株主優待を低リスクで得ることのできる「クロス取引」をご存知だろうか?クロス取引は別名「優待タダ取り(実質的にはタダではないが)」とも呼ばれ、株価の値下がりのリスクなく優待を企業からもらえるということで投資の初心者をはじめとして大変人気のある取引である。
ただ、企業側は「株主優待は長期で投資してくれる投資家へのプレゼント」と考えていると思われるので、制度上可能とはいえクロス取引のみで優待を取得する投資家の存在は少々迷惑だと言わざるを得ないだろう。そのため最近では企業が「優待内容を変更する」という対策を取り始めている。
あからさまにクロス取引対策のための変更とは明言していないものの、クロス取引ができなくなる、もしくはクロス取引をする価値が明らかに低くなるという変更がよくなされているのだ。
そこで、今現在優待を取り巻く状況がどんなものなのかを解説し、一般に行われるクロス取引とその問題点や優待変更と今後考えられる優待の流れなどを記述してみたい。
株主優待が大流行 クロス取引に至っては証券会社までも……
株主優待は今テレビをはじめとした多くのメディアで大流行しているが、株主優待を低リスク獲得するクロス取引も流行っている。
もともとクロス取引は一部の投資家に人気があり、そこからだんだんと流行り始めたものだ。しかし今では証券会社までもが特設ウェブサイトを作り投資家へクロス取引を紹介するという一種のクロス取引ブームとなっている。
通常のクロス取引には「逆日歩」というリスクがあるが、基本的には株価変動のリスクなく優待取得できるので多くの投資家が実行しているのが現状である。まずはこのクロス取引の仕組みを簡単に説明する。
クロス取引の仕組み
優待にはあらかじめ決められた権利日が存在するので、その権利日1日のみ株を保有しておけば次の日に株を売っても優待をもらうことができる。しかし、たった1日の株式保有でも優待権利日の翌日には株価も大きく値下がりするのが通常だ。
そのため、値下がり損を防ぐため、あらかじめ優待取得したい銘柄を同じ株価で「現物の買い」と「信用の売り」でもち権利日またぐという取引をするのだ。現物の買いは株価が値下がりすると損失が生じるが、信用の売りは逆に利益が出る。
つまり株価がどんな動きをしようと、損益はプラスマイナスゼロとなる状態で優待を取得できるのだ。
ちなみにクロス取引には逆日歩のリスクがあり、たびたび問題視されるがこれは投資家間で生じる問題であり企業側にはほぼ無関係のため、ここでは取り上げない。
「権利日のみの保有でOK」に問題あり そのため企業は……
クロス取引における問題はそもそも、1日だけ株を持てば良い、というところにある。
企業側としてはなんとかしてクロス取引牽制の動きをしないと、企業の価値は上がらないのに優待だけを取られてしまうことになり、利益圧迫の要因となってしまう。
利益を得るために投資家を集めるための優待のはずが、逆に利益を圧迫するための優待となってしまうという皮肉な結果となってしまうのだ。
そこで企業は1日で得られる優待内容を改悪もしくは廃止して、長期で株を持つ投資家を優遇する制度へと移行を始めている。例えば次にあげる企業はすでに優待内容が変更となっている。
長期保有優待制度の実例 この動きは加速か?
以下2つほど優待変更の実例を挙げてみたい。
(1)日本取引所 <8697>
【変更前】100株保有で3000円のクオカード 【変更後】100株保有で1000円のクオカード 1年以上保有で2000円のクオカード 2年以上保有で3000円のクオカード 3年以上保有で4000円のクオカード
(2)全国保証 <7164>
【変更前】 100株保有で5000円相当のクオカードもしくは特産品 【変更後】 100株保有で1年未満3000円相当のクオカード 1年以上で5000円相当のクオカードもしくは特産品
と長期保有優遇への移行が進んでいる。最近ではオートバックスも似たような形で優待の変更がなされている
筆者の個人的な見解としてはこの動きは今後ますます進んでいくのではと考えている。
特にクオカード優待は配当とほぼ同じようなものなので、長期優遇制度への移行が進みやすい優待といえるかもしれない。
株主優待は企業を応援する投資家のためにあるようなものなので、優待の本来の姿へと戻ったと言えるかもしれない。各企業の優待制度の今後の動向からますます目が離せないといえそうだ。
谷山歩(たにやま あゆみ)
早稲田大学法学部を卒業後、証券会社にてディーリング業務に従事。Yahoo!ファイナンスにてコラムニストとしても活動。日経BP社の「日本の億万投資家名鑑」などでも掲載されるなど個人投資家としても活動中。個人ブログ「インカムライフ.com」。著書に「超優待投資・草食編」がある