欧米諸国で90年代に多くの国が財政赤字問題を概ね克服した中では、緩和的な金融政策も財政再建の鍵を握った。緊縮財政は歳出削減や増税により何がしかの景気下押しを伴う。そこで中央銀行が金融を緩和すれば、緊縮財政過程における景気下押し圧力を軽減することができる。中央銀行はまさに「政府のサポート役」となった。

財政問題に貢献したインフレ目標政策 日本停滞の大きな原因は?

日本経済,景気
(写真=PIXTA)

そうした景気下押し圧力を緩和したメカニズムとして、「インフレ目標」政策を採用したことで長期金利の上昇が抑制されたといわれている。この「インフレ目標」政策は、先進国で採用されている一般的な金融政策の枠組みであり、日本でも金融政策の核になっている。

実際、90年代からインフレ目標政策を採用した国では経済成長率が高まる一方で、インフレ率低下が財政健全化にも大きく貢献している。仮にインフレ目標を導入していなければ、長期金利が景気の実勢以上に上昇し、それに伴う設備投資の下振れを通じて、経済成長率が押し下げられた可能性がある。

従って日本でも、金融政策による金利や為替、資産価格等への働きかけを通じて、財政再建に導く経路が重要となる。しかし我が国では、15年以上にもわたってデフレ対策が不徹底であり、残念ながらアベノミクス始動前には金融政策が十分機能してこなかった。こうしたところに日本の停滞の大きな原因が潜んでおり、日本の財政に悪循環をもたらしてきたといえる。

なお、筆者が過去にパネルデータを用いて試算した結果によれば、インフレ目標導入国は非導入国に比べて、長期金利が▲0.9~▲1.4%ポイント低くなる傾向が確認される。また、インフレ目標導入国では期待インフレ率が+1%ポイント上昇しても長期金利は+0.2%ポイント上昇にとどまるのに対して、非導入国では同+0.5%ポイント上昇するとの結果が得られる。つまり、「インフレ目標」で長期金利の上昇を抑えなければ、利払い費が増加して、政府は国債を発行して更なる借金をしなければならなくなるといえる。