、年1回(0.25%)を見込んでいることが示された。
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窪谷浩(くぼたに ひろし)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部
主任研究員
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