米国でも不動の人気を誇るビールだが、近年のトレンドはノンアルコールや低アルコール系に移行し、2016年2月〜2017年1月にかけて最も売れたビールのトップ3を、バドライトやクアーズライトなど「ライト」と呼ばれる代替ビールが占める結果となった。トップ10入りしたアルコール度数が通常のビールは、バドワイザーとアンハイザー・ブッシュ、ブルームーンのわずか3ブランドしかない。

こうした新たな潮流はミレニアル世代を中心に全米に広がりつつあり、量より質重視するビール愛飲家の間では、小規模なビール醸造所で製造されている「クラフトビール」の人気も高まっている。ランキングは統計サイト・スタティスタ が集計したもの。

米国で最も売れているビール12ブランド

ビール,低カロリー,ヘルシー
(画像=Thinkstock/GettyImages)

12位 イングリング・トラディショナル・ラガー 1.49億ドル
11位 キーストーン・ライト 1.60億ドル

10位 ブルームーン・ベルジャン・ホワイト・エール 1.64億ドル
9位 アンハイザー・ブッシュ 1.94億ドル
8位 ミラーハイ・ライト 1.95億ドル
7位 アンハイザー・ブッシュ・ライト 3.21億ドル
6位 ナチュラル・ライト 3.36億ドル
5位 ミカロブ・ウルトラライト 6.31億ドル
4位 バドワイザー 7.17億ドル
3位 ミラーライト 8.99億ドル 2位 クアーズライト 10.6億ドル
1位 バドライト 23.0億ドル

ビールの売上増は値上げが原因?

ニールセンが小売店から集計したデータ によると、米国におけるビールの年間売上(2017年2月25日までの1年間)は370億ドルを突破。世界で最も消費されている飲料、水のおよそ3倍にあたる金額だ。

しかし近年のビールの売上増に関しては、消費量が増えたというよりも小売価格の値上げが原因と指摘されている。特にミレニアル世代はビールよりもワインやスピリッツを好み、総体的に健康趣向が拡大中だ。通常のビールよりもカロリーや脂質、糖分を抑えた代替ビールの人気が急上昇するのも不思議ではない。

それと同時に小規模なビール醸造所で製造されている「クラフトビール」も注目を浴びている。2013〜2016年にかけて売上成長率は3%ポイント増の18%に達した。総体的なビールの売上成長率(1.3〜3.5%)と比較するとその差は歴然としている。

日本であまりなじみないアンハウザーブッシュのブランド、ミカロブやナチュラル

ランキングは米国のアルコール消費者間における嗜好の変化を反映している。通常の量販ビールは不健康なイメージが色濃いのに対し、代替ビールやクラフトビールは比較的ヘルシーで現代風なイメージだ。上位は大手メーカーによるライト版が占めており、通常のビールがなんとか踏ん張っている—といった印象は否めない。

日本ではあまり見かけないブランドもいくつかランク入りしている。5位のミカロブは、アンハウザーブッシュがバドワイザーのスーパープレミアム版として1896年に立ち上げたブランドだ。

6位のナチュラルも同じくアンハウザーブッシュ系列。同社はほかにもベックス、バス、ステラ・アルトワ、ローリングロック、セレクト55、キングコブラなど多数のブランドを市場に送りだしている。米国のキリン一番搾りもアンハウザーブッシュが製造している。 11位のキーストーンはクアーズが販売するブランド。クアーズは1873年コロラド州で設立され、2005年にカナダのモルソンと合併。現在はモルソン・クアーズに社名を変更している。

ビール愛飲家を魅了する米国最古の職人の技、イングリング・アンド・サン

ビール市場の新たなトレンドに力強く対抗しているのは、イングリング・トラディショナル・ラガーだ。製造元であるイングリング・アンド・サンは1892年に設立された米国最古のビール醸造所で、国内最大のクラフトビールメーカーでもある。

1920〜1933年の禁酒法時代は、低アルコール飲料の製造や乳製品の販売で切り抜けたそうだ。

ペンシルベニア州に本醸造所を置き、東海岸を中心に流通しているが、最近はオンラインでも購入できる。事前に申し込めば、子どもから大人まで工場見学も歓迎してくれる。

年間1.59億ケースのワインを消費するミレニアル世代

今後ビール市場はライト版とクラフトが主流になっていくのだろうか。通常のたばこから電子たばこなど次世代商品へ移行しつつあるたばこ市場や、プレミアムコーヒーの販売が急激に伸びているコーヒー市場をほうふつさせる。

フォーブス誌の報道によると 、ゴールドマン・サックスは今年にはいり、サミュエル・アダムズなどで有名なボストン・ビール・カンパニーの格付けを「ナチュラル」から「売り」に、コロナを買収したコンステレーション・ブランズの格付けを「買い」から「ナチュラル」に下げている。さらにはボストン・ビール・カンパニーの今後12カ月の目標株価を20%、コンステレーション・ブランズの目標株価を6%引き下げた。米国のビール市場自体が0.7%落ち込むとの予想に基づいた判断だ。

ビール市場の失速の原因として、世代と風潮の変化が挙げられている。新たな主要消費者ターゲットであるミレニアル世代はビールよりもワインやスピリッツを選ぶ傾向が強く、2015年には米国で消費されたワインの42%に相当する1.59億ケース以上のワインを消費した(ワインマーケット・カウンシル調査 )。

ビールを追いあげるワイン人気は、手頃で美味しいワインが市場に多く出回り始めたことや、ポリフェノールなど健康効果がメディアで取りあげられる機会が増えたことに起因するようだ。パッケージも洗練されたものが多く、産地や熟成期間で様々な異なる風味を楽しめる醍醐味も大きい。若い世代を魅了するマーケティング戦略の勝利といったところだろうか。(アレン・琴子、英国在住フリーランスライター)