中国政府は11月、AI国家プロジェクトを認定した。自動運転、城市大脳(都市計画)、医療映像、音声認識の4部門である。この中には含まれなかったが、公共交通システムへのAI技術応用もかなりのスピードで進行している。

その象徴的な事例があった。12月上旬、「世界互聯網(インターネット)大会」に合わせ、上海申通地鉄集団とアリババ、アント フィナンシャルの三者が、戦略提携を締結すると発表したのである。アリババグループの最新AIテクノロジーを、上海地下鉄に導入していこうという内容である。その他、広州市や香港の地下鉄でもAI化計画は進行している。さらに路線バスや、鉄道、また無人運転バスの実験も進行している。

こうした現状についてニュースサイト「今日頭条」や「易網」などの各ネットメディアが伝えている。以下、中国の公共交通AI化の現状とその進展ぶりについて見ていこう。

上海地下鉄とアリババの提携

AI,中国経済,交通
(画像=TZIDO SUN / Shutterstock.com ※画像はイメージです)

国際的大都市である上海の地下鉄は17路線、367駅、営業キロ数はすでに世界最長クラスである。今後21路線780キロまで計画されている。そこへアリババが導入しようとしている技術は次のようなものだ。

まず「語音購票(音声識別でチケット購入)」。上海地下鉄の片道キップを買うとき、あまりにも複雑な路線図に、めまいを起こす人もいるだろう。アリババが今回展示した語音購票技術は、発券機に目的地を告げるだけで、キップを購入できる。例えば「私は、東方明珠塔へ行きたい。」と言えば、発券機は乗客に推奨路線と、最適な下車駅を知らせてくれる。乗客はQRコードのスキャンまたは、虹彩認証するだけでよい。全部でものの数秒間しかかからない。

このAI発券機は会話、発音のやりとりだけなら問題はない。しかし、“人山人海”(黒山の人だかりの意)といった字面だけでわからない真の意味までは、これまで識別できなかった。

ここでアリババ中の最も神秘的な部門といわれるIDST(Institute of Data Science and Technologies)の登場である。IDSTの誇るAI専門家、声楽専門家、コンピューター視覚認識の専門家などが大挙して出動した。そして「多模態智能語音交互解決方案」という研究成果につなげた。これによって声質や上記の問題を解決できるとしている。

片道キップを買おうと苦闘している情景を別にすれば、地下鉄を利用で頭の痛いのは、プリペイドカードを忘れたときだ。「刷臉進站」は、この面倒を解決してくれる。最新型自動改札装置では、新しいディスプレイが一つ追加されている。ここでほんの少し留まるだけで、虹彩認証は完成だ。扉は開き、乗客は改札を通過できる。このアリババの人臉識別システムは、国際的に公開されている計測基準によるデータでは、精度99,5%の好成績を挙げている。

ただし音声識別、虹彩認証はもう少し先になる。まず「Metro大都会」というスマホアプリを起動し、自動改札の読み取りでスキャンして、通過するシステムに取り組む。このシステムを2018年初めから、全17路線に順次導入していく。

もう一つ、智能客流監測(人の流れを観測して可視化)の最新技術についても導入される予定だ。

広州市に殴り込みをかけたアリババ

広州市の地下鉄は、中国で4番目に開通した地下鉄である。現在は10路線190駅、営業キロ数は309キロである。今後16路線677キロまでの建設が計画されている。

テンセントと広州・香港地下鉄

11月中旬、広州地下鉄とテンセントは、スマート交通に関わるあらゆる領域について“深度合作”することで合意している。上海+アリババの音声認識、虹彩認証ではなく、「Metro大都会」とほぼ同じ方式で、「乗車碼」というシステムである。碼とは記号や番号の意である。乗客はスマホでテンセントのSNS「微信」を開く。利用者10億人にせまろうという中国最大のSNSだ。その中にある「広州地下鉄乗車碼」をタップする。そのまま自動改札の読み取りにかざして改札を通過する。微信支付(テンセントのモバイル決済)で自動決済される。テンセント創業者の馬化騰は、自ら“広州地下鉄乗車碼”を利用して改札を通過するパフォーマンスを演じてみせた。

またテンセントは、香港鉄路有限公司と、微信支付並びに微信香港銭包との間で、モバイル決済に関する業務提携に署名した。香港の乗客に微信支付を利用した、乗車券購入体験サービスを始めた。香港地下鉄はイギリス式のコイン購入システムが残っており、利便性は格段に上昇するはずという。

広州市と香港は、深センに本社を置くテンセントにとっては、自分の庭のようなものだ。当然地元ならではのアドバンテージは少なからずある。

アリババと広州市政府

ところが広州市政府と、アリババ、アント フィナンシャルは、戦略提携協議に署名したのである。そして今月から、広州BRT(Bus Rapid Transitの略、ライトレール)および、南沙、花都、番禺地区の4000両の路線バスにおいて、支付宝QRコードのスキャンだけで乗車できるようになる。これはアリババが、初めてテンセントのホームタウンに殴り込みをかけた格好だ。今後の成行きについて、外野はひどく面白がっている状況だが、この決済方式においては、いずれ両者の併用となるのが世の流れだろう。

バスではテンセントが先行

テンセントはどのような戦略を描いているのだろうか。なにか隠し玉はあるのだろうか。

テンセントは12月上旬、重慶市の「長江ロープウェー」において、同じようなシステム“騰訊乗車碼”の導入に成功した。ロープウェーでは中国初だ。また他都市の路線バスでは、広州、青島、済南、合肥、佛山、常徳、汕尾、駐馬店、呼和浩特などすでに多数の都市で採用されている。

さらに最近話題の無人運転公共バス(スマートバス)「阿爾法巴」でも騰訊乗車碼の採用が予定されている。ここで少し阿爾法巴について見てみよう。

12月上旬「阿爾法巴智能運転公共交通システム」の試験走行が行われた。これは世界で初めて公道を利用して行われた、無人路線バスの実験である。人民日報系の人民網が大きく伝えているところからみて、相当な力の入りようである。

阿爾法巴は、深セン市海梁科技有限公司と深セン巴士集団、安凱客車、中興通訊、南方科技大学などの連合によって進められている。25人乗りの電気バスで、外見は普通のバスと見分けはつかない。実験はこのバスを使い、福田保税区内で行われた。全行程1.2キロ、3つの停留所を、8~10分かけて走り抜けた。

阿爾法巴は、今回の公道テストの前、すでに4カ月間、累計8000キロに及ぶテストを行っていた。そこでは公道試運転に必要な水準は、すべて達成していたという。

国家のAIプロジェクトに入選したのは、百度(バイドゥ)の無人運転プロジェクトだった。テンセントは直接チームには加わっていないが、地元深センの自動運転プロジェクトの成果は、しっかりものにするつもりである。しかし、これがアリババ対抗の隠し玉なのかどうかは分からない。

鉄道ではアリババが先行、

鉄道切符のオンラインで購入は、中国鉄路客戸服務センターの通称“12306ネット”にアクセスして購入する。支払いは、工商銀行、農業銀行、中国銀行、建設銀行、招商銀行、郵儲銀行、中国銀聯、中鉄銀聯卡、支付宝の9つの中から選ぶ。その支払い手段の中に11月から、微信支付が追加された。この分野では、リードしていたアリババに、テンセントが追いついた形である。

支付宝は、早くも2013年11月、12306サイトでアクセス可能となっていた。2016年初めには、システムをレベルアップし、支付宝花唄が利用可能となった。花唄とは、アリババグループのアント フィナンシャルの扱う消費者ローンである。現在支付宝経由の鉄道切符購入は、20%が花唄を使用している。同年12月には、鉄道駅の窓口や自動販売機でも、支付宝が使えるようになった。鉄道部門では、支付宝が大きくリードし、グループの金融商品の収益にも貢献していたのだ。

メディアは微信支付による支払い開始を、一斉に歓迎している。2012年以降、鉄道キップのネット販売が推奨され、大きな鉄道駅では、微博や微信を通じて、予約開始や空席状況などの情報を発信するようになった。地方の風土や実情に合わせ、細やかなサービスを提案していた。微信は情報受発信の大切なプラットフォームだった。鉄道のサービス向上に貢献していたのである。高速鉄道網の延伸が寄与し、鉄道旅客はこのところ年平均35%伸びている。さらなる利便性の向上が望まれていた。こうした世相の後押しを受け、微信支付は進出したのだ。さっそく割引や、お年玉サービスを導入すると表明している。市場は活性化された。

公共交通の争奪戦は当面続く

こうして見てくると、アリババと上海地下鉄が導入を目指しているのは、やはり一段上のシステムである。その前段階である、(1)支付宝、微信支付のモバイル決済の争い、(2)「METRO大都会」「広州地下鉄乗車碼」などの乗車アプリの争いはどうなるのだろうか。

(1)では鉄道において、支付宝、微信支付の両立が確定した。併用は世の流れである。ほぼ争いは引き分けで決着しそうである。(2)では、各公共交通事業体とアプリ開発、使用の契約を結び、利用者にダウンロードしてもらう必要がある。ここが当面の主戦場となりそうだ。この決着はまだまだ先というのに、アリババはさらに上級プロジェクトを披露した。テンセントには無人バス以外の隠し玉があるのだろうか。ここまで両者の争いは中国AI化最大のエネルギー源であった。その局面に変化は出てくるのだろうか。

ひるがえって日本の状況はどうか。現時点の公共交通システム事業体で、音声認識や虹彩認証の導入まで考えているところがあるだろうか。日本の暮らしではクレジットから交通系からポイント系まで、カードは溜まる一方である。いちいち探すのは大変だ。逆に中国は何もかもスマホ一つで済まそうとしている。対照的な光景が現出しつつある。(高野悠介、中国貿易コンサルタント)

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