要旨

  • 本稿では、消費者全体で健康志向や美容志向が高まる中で、改めて統計データを用いて、日本人の健康や栄養、運動習慣の変化を確認する。

  • まず、BMIの推移を見ると、男性では全年代で「肥満」が増え、「やせ」がおおむね減る一方、女性では全体的に「肥満」が減り、「やせ」が増えている。つまり、男性は太りゆく一方、女性はやせゆく様子が読み取れる。また、中高年女性では「肥満」が減り「やせ」が増えているため、スタイル維持に励む「美魔女」の存在が、男性では20歳代のみ「やせ」が増えているため、「美容男子」の存在が窺える。

  • 若年単身世帯の食費の変化より、今の若い男性では外食を減らし自炊に励む「料理男子」が増えているようだ。節約志向のほか、健康・美容志向が高まっているのだろう。なお、調査によると、未婚女性は結婚相手に求める条件で「家事・育児の能力」を重視する。今後、働く女性が増える中、「料理男子」は結婚につながる可能性も高そうだ。

  • 摂取カロリーについて見ると、国民全体的に減っているが、食生活の洋風化の影響か、脂肪エネルギー比率が増えている。摂取カロリーの減少は30歳代以上の女性、脂肪エネルギー比率の上昇は40歳代以上で目立つ。中高年男性で「肥満」が増えた原因には脂肪分の多い食事内容がありそうだ。

  • 飲酒習慣率は、男性は20~50歳代で低下、60歳代以上で上昇、女性は20~30歳代で低下し、40歳代以上で上昇している。中年男性では飲酒は減っているが肥満は増えており、やはり食習慣に問題がありそうだ。一方、中高年女性では飲酒は増えているが、男性と比べるとはるかに少ないため、肥満の増加にはつながっていない。

  • 消費者全体で健康・美容志向が高まっているが、中高年男性では肥満の改善、中高年女性はアンチエイジング、若い男性では美意識など、それぞれ背景は異なる。消費者の困りごとには新たな商機が隠れている。ライフスタイルが多様化する中で、それぞれの状況を1つ1つ解きほぐしていくことで、新たな消費機会が生まれる。

消費者の健康・美容志向の高まり

秋が深まり澄んだ空気の中で、ジョギングでもやってみようか、と思い立つ方も多いのではないだろうか。近年のマラソンブームで、老若男女を問わずランナーを目にするようになった。「山ガール」による登山ブームは落ち着いてきたようだが、スポーツクライミング(*1)が2020年の東京五輪の種目に追加されたことで、ジムでボルダリングを楽しむ人も増えていると聞く。活動量計や脈拍計測機能などを搭載したスマートウォッチも人気だ。健康関連市場は活気づいているようだ。

食にこだわる消費者も増えている。最近では、ごく普通のスーパーでも、特定保健用食品や低糖・低カロリー商品だけでなく、自然食品やオーガニック食品を扱うところが増えたようだ。食の安全志向が高まっていることもあり、無農薬や有機野菜の宅配サービスも人気だ。

これまで健康や美容というと、中高年の健康増進や女性のアンチエイジングという印象が強かった。しかし、最近では、むしろ若者が目立つ状況もある。アンチエイジング先進国の米国では、健康志向の高まりを牽引するのは1980~2000年代初頭生まれのミレニアル世代だそうだ(*2)。インターネットの普及と共に育ち、健康に関する知識が豊富なため、他世代より健康志向が高いという。日本でも同様の状況が予想される。

本稿(*3)では、消費者全体で健康志向や美容志向が高まる中で、改めて統計データを用いて、日本人の健康や栄養、運動習慣の変化を見ていきたい。

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(1)公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会HPによると、スポーツクライミングはリード・ボルダリング・スピードの3つの複合種目として実施。リードはロープで安全が確保された状態で12m超の壁に設定されたコースを登り制限時間内の到達度を、ボルダリングは高さ5m以下の壁に設定された複数のコースを制限時間内にいくつ登れたかを、スピードは高さ15mの壁に設定された予めホールドの配置が周知されたルートを登るタイムを競う。
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2)今泉潤子「健康志向が高まる米国で事業強化を進める食品メーカー」、三井住友銀行、マンスリー・レビュー(2015年5月号)
(*3)本稿は一般社団法人日本ショッピングセンター
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太りゆく男性とやせゆく女性、「美魔女」「美容男子」の存在も

まず、体格を表すBMIの状況を確認する。BMIは体重(kg)を身長(m)の二乗で割ったもので、18.5未満が「低体重(やせ)」、18.5以上25.0未満が「普通」、25.0以上が「肥満」に分類される。

「肥満」の割合は、男性では40~50歳代を中心に、女性では高年齢ほど高い傾向がある(図1)。推移を見ると、男性では全ての年代で上昇しており、特に40歳代以上の上昇が目立つ。一方で女性では40歳代以上で低下しており、50~60歳代の低下が目立つ。なお、「やせ」の割合は、「肥満」とはおおむね逆の動きを示し、男性では20歳代をのぞく全年代で低下(特に高年齢層)、女性では20~50歳代で上昇、60歳代以上ではおおむね横ばいで推移している(図2)。

消費者,健康・美容志向,背景
(画像=ニッセイ基礎研究所)
消費者,健康・美容志向,背景
(画像=ニッセイ基礎研究所)

つまり、この三十年余りで、男性は太りゆく一方、女性はやせゆく様子が読み取れる。20歳代の男性では「肥満」も「やせ」も増えているため、他と比べて二極化傾向が若干強くなっている。

今、消費者全体で健康・美容志向が高まっているが、BMIの推移を見ると、その理由はセグメントによって異なるのだろう。中高年男性では肥満の改善、女性や若い男性では主に美意識によるもののように見える。若者では先に触れた通り、健康・美容知識の豊富さも影響しているのかもしれない。

世間では年齢よりも若々しく見える中高年女性を「美魔女」と呼び、ファッション誌ではコンテストも行われている。「肥満」率の低下と「やせ」率の上昇から、確かにアンチエイジングに励み、若い頃のスタイルを維持する中高年女性は増えているようだ。

一方で20歳代の男性で「やせ」が増えている背景には「美容男子」の存在があるのかもしれない。最近では、スキンケアや脱毛、ネイルなどに励み、女性と同等か、それ以上に美容意識の高い男性を「美容男子」と言うそうだ。近年、男性向け化粧品や美容サービスも増える中、若者を中心に存在感を示しているのだろう。

若者では「料理男子」が増加、結婚にもつながりやすい?

ところで、以前に「若年層の消費実態(3)-「アルコール離れ」・「外食離れ」は本当か?」で述べた通り、今の若い男性では、外食を減らし、自炊に励む「料理男子」が増えている。

総務省「全国消費実態調査」によると、30歳未満の単身勤労者世帯の男性では、外食費が1989年から2014年にかけて月3.1万円から1.7万円へ、物価を考慮した実質増減率では▲54.1%も減少している。一方、油脂・調味料や肉類、穀類、野菜・海草など食材の支出が増えている。この背景には、節約志向などもあるのだろうが、BMIの変化も合わせると、健康・美容志向の高まりも影響しているのではないだろうか。

一方、女性でも外食は減っているが(1.2万円→1.1万円、実質増減率▲28.2%)、食材の支出が全体的に減っており、代わりに調理食品が増えている(3.1千円→4.5千円、同+14.2%)。男性並みに忙しく働く女性が増えたことで、自炊が減り、総菜などの利用が増えているのだろう。

ところで、国立社会保障人口問題研究所「2015年出生動向基本調査」によると、未婚者が結婚相手に求める条件は(4)、男女とも首位は「人柄」(男性95.1%(5)、女性98.0%)だが、僅差で2位に「家事・育児の能力」(男性92.8%、女性96.0%)があがる。なお、「家事・育児の能力」を重視する割合を見ると、男性46.2%、女性57.7%で、女性が男性を11.5ポイントも上回る。働く女性が増える中、この傾向がますます強まるとすれば、健康や美容意識の高い「料理男子」は結婚につながる可能性も高そうだ。

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(4)設問「あなたは結婚相手を決めるとき、次の項目について、どの程度重視しますか。それぞれあてはまる番号に○をつけてください。」に対して選択肢が「1.重視する」「2.考慮する」「3.あまり関係ない」の三択。
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5)「1.重視する」と「2.考慮する」の合計値。
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摂取カロリーは減っても脂質の多い食事に

さて、体格には食事と運動が影響するが、これらの状況はどうなっているのだろうか。

厚生労働省「国民健康・栄養調査」によると、1日の摂取カロリーは国民全体で減少傾向にある。2000年と2015年を比べると、男女とも30~50歳代の減少が目立つ。男性では30歳代で▲126kcal(変化率では▲5.5%)、40歳代で▲93kcal(▲4.1%)、50歳代で▲95kcal(▲4.1%)、女性では30歳代で130kcal(▲7.3%)、40歳代で130kcal(▲7.1%)、50歳代で131kcal(▲7.0%)も減少している。

一方で摂取カロリーのうち、脂肪エネルギー比率は増えており、40歳代以上の上昇幅が比較的大きい(いずれも2%程度)。つまり、中高年男女を中心に、過去と比べてカロリーに対して脂肪分がやや多い食事内容となっている。この背景には食生活の洋風化があるのだろう。

一方で運動習慣や歩数については、男女とも70歳以上では増えているが、他の年代では大きな変化はない。

よって、中高年男性で肥満が増えている背景には、摂取カロリーは減っているものの脂肪分の多い食事が増えていることがあるのだろう。一方、女性では肥満が減っているわけだが、摂取カロリーの減少幅が男性と比べてやや大きいことが影響しているのかもしれない。あるいは、男性では就寝前の飲食やドカ食いが多いが、女性では少ないなど、食事の取り方の違いもあるのかもしれない。女性では若い頃からダイエット意識が芽生えることも多いため、女性が食生活の常識として認識していることでも(肥満には摂取カロリーの影響もあるが食のバランスや食事を取るタイミングも影響するなど)、男性ではさほど知られていないなど、知識の差もあるだろう。

若者と中年男性の「アルコール離れ」、高齢男性と中高年女性では増加

健康・美容を意識した食生活といえば、アルコール摂取状況も気になるところだ。先の調査によると、飲酒習慣率は、男性では60歳代以上で上昇しているが、20~50歳代では低下している(図3)。若者の「アルコール離れ」をよく耳にするが、「アルコール離れ」は男性では若者だけではない。

一方で女性の飲酒習慣率は、20~30歳代では低下しているが、40歳代以上では上昇しており、特に50~60歳代の上昇が目立つ。

BMIでは中高年男性の肥満率が高まっており、特に60歳代以上の上昇が目立っていた。高齢男性で肥満が増えた理由の1つには、食生活の洋風化に加えて、飲酒の増加もあるようだ。一方で30~50歳代の男性では、飲酒を控えるようになっているのにも関わらず肥満が増えている。やはり、食事の内容やタイミングも含めた食習慣が影響しているのかもしれない。

女性では、中高年の肥満率が下がっており、特に50~60歳代の低下が目立っていた。一方で50~60歳代の女性では飲酒が増えているため矛盾しているようだが、女性の飲酒習慣率は男性と比べてはるかに低いために影響が出にくいのだろう。

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(画像=ニッセイ基礎研究所)

おわりに~セグメントによって異なる健康・美容志向の背景、消費者の困りごとは新たな消費機会に

本稿では、消費者全体で健康・美容志向が高まる中、改めて統計データを用いて、日本人のBMIや摂取カロリー、飲酒習慣率などの変化を捉えた。その結果、セグメントによって、健康・美容志向の背景は異なる様子が窺えた。

まず、BMIの推移を見ると、男性では「肥満」の割合が全ての年代で増え、「やせ」の割合が30歳代以上で減っている。一方、女性では「肥満」の割合が40歳代以上で減り、「やせ」の割合が全体的に増えている。つまり、全体として、男性は太りゆく一方、女性はやせゆく様子が読み取れる。

世間では年齢よりも若々しく見える中高年女性を「美魔女」を呼ぶようだが、中高年女性では「肥満」が減り「やせ」が増えており、確かにアンチエイジングに励み、若い頃のスタイルを維持する女性が増えているようだ。なお、女性と同等か、それ以上に美容意識の高い男性は「美容男子」と呼ばれるそうだが、男性では20歳代でのみ「やせ」が増えており、この層が該当するのかもしれない。

また、若年単身世帯の食費の変化から、今の若い男性では外食を減らし、自炊に励む「料理男子」が増えている様子が見える。自炊が増えた背景には節約志向もあるのだろうが、健康・美容志向の高まりも影響しているだろう。なお、現在、未婚者が結婚相手に求める条件の首位は「人柄」だが、僅差で2位に「家事・育児の能力」があがる。「家事・育児の能力」を重視する割合は、特に女性で高い。今後、働く女性が増える中、健康や美意識の高い「料理男子」は結婚につながる可能性も高そうだ。

摂取カロリーについては、国民全体的に1日の摂取カロリーは減少しているが、脂肪エネルギー比率が増えている。なお、摂取カロリーの減少は30歳代以上の女性で、脂肪エネルギー比率の上昇は40歳代以上で目立つ。中高年では食生活の洋風化の影響か、脂肪分の多い食事内容となっているが、これが中高年男性で肥満が増えている背景にあるのだろう。一方で中高年女性では、やせている割合が増えているが、摂取カロリーの減少幅が男性と比べて大きいことが効いているのだろう。

飲酒の状況については、男性では20~50歳代で飲酒習慣率が低下し、60歳代以上では上昇している。女性では20~30歳代で低下し、40歳代以上で上昇している。BMIの推移では、高齢男性で肥満が増えていたが、飲酒が増加した影響もあるのだろう。一方、中年男性では飲酒が減っているにも関わらず、肥満が増えている。これは、やはり食事内容や食事のタイミングなども含めた食習慣の影響があるのだろう。なお、中高年女性では飲酒が増えているにも関わらず肥満は増えていないが、女性の飲酒習慣率は男性と比べてはるかに低いために、全体で見た際には影響が出にくいのだろう。

以上より、消費者全体で健康・美容志向が高まっているが、中高年男性では肥満の改善、中高年女性はアンチエイジング、若い男性では美意識など、セグメントによって、その背景は異なる。

往々にして、消費者の困りごとには新たな商機が隠れている。ライフスタイルが多様化する中で、どんな層がどんなことに困り、どんなことを求めているのか、1つ1つ解きほぐしていくことで、新たな消費機会が生まれる。

久我尚子(くが なおこ)
ニッセイ基礎研究所 生活研究部 主任研究員

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