シンカー:資金循環統計は、企業活動の強さを表す企業貯蓄率を計算することができるなど有用である。上昇がデレバレッジ(貯蓄、需要減)で景気下押し要因、上昇がレバレッジ(投資、需要増)で景気押し上げ要因となる。しかし、ある程度の計算が必要となるため扱いが難しい。ユーロ圏の資金循環統計で、企業貯蓄率の計算方法を解説する。ヨーロッパでは、日本と同様に、企業貯蓄率がプラスの異常な状態となっている。企業のデレバレッジや弱いリスクテイク力、そしてリストラが、企業と家計の資金の連鎖からドロップアウトしてしまう過剰貯蓄として、総需要を破壊する力となっている。企業貯蓄率に財政収支(政府貯蓄率)を足したものが、ネットの資金需要となる。欧州財政危機後、財政は緊縮方向で推移し、ネットの資金需要が消滅してしまったことも日本と似ている。一方、ネットの資金需要とインフレ期待が消滅する前に、大規模な金融緩和を含め、政策の手が打たれたことが日本との違いである。実質金利は明確に低下し、それが経済活動を支え、恒常的なデフレの縮小均衡に陥るのを防いだのかもしれない。資金循環統計は貯蓄・投資バランスを表すため、企業貯蓄率、財政収支、家計貯蓄率、国際経常収支(海外貯蓄率の符号を逆にしたもの)を足せばゼロとなる。誰かの金融資産は誰かの金融負債が裏づけとなっていることを表す。
① ユーロ圏資金循環データのデータ抽出
1) ECBのウェブサイトhttp://sdw.ecb.europa.eu/browse.do?node=bbn2343 にアクセスする。
右上の検索機能を使って以下のデータのコード番号を検索し、データをダウンロードする。Dateにデータの日付を入力(DD-MM-YYYY)。右の方のグラフの近くにある矢印をハイライトし、save as → csvを選択するとデータをダウンロードできる。
データコード一覧:
② ユーロ圏のGDPデータを抽出する。
1) 名目GDPデータ(原数値)をブルームバーグ(EUGNEMU Index)よりダウンロードする(四半期データ)。
2) 四半期累計を計算し、単位をbillion EURにするために1000で割る。
③ ユーロ圏貯蓄率の計算
1) 政府・家計・海外・企業の各部門別の資金過不足を計算する。
新しいエクセルのシートに上記①でダウンロードしたデータをコピーペーストすると分かりやすい。
a) 政府の資金過不足= Net lending/borrowing of General government
b) 家計の資金過不足=Net lending/borrowing of households
c) 海外の資金過不足=Net lending/borrowing of non-residents
d) 企業の資金過不足=Net lending/borrowing of Financial corporationsとNet lending/borrowing of Non financial corporationsの合計を計算する。
2) 各部門の資金過不足(上記a,b,c,d)の四半期累計をそれぞれ出し、単位をbillion EURにするために1000で割る。
3) 各部門ごとに貯蓄率を出す。上記2)で出した各部門の四半期累計の資金過不足を上記②の名目GDP(四半期累計)で割り、100を掛ける。
④ ネットの資金需要(トータルレバレッジ)の計算
上記③で計算した四半期ごとの企業貯蓄率と政府貯蓄率の合計がネットの資金需要(トータルレバレッジ)となる。
図)ユーロ圏ネットの国内資金需要
図)ユーロ圏家計貯蓄率
ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司
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