「別居している間に妻が妊娠した」——。このように明らかに夫の子どもでない場合、どんな手続きが必要なのだろうか。たとえば別居している夫婦が、別居を解消して子供を育てていくなら問題はないだろう。しかし別居していても婚姻関係があれば、夫の戸籍に入ることになる。ゆくゆく離婚をするなど、子どもを夫婦で育てるつもりがないなら、夫の戸籍に入れないための手続き(親子関係不存在の確認)が必要になる。

なぜ戸籍がない子どもがいるのか?

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(画像=MR. Nattanon Kanchak / shutterstock.com)

契約や相続など、人の生活全般にわたる事柄を規定している法律が民法である。その中の家族法と呼ばれる分野では、様々な決まりがある。

例えば民法第772条の第1項には、「妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する」と書かれている。つまり、夫婦が結婚している間に妻が妊娠した場合には、生まれてくる子どもは夫の子どもであるという意味である。なお、推定すると書かれているのは、そうではない明白な証拠がある場合には、適用しないことを意味している。

また同じく民法第772条第2項では、「婚姻の成立の日から200日を経過した後又は婚姻の解消若しくは取消しの日から300日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定する」と書かれている。

ここでは、結婚、離婚と妊娠との関係を具体的な日数で明確にしている。結婚して200日以降、あるいは離婚して300日以内に生まれた子どもは夫の子どもであるということを意味している。この規定にも推定するとあるので、明白な証拠がある場合には、適用されない。

しかし、この2つの規定によって、日本で戸籍を持たない子どもが存在している。発展途上国ならいざ知らず、先進国の日本でなぜ戸籍を持たない子どもがいるのかと、多くの人が疑問を持つかもしれない。

例えば、夫からDV(家庭内暴力)を受けた妻が、離婚が成立しないまま別居していたとする。その間に、別に交際している男性との間に子どもができ、出産した場合には、まだ夫との離婚が成立していないのだから、民法の規定に則って生まれてきた子どもは夫の子どもとなる。

そのまま出生届を市区町村役場に提出すると、戸籍上夫の子どもになってしまう。そうなることを避けて、出生届を出さない妻が存在するのであるが、そうなると生まれた子どもは戸籍を持たないことになり、当然住民票にも記載されないことになる。

戸籍を持たない、住民票にも記載されないとなると、最低限の社会的な保障や行政サービス、例えば保険証の取得や健康診断の受診ができなくなる。また、就学年齢になっても、自治体の名簿に記載されていないため、小学校に入学することもできない。

そんなに不便なら、一旦出生届を出して、その後に夫の戸籍から離脱する手続きを取ればいいのではないかと、思う人が多いかもしれない。しかし、夫の戸籍から離脱するには、家庭裁判所に対して、親子関係不存在の確認の申し立てをしなければならない。

また、そもそも出生届を出したり、妻から親子不存在の確認の訴えを出したりすることで、妻の現住所を別居中の夫が知ってしまう可能性も出てくる。このようなことから、子どもが生まれても出生届を出さず、結果的に戸籍を持たない子どもがいるわけである。

親子関係不存在の確認とは?

ところで、婚姻中に妻の出産した子どもが明らかに自分の子どもでないと分かった場合、夫は子どもと親子関係を解消することができる。これが、親子関係不存在の確認と言われるものである。

実際には、家庭裁判所に訴えを起こし、正式に認めてもらう必要がある。親子関係にはない旨の決定が出されると、法律上でも戸籍上でも親子の関係を解消できる。つまり、今まで夫の戸籍に記載されていた子どもの戸籍が抹消されることになる。

そうなると、当然ながら父親が亡くなっても子どもには相続権がなくなる。また、夫がその子どもを扶養する義務もなくなってしまう。つまり、全くの赤の他人になるのである。

どのような手続きが必要か?

まず親子関係不存在の確認の手続きをご説明する前に嫡出否認の訴えについて触れておきたい。

通常、夫婦が婚姻している間に妊娠して生まれた子ども、あるいは離婚後300日以内に生まれた子どもは、法律上で嫡出子と言われる。もしこの場合に、父親が自分の子どもではないと主張するには、嫡出子否認の訴えを起こすことになる。

つまり、嫡出子否認の訴えとは、法律上父親の子どもだと推定される場合に、それを否定する手段として、取られるものである。なお、この申し立てができるのは父親だけであり、子どもの出生を父親が知ってから、1年以内で行わなければならない。

一方、様々な状況から、明らかに夫婦の子どもではないという場合には推定の及ばない子ども、さらに婚姻後200日以内に生まれた場合には推定されない嫡出子とされる。このような子どもについて、自分の子どもではないことを法的に認めてもらうためには、親子関係不存在の確認の訴えを起こすことになる。

なお、この親子関係不存在の確認は、法律上の父親の他に、母親、子ども本人、実の父親が申し立てることができる。また、嫡出子否認の訴えと違って、申し立て期限はない。つまり、いつでも申し立てができるのである。

親子関係不存在の確認が家庭裁判所で認められるためには、夫婦の子どもではないという明らかな証拠が必要となる。例えば、以下の事柄を証明しなければならない。

・子どもが婚姻200日以内に生まれた ・父親が服役中に妊娠した ・夫が失踪等の行方不明中に妊娠した ・両親が別居中に妊娠した ・父親と子どもの血液型やDNAが違う ・妊娠時に夫が生殖不全だった

以上のいずれかを証明する資料を添えて、家庭裁判所に訴えを起こすことになる。ただ、いきなり裁判になるわけではなく、まず当事者同士での話し合い、調停が行われる。ただこの調停で、当事者が親子でないと認めても、それで決定となることはない。

あくまでも、科学的根拠を示す資料に基づいて、審判を行うことになる。一方、調停での合意が得られない場合には、訴訟ということになり、裁判で決着することになる。

民法では、実態よりも法律上の「婚姻」を重視するため、しばしば現状と合致しない事態が生じてくる。この親子の推定はその典型とも言える。ただ、DNA鑑定の普及によって、以前ほど紛糾するケースは少なくなっている。(井上通夫、行政書士)

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