世界経済フォーラム(WEF)による「世界男女格差レポート」が発表され、日本は144カ国・地域中114位でG7国最下位となった。2015年は101位、2016年は111位と年々順位が落ちている。

格差の少ないトップ10には昨年と同じ国・地域がランクインしているものの、順位にはかなりの変動が見られる。首位はアイスランドが維持した。

男女格差の少ない20カ国・地域

まずは男女格差の少ない20カ国・地域を見てみよう。

20位 ラトビア(昨年20位)
19位 南アフリカ(15位)
18位 ブルガリア(41位)
17位 ボリビア(23位)
16位 カナダ(35位)
15位 英国(20位)
14位 デンマーク(19位)
13位 ナミビア(14位)
12位 ドイツ(13位)
11位 フランス(17位)

10位 フィリピン(7位)
9位 ニュージーランド(9位)
8位 アイルランド(6位)
7位 スロヴァニア(8位)
6位 ニカラグア(10位)
5位 スウェーデン(4位)
4位 ルワンダ(5位)
3位 フィンランド(2位)
2位 ノルウェー(3位)
1位 アイスランド(1位)

北欧諸国は順位後退 ルワンダ、ニカラグアなどが追い上げる

ランキングはWEFが世界各国・地域の性別による平等性を測定する目的で、毎年発表しているもの。「経済的参加と機会」「教育面での到達度」「健康と生存率」「政治的権限付与」の4つの主要指針に基づいて指数化している。指数の最高基準は1.00で、低くなるほど男女格差が大きい。

総体的に教育面の格差は若干縮小したものの、経済の格差の改善度は58%、政治面の格差の改善度は23%にとどまった。健康面は変化なし。

相変わらず北欧諸国が上位を独占しているが、1位以下は順位は変動している。フィンランドやスウェーデン、アイルランドが順位を下げたのとは対照的に、中央アメリカ中部の共和国ニカラグアや中部アフリカの共和国ルワンダ、ほかにスロヴァニアなどが順位を上げた。

G7国(日本・米国・英国・カナダ・ドイツ・イタリア・フランス)からは、3カ国がトップ20入りした。

東アジア・太平洋地域 の男女格差とスコア

東アジア・太平洋18カ国・地域の格差を見てみよう。日本はアジア圏でも15位と最下位にかぎりなく近い。トップ3はニュージーランド、フィリピン、オーストラリアだ。

18位 東ティモール 0.628
17位 フィジー 0.638
16位 韓国 0.650
15位 日本 0.657
14位 マレーシア 0.670
13位 ブルネイ・ダルサラーム 0.671
12位 中国 0.674
11位 カンボジア 0.676

10位 インドネシア 0.691 
9位 ミャンマー 0.691
8位 タイ 0.694
7位 ベトナム 0.698
6位 シンガポール 0.702
5位 ラオス 0.703
4位 モンゴル 0.713
3位 オーストラリア 0.790
2位 フィリピン 0.790
1位 ニュージーランド 0.791

女性の政治進出でさらに出遅れる日本

もともと順位が低かった日本が年々さらに後退している要因はどこにあるのだろう。総合スコアは0.657(1.000満点)。首位との差は0.121ポイントも開いている。

「健康・生存」では世界1位の評価を受けているにも関わらず、「教育面での達成」が74位、「経済的参加・機会」が114位、「政治的権限付与」が123位と非常に偏っている。

これらの順位を2006年と比較すると、変化がないのは「健康・生存」のみ。「経済的参加・機会」は31ランク、「教育面での達成」は14ランク、「政治」は40ランクも落としている。

各項目の詳細では、「健康・生存」の評価基準となる「平均余命」や「出生時の男女の割合」はともに世界1位だ。

「教育面での達成」では読み書きの能力(1位)から初等・中等教育(1位)など、社会人として生活していく上で基本的な教育を受ける機会が男女平等に与えられている。しかし高等教育(大学・大学院)への進学では101位と、性別によって大きな差がでる。特に先進国で、これだけ女性の高等教育在学率が低い例は珍しい。「多くの国・地域ではむしろ女性が高等教育に進む割合の方が高い」と指摘されている。

「経済的参加・機会」も女性にとってはけっして有利な環境ではない。労働力の比率(79位)、同等の仕事で支払われる賃金(52位)、推定勤労所得(100位)、経営管理職(116位)、専門職・技術職(101位)と格差が目立つ。

「政治権限付与」面ではさらに他国からの遅れが浮き彫りになっている。過去50年間の女性国家元首の就任年数(60位)、閣僚数(88位)、国会議員数(129位)と、女性の進出という点で著しく出遅れている。

アジアで最も格差の少ないフィリピン 順位は後退

一般的に「アジアは女性の社会的地位が低い」というイメージが定着しているようだが、かならずしもそうとはいい切れない。例えばアジア圏で2位のフィリピンは、世界ランキングでも10位に入っている。

群を抜いて高評価を受けているのは「教育面での達成」で、全評価基準が世界1位のスコアだ。日本と最も違う点は、女性の専門職・技術職への進出(1位)が発展しており、管理職(9位)に進む環境も整っている。

政治面でも総体的な男女平等さは世界13位。女性国家元首の就任年数は世界5位だ。コラソン・アキノ第11代目大統領(1986~1992年)やグロリア・マカパガル・アロヨ第14代目大統領(2001~2004年、2004~2010年)と、女性の大統領が2人も誕生している。

アジア圏だけではなく世界水準という観点でも女性の社会進出が定着している第一の理由として、議員数の割合を一定に保つなど、女性の政治界進出を促す政策が挙げられる。

第二の理由は就労環境だ。全就労者の女性比率は日本と大差がないものの、管理職の割合は46.6%とおよそ半分を占めている。日本はわずか12.4%だ。

第三の理由は主要労働力の年齢層が若いという点にある。日本の国民平均年齢が46.1歳であるのに対し、フィリピンは23.5歳(2014年データ)。

それに加え、「女性=結婚=育児・家事」という概念が薄いといわれている。家庭とキャリアの板ばさみのような状態は稀で、標準的な家庭でも女性が働いている場合は、家事や育児を任せるヘルパーや家事代行サービスを利用するという。

つまり働く女性の多くが、気兼ねなくのびのびと仕事に打ち込みやすい環境が整っているということだ。

ただし順位は昨年から3つランクダウンしているため、格差解消への取り組みが後退しているのではないかとの懸念も聞こえる。

「専門・技術職」「高等教育」では世界一の中国

国際ビジネスの促進に積極的なシンガポールは アジア圏で6位だが、世界ランキングは65位まで落ちる。賃金面では男女平等(4位)で推定勤労所得(28位)も日本よりはるかに高いものの、働く女性の割合は低め(74位)で専門職・技術職に就いている女性も多くはない(77位)。

「政治権限付与」も101位。特に女性の官僚数は129位で日本よりも順位が低い。出生時の男女の割合がかたよっており(136位)、「健康・生存」も101位との評価だ。

興味深いのは近隣国である中国と の差だ。中国は世界100位だが、日本などが出遅れている領域「専門職・技術職」と「高等教育」では1位を獲得している。しかし男女の差が「出生率(144位)」や「平均余命(120位)」で際立つ。

「経済的参加と機会」の格差が少ない10カ国・地域

下記のランキングから、発展途上国の方が女性の労働力が発展していることが分かる。「生活を支える上で必然的に労働せざるを得ない」という風潮も、影響しているものかと思われる。

ここで首位となったブルンジは労働力、所得ともに世界1位。日本同様、初等・中等教育も1位だが、高等教育は133位と両極端だ。医療・生存率の格差が世界で最も低い点も、日本と共通している。日本と大きく異なるのは、政治面でも格差も低い(40位)点だろう。 先進国では女性の労働力が大きいとされている米国は19位、フィンランドは16位、スウェーデンは12位となった。

9位 ギニア 0.813
9位 ナミビア 0.813
8位 ノルウェー 0.816
7位 ルワンダ 0.820
6位 ボツワナ 0.822
5位 ベラルーシ 0.827
4位 ベナン 0.864
3位 バハマ 0.871
2位 バルバドス 0.877
1位 ブルンジ 0.911

政治的権限付与の格差が小さい10カ国・地域

政治的な男女平等性では欧州国が多数ランクインしている。

アイスランドではヨハンナ・シグルザルドッティル第41・42代首相(2009~2013年)、フィンランドのアンネリ・ヤーテンマキ第60代フィンランド共和国首相(2003年)、そして2005年からドイツ首相を務めるアンゲラ・メルケル首相など、いずれの国も女性が政治に介入する機会や存在感を示す機会が増えている。

10位 ドイツ 0.447
9位 フランス 0.453
8位 スウェーデン 0.486
6位 バングラデシュ 0.493
6位 アイルランド 0.493
5位 フィンランド 0.519
4位 ノルウェー 0.530
3位 ルワンダ 0.539
2位 ニカラグア 0.576
1位 アイスランド 0.750

教育面で男女格差が小さい10カ国・地域

日本が74位に甘んじている「教育面での達成度」では、27国・地域が1位となっている。米国、カナダ、デンマーク、オーストラリア、オランダ、フランス、フィンランド、ベルギーといった先進国だけではなく、ブラジル、ボツワナ、エストニア、モルディブなどの発展途上国も数多く最高スコアを獲得している。

日本のスコアはギリシャやマレーシア、スリナムと並んで0.991だ。しかしオーストリア(84位)、シンガポール(94位)、ドイツ(98位)、中国(102位)、韓国(105位)といった国よりは高い。

「健康・生存率」は日本を含む34カ国が最高スコア(0.980)で1位に。G7国で首位を獲得した唯一の国となった。コロンビア、ケニア、サルビアなど発展途上国の方が多いのは意外でもある。

この評価項目ではフランス(54位)、オーストリア(72位)、ノルウェー(80位)、米国(82位)、デンマーク(95位)など、先進国の順位は軒並み低い。英国(100位)、カナダ(105位)、スウェーデン(112位)、ニュージーランド(115位)、イタリア(123位)に至っては100位以下だ。

アジア圏は韓国(84位)、シンガポール(101位)、インド(114位)、中国は最下位の144位となった。

男女格差の最も大きい10カ国・地域

最後に男女格差の大きい国・地域を見てみよう。内戦や紛争が続き不安定な状態が慢性化している国・地域が多い。

10位 ヨルダン 0.604
9位 モロッコ 0.598
8位 レバノン 0.596
7位 サウジアラビア 0.584
5位 マリ 0.583
5位 イラン 0.583
4位 チャド 0.575
3位 シリア 0.568
2位 パキスタン 0.546
1位 イエメン 0.516
(アレン・琴子、英国在住フリーランスライター)